あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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子供のように声を上げて

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なお、キトゥハの娘が『自分は天涯孤独だ』と嘘を吐いたのは、ここでも、結婚の際には、

『相手の親に挨拶に行く』

という習慣が存在するからである。しかも娘が好きになった人間の男はとても誠実なタイプで、親が存命だと言えば、たとえどんなに離れたところに住んでいようとも万難を排して挨拶に行こうとするからだった。

同時に、たとえ娘が獣人であろうとそれを理由に見下したり嫌悪したりしないというのは分かっていた。実際、病床において、

「君が何者であっても、僕は君を愛している……ただ、世の中というヤツは思うに任せないところだからな……子供達が幸せに生きられるようにしてほしい……僕の両親のことは兄達に任せてくれればいいから……」

と告げて、自身の女房が獣人であることを察しつつも愛していたと窺わせる言葉を残している。

キトゥハの娘は、自分の選択が間違ってなかったことを知り、このような形で愛する男を亡くすことは途轍もない不幸でありつつも、同時に途方もない幸せの中にいたことも染み入り、子供のように声を上げて泣いたそうだ。

彼の言うとおり、この世というのは本当に思うに任せない。彼やキトゥハのような者もいる一方で、イティラの両親やウルイの両親のような者もいる。だからキトゥハの娘は敢えて<自身が獣人であることを隠して人間のフリをするという嘘>を吐いた。吐くしかなかった。それが現実だ。

けれど、それをいくら嘆いても疎んでもすぐにこの世が変わってしまうことはない。今ある状況の中でより良い選択を行っていくことを心掛けるしかないのだ。

他人が、世の中が、都合よく変わってくれないのなら、自らが幸せを掴めるような者になるしかない。

キトゥハはそれを心掛け、それがイティラやウルイを救った。

いや、正しくは、

『自分で自分を救えるヒントをもたらした』

と言うべきだろうか。たとえヒントを示されていたとしても活かせなければ結果として幸せを掴むこともできないのだから。

キトゥハの娘のように、上手く他者と折り合い、諍いを起こさないように努めていても、避けようのない不幸が訪れることもある。なのに、それに加えて自ら不幸を招くようなことをしていては、それだけ幸せが遠ざかってしまう。

『自分は不幸だ!』

として他者や妬んで八つ当たりするような真似をすれば余計にトラブルを招くのは、身近な事例からも学べるはずだ。

だから、キトゥハは、夫を亡くした娘をあたたかく迎え入れ、大きく傷付いたその心を癒すことに残りの人生を費やす決心をした。

なにしろ娘をこの辛いことの多い世の中に送り出す決断をしたのは自分なのだ。その自分が傷付いている娘を放っておいてどうするというのか。

それだけの話なのだった。

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