あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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碌でもないただの人間

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獣人の集落が人間の軍に攻め込まれ滅ぼされたなどということがあっても、イティラとウルイの毎日には全く変化はなかった。何か気分を盛り上げる<イベント>などなくても、イティラは毎日が楽しい。

「ウルイ~♡」

耳鬼みみおに>と思しき病を患った時にウルイに対して『好き』と言えたことで、彼女は、自分の気持ちをまったく隠さなくなった。元々、特に隠していたわけではなかったもののより一層、正直になったと言うべきか。

一方、ウルイとしては、

『身近に他に男がいないからな。だから、他に出逢いでもあれば気が変わるだろう。俺みたいな愛想の悪い男など選ぶ必要もないし……』

年頃の娘にありがちな<気の迷い>と捉えていた。男女の機微には疎いものの、仮にも十二までは人間社会で暮らしてきたので、多少はその手の話も耳にしていたからだ。その中でも、

『女は気まぐれで、すぐに心移りする』

とか、

『若いうちの好いた腫れたは三日病(二~三日で治る軽い病)のようなもの。時間が経てばケロリと治る』

とかについては、ウルイ自身、周りでそれらしい事例を目にしてきたので、妙に納得できていた。

ゆえにイティラの気持ちについても、一時的なものだとして、単に、

『父親と仲のいい娘のようなもの』

とも考えるようにしていた。

そもそも、イティラとは倍以上も歳が離れている。早々に結婚していればそれこそ自分にもイティラと同じくらいの歳の娘がいてもおかしくないのだ。彼女のことを<自分の子>とは思っていないものの、だからといって<異性>としても捉えていなかった。

彼女に<月の物>が始まって、血で家が汚れても、

「気にするな。そういうものだ」

と言って平然としていた。彼が働かされていた場所でも、仕事そのものは別だったが何人もの若い女性がいて、よく、

「あ~もう、面倒臭い!」

などと文句を言いながら足を大きく広げて綿を詰め込んでいる姿も見かけていたので、見慣れていたというのもある。

もちろん、そんな女性ばかりではなかったものの、少なくとも彼が住んでいた辺りはそもそも品のいい土地柄ではなかったこともあり、そういうものだったようだ。

改めて教わる必要もないほど、ありふれた光景だったのだ。

それもあって、ウルイ自身、女性に対しておかしな幻想も抱いていなかった。

男も女も、体の作りが多少違うだけで、本質的にはどっちも<碌でもないただの人間>としか認識していないというのもある。

だから獣人も大して違わないとも考えていた。

ウルイは、<人間>とか<獣人>とかいう括りで相手を見ない。そういう見方をしないキトゥハに倣って。当人がどういう者であるのかだけを見る。

それがまた、イティラにとっては心地好いのだろう。

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