あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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従う理由など

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イティラは確かに獣人だ。しかし、実の両親や兄姉からは見下され欠陥品扱いされて虐げられてきたのだ。しかも、人間にも獣にもなりきれない、鼠色の毛皮に虎縞と、獣人に生まれた意義など碌に感じ取れもしない体だった。

そんな自分が『獣人のために』とか、意味が分からない。ウルイやキトゥハは自分を認めてくれたが、それはあくまで<イティラという者>としてであって、獣人としてどうこうというものじゃないことは、まだ子供ではあるイティラにさえ分かっていた。

それを<こいつ>は、まるで道具のように使おうとしている。使おうとしているのがイティラにも分かってしまう。そんな者に従う理由など、鼻糞ほどもなかった。

正直なところ、自分に大きな力が備わっていればそれこそ今ここで<こいつ>をぶちのめして泣いて謝るまで締め上げてやりたいという衝動が彼女の中に湧きあがっていた。

けれど、

『こいつ、ものすごく嫌な奴だけど、たぶん強い。私じゃ勝てないくらいに……!』

感情的になりながらも同時にそんな風に冷静に分析もできていた。

なにしろ、ここまで近付くまで自分に悟らせなかったということは、それだけの動きができるということであり、それができる者が弱いはずがないのだから。

目先の感情に振り回されて冷静な判断ができなくなったりしないように手本を示してくれたウルイのおかげだ。

と同時に、イティラには予感があった。

『たぶんもう、ウルイはどこかから見てて、あいつに狙いを付けてくれてる。ウルイと一緒なら、戦える……!』

そう考えて、ウルイならどこからどういう風に狙うのかを、考えた。それも合せて、撤退のルートを考える。

けれど、その時、スッと青年の姿が消えた。

「え……っ!?」

いや、違う。『消えた』のではない。イティラの予測を上回る動きをしたことで、彼女の脳が捉えきれなかったのだ。

ゾクリと冷たいものが背筋を奔り抜ける。

『ヤバい!』

直感に従い、イティラは体を弾けさせた。直後、今の今まで彼女がいた場所に、青年が降り立つ。

おそらく、そのままそこにいたら、頭でも蹴られて昏倒していただろう。

「ほお…? いい反応だ。これは<子袋>としてだけじゃなく使えるかもしれん」

青年は、

『思わぬ拾い物をした』

とでも言わんばかりにニヤリと唇の端を釣り上げた。それがまた、美麗であるにも拘らず最高に気に障る。

『この…クソッタレがぁ……っ!!』

あまりの腹立ちに、イティラの全身の毛が逆立つ。濡れているにも拘らず、体が一回り大きくなったかのようにさえ見える。

獣人が本来備えている<攻撃性>が、イティラの体を支配しつつあったのだった。

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