あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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驚嘆

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イティラの<攻撃性>は、普段は狩りの時にしか見せられない。ウルイに対してはほとんど見せることもない。<月の物>の影響でやや機嫌が悪い時に睨み付けるような視線を向けるくらいだ。

なのに、この時の彼女は、完全に<外敵と向き合う獣>そのものだった。

どうあっても受け入れられないのだろう。

かつて自分を虐げていた実の両親や兄姉と同じく明らかに蔑む視線を向けてくる<そいつ>のことは。

すると<そいつ>は、ゆらりと体を揺らめかせたかと思うと、一瞬でイティラの目の前に迫った。

「!?」

それと同時に、彼女の腹に衝撃が。

<そいつ>の左の拳が彼女の腹を捉えたのだ。しかしイティラも、反射的に後ろに跳んでいたので衝撃は軽減され、大きなダメージにはならなかった。

けれど、反応が間に合っていないのも事実である。完全には躱せなかったのだから。

「く……っ!」

この一合だけで、イティラは悟った。

『ダメだ、勝てない……!』

と。

『自分だけでは勝てない』

と。

だから逃げるだけだ。逃げる以外に手はない。

けれど、今の動きを見るだけでも、逃げて逃げ切れる相手でもないことも分かってしまう。

となれば、戦うしかない。戦って死中に活を見い出すしかない。

さりとて、正面からぶつかるのも無謀以外の何ものでもない。

ゆえに信じた。ウルイがすでに必殺の一撃を狙ってくれていることを。

だが、もし、そうじゃなかったら……?

ウルイがここにいなかったら……?

その時には、自分は『お終い』だ。命があったとしてもこの<クソッタレ>に捕えられて酷い目に遭わされるのは間違いないだろう。

それを想像すると心が折れそうになるものの、そんな自分に、

『弱気になるな! 私!! 最後まで諦めるな!!』

と喝を入れた。

瞬間、<そいつ>が再び体を揺らめかせた。

が、

「ぬ……っ!?」

<そいつ>は何かを察したか、左腕を自身の胸の前に掲げた。掲げたと同時に、そこから細い棒のようなものが生える。

いや、ちがう。<矢>だ。突然、矢が<そいつ>の左腕に刺さったのだ。しかも矢は腕を貫通し、胸にまで食い込んでいた。

「バカな……!? 矢だと!? この俺が、矢で射られたというのか……!?」

<そいつ>が、明らかに驚嘆した。その時、

「動くな……! その矢は、お前の心臓をかすめている。下手に動くとやじりが心臓を切り裂くぞ……!」

決して大きくはないが強い意志が込められた言葉が、<そいつ>の耳を打つ。

ウルイだった。ウルイの声だ。

しかし、姿は見せない。姿は見せないままで、

「俺は今、お前の頭を狙っている。この距離では俺は決して狙いを外さない。そして躱すために動けば刺さった鏃が心臓を切り裂く。死にたくなければゆっくりと下がれ。そして二度と俺達に関わるな。そうすれば見逃してやる……!」

はっきりと告げたのだった。

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