あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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欲しい言葉

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イティラを獲物として狙っていた狼は、逃げた。新たな<敵>が現れたことで自身の優位が失われたと察した瞬間に、全速力で。

むしろ見事な撤退っぷりだっただろう。

おそらく、だからこそ今まで生き延びられてきたのだと思われる。

ただ、イティラの方は少し元気がなかった。

茂みの中からウルイが姿を現し、

「無事か……?」

と問い掛けてくれても。

「うん……大丈夫……」

どこか寂しげに応えるだけだ。

そんな彼女の様子に、今度はウルイが困ったような表情になる。

「どうした……? どこか痛むのか……?」

イティラのことをずっとしっかりと見てきたウルイだからこその気遣いだった。僅かでも様子が違えば彼には分かってしまうのだ。

すると、彼女も観念したように。

「怪我とかじゃないんだ……たださ、結局はウルイに助けられちゃったな~と思って……」

そう。イティラは、ウルイを守れる自分を目指しているというのに、いまだにこうしてウルイに助けられてばかりなのが情けなかったのだ。

けれど、彼は言う。

「……俺は、いつだってイティラに助けられてるぞ……」

「…え……?」

呆気にとられて顔を上げた彼女に、ウルイは真っ直ぐ視線を向ける。

「俺はもう、イティラの助けがないと今の狩りは続けられないと思ってる。イティラの助けが必要なんだ。俺達は、二人で一人なんだと思う……」

まったく。不器用なくせにこういうことは躊躇せず口にする。

いや、不器用だからこそ、思ったことはそのまま口に出るのだろう。

聞く者が聞けばそれこそ<求婚>のようにも聞こえただろうが、ウルイ自身には実はそこまでの意図はなかった。ただ単純に今の実感を言葉にしただけだった。

けれど、それがイティラにとっては<欲しい言葉>となる。

「なんだよ……ズルイよ……せっかく頑張ったのにさ……無駄になっちゃうよ……」

拗ねたように口にしたものの、その顔はまぎれもない笑顔だった。

しかもウルイは、さらに続ける。

「無駄になんてならないさ。俺達狩人は、自分を高めることをやめたら、そこからすぐに衰えていくんだ。俺だって今でももっと腕を上げたいと思ってる。イティラはイティラで自分を高めていけばいい……」

ここまで言われたら、子供っぽく拗ねた自分が恥ずかしくなる。

「もう! ウルイのイジワル! べーっだ!」

「え……? いや、俺はただ本当のことを……」

突然のイティラの剣幕に、ウルイは戸惑うしかできなかった。思ったそのままを口にしただけなのに、いったい、何が気に入らなかったというのか……?

けれど、ウルイほどの朴念仁でなければ分かるだろう。

イティラは怒っているのではなく、ただ、自分よりも大人なウルイに甘えたくなっただけだというのが。

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