あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

文字の大きさ
82 / 126

その隙を

しおりを挟む
ウルイが出した<符丁>。それは、

『俺が囮になる。だからその隙を狙え』

というものだった。

見ればウルイは、弓も矢も手にしていない。丸腰だ。短刀さえ手にしていないのだ。

そのままで、狼達と孤狼とが入り乱れて戦っているところに近付いていく。

普通に考えればただの<自殺行為>に過ぎない。なのにウルイの動きに躊躇いはない。

むしろイティラの方が泣きそうな表情になっていた。

すると、丸腰のウルイが近付いていることに、狼達のボスが先に気付いて視線を向けた。それを察した孤狼もそちらに視線を向ける。

瞬間、弾かれたように孤狼が奔った。ウルイ目掛けて。

この中で最も確実に倒せる者から先に倒そうということなのだろう。

丸腰の人間を殺すなど、小鹿を仕留めるよりも容易いことを知っている動きだった。

その孤狼を、イティラが追う。けれど、追い付けない。

「ウルイ…っ!」

ますます泣きそうな表情で、イティラは必死に走った。その横をやはり隙を狙おうとしたのだろう、狼達のボスも奔る。

けれど、孤狼がウルイに襲い掛かる方が早かった。

「ヴォォアッ!!」

咆哮を上げながら、大きく口を開き、ナイフのような鋭い牙をウルイの首へと突き立てようとする。

が、

「!?」

孤狼の口に入ってきたのは、肉の感触ではなかった。それとは違う、冷たく固く鋭く痛い<何か>。

やじりだった。鏃が孤狼の口の中から頬を突き破って覗いている。

「アアアァアガアッッ!!」

孤狼の牙はウルイの首をかすめただけで、そのまま地面へと降り立つ。降り立ちながら、狂ったように頭を振り回す。矢を抜こうとしているのだろう。

そしてそこに、短刀を構えたイティラと、狼達のボスが。

「ギャオアッッ!!」

矢を口に差したまま、孤狼はイティラと狼達のボスを迎え撃つ。しかしさすがにその状態で同時に迎え撃つのは無理があったようだ。

イティラの短刀は躱したものの、

「ギイィッッ!!」

<痛み>そのものを音声にしたかのような声。

孤狼の首に、狼達のボスが喰らい付いていたのだ。

この上なく完璧と思える形で。

なのに―――――

なのに、孤狼は、その場で自身の体を猛烈に回転させ始めた。ウルイの矢を口に刺したまま。狼達のボスを首に喰らい付かせたまま。

まったくもって尋常じゃない。

そうして何回転かすると、矢が折れて、しかも鏃が地面に引っかかったか何かして、抜け落ちる。

さらには、狼達のボスも、たまらず牙を離してしまった。

瞬間、孤狼は体を起こして距離を取った。

しかし、そんな孤狼の視界に捉えられたもの。それは、いつの間にか弓と矢を手にして構えたウルイの姿。

と、頭で考えるより先に体が反応していた。

咄嗟に頭を下げて、横っ飛びする。

その孤狼の左の耳を、ウルイの矢が切り裂く。

頭を下げなければ、矢は、確実に孤狼の左目を貫いていただろう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

krystallos

みけねこ
ファンタジー
共存していたはずの精霊と人間。しかし人間の身勝手な願いで精霊との繋がりが希薄になりつつある世界で出会った一人の青年の少女の物語。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

Eカップ湯けむり美人ひなぎくのアトリエぱにぱに!

いすみ 静江
ライト文芸
◆【 私、家族になります! アトリエ学芸員と子沢山教授は恋愛ステップを踊る! 】 ◆白咲ひなぎくとプロフェッサー黒樹は、パリから日本へと向かった。 その際、黒樹に五人の子ども達がいることを知ったひなぎくは心が揺れる。 家族って、恋愛って、何だろう。 『アトリエデイジー』は、美術史に親しんで貰おうと温泉郷に皆の尽力もありオープンした。 だが、怪盗ブルーローズにレプリカを狙われる。 これは、アトリエオープン前のぱにぱにファミリー物語。 色々なものづくりも楽しめます。 年の差があって連れ子も沢山いるプロフェッサー黒樹とどきどき独身のひなぎくちゃんの恋の行方は……? ◆主な登場人物 白咲ひなぎく(しろさき・ひなぎく):ひなぎくちゃん。Eカップ湯けむり美人と呼ばれたくない。博物館学芸員。おっとりしています。 黒樹悠(くろき・ゆう):プロフェッサー黒樹。ワンピースを着ていたらダックスフンドでも追う。パリで知り合った教授。アラフィフを気に病むお年頃。 黒樹蓮花(くろき・れんか):長女。大学生。ひなぎくに惹かれる。 黒樹和(くろき・かず):長男。高校生。しっかり者。 黒樹劉樹(くろき・りゅうき):次男。小学生。家事が好き。 黒樹虹花(くろき・にじか):次女。澄花と双子。小学生。元気。 黒樹澄花(くろき・すみか):三女。虹花と双子。小学生。控えめ。 怪盗ブルーローズ(かいとうぶるーろーず):謎。 ☆ ◆挿絵は、小説を書いたいすみ 静江が描いております。 ◆よろしくお願いいたします。

処理中です...