あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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引き継ぐ者

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こうしてようやく穏やかな毎日が戻り、一ヶ月後、キトゥハは、イティラとウルイがメィニアの<遠吠え>により<その時>が迫っていることを知って駆け付けてくれたのを待っていたかのように、娘や孫達と共に見守ってくれている中、静かに息を引き取った。

クヴォルオが届けてくれた痛み止めはよく効いたらしく、とても穏やかに、ただ眠るような最後だった。

「じいじ、ねんね?」

まだ幼くて事情がよく分かっていないマァニハが母親に尋ねる。けれど、マァニハの母親であると同時にキトゥハにとっては娘であるメィニアは、

「あ…う……」

嗚咽で言葉が詰まり、上手く話せなかった。だから代わりに、

「そうだね。じいじはいっぱい頑張ったからいっぱいねんねするんだよ」

イティラがそう応えた。するとマァニハは、本当に眠っているようにしか見えないキトゥハの頭を撫でて、

「おやすみ、じいじ」

と声を掛けてくれた。

「……!」

その光景に、さすがにイティラも気持ちを抑えることができなかった。リトゥアも、そしてウルイでさえも。

キトゥハの息子達は、それこそ帰るまでにさえ何ヶ月もかかるほど離れた地で家族を作ったこともあり連絡すら取れなかったものの、そのこと自体は自然の中で暮らす獣人の男としてはむしろ普通なので、父親の臨終を看取らないことは責められるものではない。どちらかと言えば、<息子>と言ってもらえたウルイがここにいる方が特異な例ではある。

いずれにせよ、こうして<気高き獣人>キトゥハはその生涯を終えた。自身の命と高潔な魂を引き継ぐ者を得て。

『キトゥハ……あなたは俺にとっては最高の<父親>だった……

ありがとう……』

ウルイは、声に出さずそう告げて、彼を送った。もっとも、ウルイ自身も込み上げるものが抑え切れずに、声にならなかったのだが。



そうして皆で彼の死を悼んで、しばらくして落ち着いてから、彼の遺体をリトゥアが背負って山の中へと運び、見晴らしのいい場所に安置した。これにより、後は獣や鳥や虫が彼の亡骸を糧とし、キトゥハの命は山へと還っていくのだ。

これが、獣人としての伝統的な<葬送>だった。自らを自然の循環へと戻す儀式である。

その一方、最近では、人間に倣って土に埋める形を取ることも増えてきてるのだという。

しかし、さらにずっと昔には、

『仲間の死を看取った者達が亡骸を食う』

という形で送ったという話も、もはや<伝承>の類ではあるものの残されているが。

人間が獣人を畏れるのは、その伝承が原因にもなっているようだ。

<同朋の死肉を食らう邪悪な怪物>

として。

だがそれは、<感覚の違い>でしかない。獣人は人間よりもずっと自然に近いところで生きてきただけなのだ。死んだ仲間の亡骸を食べるのも、

『仲間の命を取り込むことで共に生きる』

的なニュアンスのものでしかないのだろう。

それを人間の感覚は<忌まわしいもの>と捉えてしまうだけなのだ。



キトゥハの遺体を安置し終え、イティラ達はキトゥハの家へと帰る。幼いマァニハは、家を出る時にはすでに母親の胸で眠ってしまっていた。

そしてキトゥハの家で休み、翌朝、

「もし何かあったら、呼んでね。私達も力になるから」

見送ってくれたメィニアとリトゥアとマァニハに、またさらに大人としての顔つきになったイティラが言った。同じ獣人として、ウルイよりも彼女の方が適任だとして、言葉を交わしたのだ。

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