JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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怨嗟の章

未来に向けて帆を広げ

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こうして人間の世界は終わりを迎えたかのように見えたが、先にも述べたとおり、人間というのもしぶとい生き物だった。

生き延びた者達の中にはアリーネのようにサバイバル技術を持つ者もいたし、山間の寒村で農業を営んでいた者達などは、電気が失われただけで、水はほとんど井戸水を使っていたし、焚火なども日常的にしていたので扱いに慣れていた。

文明が失われてしまっても、それに適応できる人間もやはりいたのだ。

ただ、残存した軍隊などの中では、今後の在り方について意見の対立が生まれ、政府が失われたことで文民統制の原則も崩れ、それはやがて、極地的な紛争レベルのものではあったものの<戦争>という形での衝突へと至った。

残念なことに、時間はかかったものの大まかな状況が分かるにつれ、野心のようなものを膨らませる者も出てきたということだ。そうして独自の指揮系統を作り上げた者達が、新しい世界での覇を目指したのである。

もっとも、補給も整備もままならない状態のものであったために戦火が大きく拡大することはなく、ゲリラ戦のような小規模な消耗戦が続くこととなったのだが。

そのようにして起こった戦争を始めとした混乱の中でさらに二億人の命が喪われつつも、十年ほどの時間を掛けてようやく落ち着きを取り戻し、人間達は小さな集落を築いて日々を送り始めた。

人類は、一億人から改めて再出発することとなったのである。



それからさらに二十年後。

僅かに数を増やし始めた人間の集落の一つに、<未帆>と名乗る女性がリーダーとなっているものがあった。

六人の子の母親でもあった未帆はとても逞しく、朗らかで、聡明で、力強かった。

「さあ! 今日も一日、張り切って働くよ!」

また、その彼女を支える四人の女性がいたのだが、彼女達についての話は、今は敢えて割愛させていただくこととする。

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