獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

『攻撃する側が有利』から『守る側が有利』へ

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ただ、今の地球人の社会は、

『攻撃する側にとって不利な』

それになりつつあります。

と言うのも、<社会全体にまんべんなく浸透したAI>が、テロリストをはじめとした<反社会的な存在>を厳しく監視するようになったからです。

すでに、インフラそのものすら一から構築する形となる殖民惑星では、<AIによるテロ監視網>が構築され、実際に効果を発揮しているという。

何しろ、一般的な家電製品でさえAIを搭載しネットワークに接続できないものはほぼ存在せず、しかもそのほとんどが人間の幼児程度の知能も備え、言動を理解し、もしテロ計画などを練っていようものなら、即、関係機関に通知するのですから。

ただ、ここまで来ると今度はまた、

『AIが人間を支配しようとしている!!』

と考える人達を刺激し、デモだけでなくテロまでもが頻発。なんとか折り合いをつけるために試行錯誤が繰り返され、いきなり治安機構に通報するのではなく、その前段階となる検証組織に情報がもたらされて慎重に精査され、確度と危険度が高いと判断されて初めて治安機構に情報が上げられる形に現在はなっているところが多いとか。

実は、<AIによるテロ監視網の構築>に抗議するためのテロが頻発したことで世論も改めて賛成に傾いたという皮肉な経緯もあったようですが。

そう。テロリスト達は、自分達の活動を困難なものにするであろうAIの存在を否定しようとしてかえって自分達の首を絞める結果になったとも言えます。

テロの歴史というのは実際にはそういうものですよね。テロリズムで自分達の目的を達成しようとして、でもそれは結局は人々のテロへの憎しみを駆り立てさせ、目的の達成を遠ざける。

私には、テロリストの気持ちなんて分かりません。と言うか、彼らが抱える理念なんて実は本当の目的ではなく、ただ世の中への憂さを晴らすために攻撃しているだけなのでは? と思えて仕方ないんです。

けれど、そんな彼らの攻撃性は、AIの監視網によって捉えられ、対処されてしまう。

かつては、

『攻撃する側が有利』

と言われたのが、今では、

『守る側が有利』

になっているという現実。

なにしろ、テロの準備をしている時点で炙り出されてしまうんですから、当然ですよね。

加えて、一般的なAIは、テロ行為には加担しない。そこでテロリストは、Aiによって制御されていない旧式な武器を使うことになる。そしてそんな特殊な物品を調達しようとすればその動きをまたAIは察知する。

これにより、多くの殖民惑星でのテロは、どんどん小規模化、散発化していっているとも。

けれどその一方で、私が住んでいた<イオ>などの、宇宙開発の黎明期に開発されたがゆえに社会インフラの更新が遅れている場所でのテロの脅威は続いていたのも、残念ながら事実ですが。

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