獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

変化を嫌う人々

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私達地球人の故郷たる<地球>においては、二十五世紀頃までには戦争は原則放棄されていたそうです。

『紛争の解決に戦争は用いない』

という形で。

ですが、火星が大規模なテラフォーミングによって人間の生活圏となると、

『地球での合意は火星までには届かない』

とばかりに、地球の大国にルーツを持つ各勢力の間で武力衝突が生じ、結果、三度もの火星全土を巻き込んだ<大戦>へと発展してしまったといいます。実に残念なことです。

とは言え、さすがに三度もの大戦は改めて人々に厭戦感をもたらし、火星においても戦争の放棄が合意されたのです。

こうして大規模な<全面戦争>は鳴りを潜めたものの、テロリスト達にはやはりそのような合意は届かず、続くことになりました。

その間にも地球人は生活圏を広げ、木星の衛星である<イオ><ガニメデ><エウロパ>、土星の衛星である<タイタン>も開発。生活圏としましたが、皮肉なことにテロの活動範囲もそれに伴って拡大。<テロとの戦争>は収束の糸口さえ見えない状態でした。

何しろテロリストは、地球人類が宇宙へと生活圏を広げれば、そのことにも抗議してテロを行うようになる始末。

もはや、<手段(テロ行為)>のために<目的>を探すという状態だったのでしょう。つまり、世の中への鬱憤を晴らすための行為としてテロはあり、<晴らすべき鬱憤>はなんでもよかった。

まったくもって不届き千万。

しかし、現にテロ行為がある限りはそれに対抗せねばならず、戦争は放棄されても軍の仕事はなくならなかったんです。

そしてこの頃はまだ、

『攻撃する方が有利』

という状況は確かにあったと言います。

この頃にイオも開発されたので、インフラの基幹そのものが古く、そこに暮らす人々の生活を維持しながらインフラを更新するというのは大変に手間も時間も費用も掛かり、一から新規に構築できるその後の植民惑星とはかなり事情が違ってしまっていたんです。

しかも、黎明期に開発されたこともあって住んでいる住人も何世代にも亘って住み続けている人が多く、そういう人達はどうしても変革を避けたがる傾向もあり、その点でもまた、インフラの更新が進まない要因にも。

それがテロの蔓延を許しているというのに、目先の自分達の慣れた暮らしが脅かされるのを嫌って、

『攻撃する方が有利』

という状況を変えられない。

実は、私の実家も、そういう、

<変化を嫌う人々>

でした。

私が軍を志望して家を出たのも、その辺りが影響していなかったと言えば、嘘になりますね。

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