獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
177 / 404
第二部

人間に牙を剥く理由がない

しおりを挟む
『理由があれば人を殺してもいい』

この概念を否定したからこそ、人間は、

<AIやロボットの反乱>

を招かずに済んでいる。とも言えるでしょうね。

かつては、

<人間以上に進化したAIやロボットが人間に反旗を翻すフィクション>

が数多く作られたと聞きます。いえ、実はその種のフィクションは今でも作られているのですが、かつてのそれに比べると<リアルさ>が失われている実感がありますね。

何しろ、AIやロボットのことを知れば知るほど、

『人間に牙を剥く理由がない』

ことが分かるのですから。

それは、『理由があれば人を殺してもいい』という概念を否定することができたのが大きい。

人間が『理由があれば人を殺してもいい』という概念を否定したのですから、その人間によって作られるAIやロボットが、『理由があれば人を殺してもいい』と考えるようにされるわけがないですよね?

軍用のAIやロボットも、先に触れたように、百を超える厳しい条件をクリアした上でなければ人間を傷付けることはできないんです。

しかも、それは、『積極的に人間を殺す』のではなくて、

<被害を拡大させないための緊急避難としての対処を実施した結果>

でしかない。

つまり、私達軍人に対して求められているそれをさらに高度に厳密に適用してるだけなんです。その上で、人間のように余計な感情に惑わされずに、文字通り『機械的に』対処するだけ。

そして、人間のように、<罪の意識>を抱くこともない。

淡々と、ただ淡々と、<被害を拡大させないための緊急避難>を実施する。

そして、

<『理由があれば人を殺してもいい』という概念を否定した人間>

は、AIやロボットにとっては<危険で愚かな生き物>とは映らない。

また、<『理由があれば人を殺してもいい』という概念>が否定されているからこそ、AIもロボットも、一切の<加害行為>を許さず、認めず、全力で人間を守ろうとしてくれる。

加害者側にどんな事情があろうとも。

ここが、人間の場合、

『<大国などの理不尽な迫害により苦しめられてきた人々>に同情してしまって、テロを容認する』

ということがどうしても起こってしまう。

けれど、今のAIやロボットはそれを認めない。加えて、

<大国などによる理不尽な迫害>

そのものを認めないし許さないんですよね。

なので、

<大国などに理不尽に迫害された者達によるテロ>

も非常に減った。

だけど今なお人間社会は<完璧>ではないので、それに対する不満を抱いた者によるテロは完全には根絶できていないこともまた事実。

でも、確かに減ってはいるんです。間違いなく。

しおりを挟む

処理中です...