獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
178 / 404
第二部

地球人類の生存戦略そのもの

しおりを挟む
理不尽に家族や大切な人の命を奪われて憤らない人はまずいないでしょう。ほとんどの場合は、<加害者>に対して苛烈な感情を抱き、復讐を望むでしょう。

今の人間社会は、決してその感情そのものを否定しているわけではないんです。

ただ、それでもなお、<『理由があれば人を殺していい』という概念>を否定する必要があったからこそ、戦争も死刑制度も放棄しました。

『地球人類という種が、これからも繁栄を続けるため』

に。

何しろ、

<反応弾頭付き質量弾>

というミサイルを使えば、惑星表面をズタズタに破壊し、それによってその惑星に住む人間とはじめとした生物のほぼすべてを抹殺することさえ可能なのですから、<『理由があれば人を殺していい』という概念>はこの結果を招くハードルを確実に下げるでしょう。

また、人間が<『理由があれば人を殺していい』という概念>を持つ限りは、人間によって作られるAIやロボットも、『理由があれば人を殺していい』と考える人間によって利用されることになるし、何より、かつて多くのフィクションによって描かれたように、AIやロボットが、<惑星ごと大量虐殺をできてしまう地球人類という種>そのものを危険視して、

『人間以外の種にとってあまりにも危険な存在である<地球人類>こそを排除しなければいけない』

という結論を出してしまう可能性だって十分にあったのです。実際、<『理由があれば人を殺していい』という概念>を否定しなかった場合を想定したシミュレーションを行うと、何度もその結果が得られたとも。

つまり、<『理由があれば人を殺していい』という概念>を否定するのは、決して<綺麗事>ではなく、<地球人類の生存戦略>そのものだったわけです。

さらに、AIやロボットを確実に<地球人類の味方>につけておくことで、

<外敵への備え>

もより強固なものとする。

AIとそれによって制御されるロボットは、古いフィクションによく描かれてきたような、

<敵の攻撃で呆気なくポロポロと撃破される、主人公の活躍を盛り上げるためのヤラレ役>

などでは決してありません。能力だけならすでに人間など足元にも及ばないくらいに高度に進歩しているんです。それは、実際の訓練でも立証されています。

士気も錬度も非常に高い百人の人間の中隊が、たった六体のロボットの小隊に手も足も出ずに撃破される。

という形で。

何しろロボットは、人間のように油断せず、人間のように感情に惑わされず、人間のように疲れず、人間のように休息を必要とせず、そして、人間が持つ<対ロボット用戦術>そのものも完全に理解できるのですから。

AIやロボットの黎明期であれば、なるほど人間には手も足も出ずに撃破されたかもしれません。

ですが、<軍>がそんな玩具おもちゃで納得するわけがありませんよね。

しおりを挟む

処理中です...