獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

法律上で親になるのと、親としてやっていけるってのは違う

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伍長は言うんです。

「子供が生まれりゃそいつは自動的に親になる。けどな、法律上で親になるのと、親としてやっていけるってのは違うんだ。『親は無条件に子供を愛すものだ』みてえなことをホザいてる奴らもいたが、臍が茶を沸かすってもんだぜ。子供を愛せねえ親ってのがいるのは事実だし、最初のやる気がいつまでももつ奴ばかりでもねえんだよ。俺の両親もそうだった。怪物みてえな俺を見て気持ちも冷めて、会いにも来なくなった。

世の中にゃそうやって離れ離れになった親子がなんだかんだで再会して親子の愛と絆を確かめ合いました。ちゃんちゃん。ってなお涙頂戴の話も多いけどよ、全部が全部そうじゃねえ。てか、実際にそんなのばっかじゃねえから、そうやってお涙頂戴の話にして値打ちがあるんじゃねえか。

たいがいにしろ。

子供を育てるってのは<ごっこ遊び>じぇねえんだよ。相手はペットじゃねえんだよ。自分とは別の人間なんだ。人間と人間の関係なんだ。てめえは誰とでも上手くやれんのかよ。そうじゃねえよなあ? 誰とでも上手くやれんならテロなんざねえし、紛争も起きねえんだよ。

親と子でも、人間同士なんだから上手くいかねえ時もある。当たり前じゃねえか。なんでそんな覚悟も持ってねえんだ? 俺にゃそれが理解できねえ。

俺はこいつを俺と対等な人間として扱う。こいつはまだ生まれたてで俺と同じことはできねえが、それは俺だって同じだった。俺だって成長して経験を積むことでできることが増えていっただけだ。そこはこいつも同じだ。俺とこいつは別の人間だが、俺と同じところだってもちろんある。そのどっちもを認めなきゃ話にならねえだろ」

見る見る出来上がっていく自分達の新しい家を見ながら、伍長は哺乳袋に入れた母乳を震電に与えつつ、語りました。

まあ私は、ティクラとルッセン、そしてザフリ達が模型を前にあれこれ検討しているのを見るためにそこにいただけですが。

ただ、伍長の言ってることは分からないでもありません。同時に、伍長は実際にそれができる人なんでしょう。これまでの様子を見ていただけでも。自分より弱い相手には丁寧に言葉で、と言うか、実際の自分の言動や振る舞いで手本を示そうとしますし、乱暴な振る舞いをするのは、自分と同等以上の力を持つと認めた相手だけなんですよね。

例えば、子供同士がケンカになっていても、力が拮抗してる者同士のそれなら見守っても、そもそもケンカにもならない、圧倒的に力に差がある、相手に抵抗する意思がないそれの場合だと、体を張って間に入って止めたりもするんです。

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