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初めてのランドセル
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朝、ニュースを見ようとテレビを点けると、ちょうど子供達の通学風景の映像が流れていた。それを見て桃弥は、
「これを、こんな風に背負って学校に行くんだ」
と、ランドセルを彼女に向けて掲げつつ簡潔にそう言った。真猫はまったく興味なさそうにしていたが、酷く抵抗することもなく、しかし明らかに嫌そうに彼に背負わされるままに従った。それでもさすがにその姿自体は、一見しただけならどこから見ても小学生の女の子だった。
彼女はランドセルが気になるのか何度も首を回しそれを見ていたが、やがて特に何かが起こる訳ではないことを理解したらしく、今度はランドセルを背負ったまま部屋の中を行ったり来たりしていた。それは、彼女が不安を感じていたり気分が落ち着かない時にする行動だった。不具合がある訳ではないがやはり気にはなるようだ。
『ふむ。これはあれかな。昔入学した時にはやっぱり小さかったことで余計に獣に近くてまったく合わせられなかったけど、ここまでの間に人間の姿を多少は学んだってことかな』
などと、彼女の様子を見ながら桃弥は考える。
なお、彼女の学校は、集団登校を行っていた。町内でいくつかのグループに分かれて集まり、まとまって登校する決まりになっていた。集合の時間の少し前、ケースワーカーの女性が訪れる。彼女と一緒に登校する為である。何しろ彼女は非常に特殊な状況にある児童なので、慎重の上にも慎重を期すことが望まれていた。
集団登校する為に集まっていた近所の子供達の前に、ケースワーカーの女性と桃弥に連れられた真猫が姿を現した。子供達も彼女もお互いに言葉もなく様子を窺っているのが分かった。
「今日から皆さんと一緒に吉泉小学校に通うことになった真猫さんです。仲良くしてあげてくださいね」
ケースワーカーの女性が明るく朗らかな感じでそう紹介したが、子供達は特に声を出して応えるでもなく、しかし頭は下げて一応の挨拶はしたのだった。そんな子供達に対して、ケースワーカーは、
「真猫さんは、ちょっとお話とかが得意ではありません。ですからにこやか学級に通うことになります。よろしくお願いしますね」
<にこやか学級>とは、吉泉小学校における特別支援学級のことである。それを聞いた子供たちの間に、『ああ、なるほど』という空気が広がるのが分かった。それからはもう、誰も彼女のことを意識しないようにしているのが感じられた。変に馴れ馴れしくせず、かと言って冷淡な態度も見せず、子供なりに無難な距離感を保とうとしてる様子が見て取れた。
そんな光景を見て彼は、
『こういうのを<調教されすぎた羊>って言うのかな』
などと、ややシニカルな感想を持ったりもした。それでもこうして彼女の初めての登校が始まったのだった。
「これを、こんな風に背負って学校に行くんだ」
と、ランドセルを彼女に向けて掲げつつ簡潔にそう言った。真猫はまったく興味なさそうにしていたが、酷く抵抗することもなく、しかし明らかに嫌そうに彼に背負わされるままに従った。それでもさすがにその姿自体は、一見しただけならどこから見ても小学生の女の子だった。
彼女はランドセルが気になるのか何度も首を回しそれを見ていたが、やがて特に何かが起こる訳ではないことを理解したらしく、今度はランドセルを背負ったまま部屋の中を行ったり来たりしていた。それは、彼女が不安を感じていたり気分が落ち着かない時にする行動だった。不具合がある訳ではないがやはり気にはなるようだ。
『ふむ。これはあれかな。昔入学した時にはやっぱり小さかったことで余計に獣に近くてまったく合わせられなかったけど、ここまでの間に人間の姿を多少は学んだってことかな』
などと、彼女の様子を見ながら桃弥は考える。
なお、彼女の学校は、集団登校を行っていた。町内でいくつかのグループに分かれて集まり、まとまって登校する決まりになっていた。集合の時間の少し前、ケースワーカーの女性が訪れる。彼女と一緒に登校する為である。何しろ彼女は非常に特殊な状況にある児童なので、慎重の上にも慎重を期すことが望まれていた。
集団登校する為に集まっていた近所の子供達の前に、ケースワーカーの女性と桃弥に連れられた真猫が姿を現した。子供達も彼女もお互いに言葉もなく様子を窺っているのが分かった。
「今日から皆さんと一緒に吉泉小学校に通うことになった真猫さんです。仲良くしてあげてくださいね」
ケースワーカーの女性が明るく朗らかな感じでそう紹介したが、子供達は特に声を出して応えるでもなく、しかし頭は下げて一応の挨拶はしたのだった。そんな子供達に対して、ケースワーカーは、
「真猫さんは、ちょっとお話とかが得意ではありません。ですからにこやか学級に通うことになります。よろしくお願いしますね」
<にこやか学級>とは、吉泉小学校における特別支援学級のことである。それを聞いた子供たちの間に、『ああ、なるほど』という空気が広がるのが分かった。それからはもう、誰も彼女のことを意識しないようにしているのが感じられた。変に馴れ馴れしくせず、かと言って冷淡な態度も見せず、子供なりに無難な距離感を保とうとしてる様子が見て取れた。
そんな光景を見て彼は、
『こういうのを<調教されすぎた羊>って言うのかな』
などと、ややシニカルな感想を持ったりもした。それでもこうして彼女の初めての登校が始まったのだった。
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