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リーネの章

なんて強力な<ストレス解消法>

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俺が思わず『美味うまっ!!』と声を上げたことで、リーネの表情がぱあっと明るくなった。

「よかった……」

としみじみ呟く。俺の舌に合うかどうか、心配だったんだろうな。だが、その心配は杞憂だったぞ。リーネ。

俺はついつい鍋にあった分のほとんどを食べてしまってから、

「あ…っ!」

と気付いた。リーネの分が残ってないじゃないか!!

「悪い! ついほとんど食っちまった……!」

これは本当に申し訳ない。作った本人を差し置いてほとんど食っちまうとか。もう一口分しか残ってねえ。なのに彼女は、

「トニーさんに喜んでもらえたらいいんです♡」

満面の笑顔で。くう! 眩しい!!

彼女がこんな笑顔ができること自体が、俺は誇らしかった。彼女にとって俺が不快で嫌な相手だったら、こんな表情はできないだろう。実際、出会ったばかりの時には明らかに怯えた様子だったし警戒してた。その必要がなくなったからこんな表情してくれるんだ。

前世でも、女にキモがられるのを、

『女は外見しか見てないからだ!』

とか言ってる奴らがいたが、いや、そうじゃねえ。確かに外見を見てるのは事実だが、それは<仕草>とか<表情>とかを含めた外見なんだ。キモがられるのは、仕草や表情がキモいからだよ。そしてそれはてめえの内面が表に出てるんだ。内面自体が表に漏れ出てんだ。

それに気付かねえかぎり、女は振り向いちゃくれねえ。

もっとも、俺の場合、外見はギリギリ『キモくない』程度で、それ以上にまっとうに稼いでたから、経済力目当てで女房は選んだんだろうけどな。それ以外、見るところがねえんだよ。自分でもそう思う。

とは言え、最初は女房も、俺を労わろうとしてくれてたよな……なのに俺は女房を労わってこなかった。そりゃ、女房としてもバカバカしくなってくるだろ。自分ばっかり一方的に労わって、なのに旦那はそれに胡坐かいてるだけなんだからよ。

はあ……やだやだ……

が、それが分かった以上、リーネを前世の女房と同じにするわけにはいかねえ。

「ありがとう……お前は本当にいい子だよな……」

本心からそう言えた。口先だけのお世辞じゃなく、本気でそう思ったんだ。

「いえ…! 私なんて……!」

リーネはそう恐縮するが、いやいや、マジでいい子だよ。そして、彼女が今の彼女でいられる俺であることを貫かなきゃと思えた。それがまた気分がいいんだ。

彼女が笑顔を見せられる俺だという実感が、俺自身を癒してくれる。なんて強力な<ストレス解消法>なんだ。

前世で気付きたかったよ。冗談抜きでな……

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