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暮らしの章

自惚れて思い上がる生き物

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まったくもって人間って奴は、なんかっちゃあすぐに自惚れて思い上がる生き物だ。<自分の考え>こそが社会を変革し多くの者を救うみたいな妄想に取りつかれる。

でもな、そんなことが本当に成功したことがあったか? 理想を掲げて自分の理念を力尽くで他人に押し付けて<暴力革命>で体制をひっくり返して、それで<理想の社会>が築けた例があったかよ?

ジャンヌ・ダルクは理想の世界を作れたのかよ? 

そんなもんは結局、権力が他に移って、<虐げられる者>が少しばかり変わっただけじゃねえか。<絶対君主制>から<議会民主制>に移行して、すべての人間が救われたのかよ? <社会主義>が、<資本主義>が、<楽園>を作り上げたかよ?

違うよな? 多少はマシになったとしても、なんだかなんだと苦しむ人間はいたじゃねえか。嫌な思いをしながら生きるしかなかった人間はいたじゃねえか。

俺の女房や、ゆかりみたいな。な……

だから、『社会ガー』『政府ガー』『制度ガー』なんて大風呂敷をいくら広げたって、本当の個々の人間を救えるのは身近な個人でしかねえんだよ。社会や政治や制度は、大まかな部分しかどうにかできないんだ。その網から零れ落ちちまう個人を助けられんのは、個人なんだよ。

誰かが自分の代わりに救ってくれることなんか期待すんな。結局のところ最後の最後は自分しか当てにできねえんだしよ。

つくづく、それを思い知らされる。

誰かに救ってもらおうって考えてる奴は、結局は誰も救えねえ。この世ってのはなんだかんだ言ってもそういうもんだ。だからどんな社会でも状況でも人間は生きてきて、暮らしてきたんだ。

前世でも、とんでもねえ<危険地帯>と言われるような、

『平和ボケした迂闊な外国人が入ったら二度と生きて出られない』

と揶揄されるような国や地域でも人間が生きて暮らしてたりするのは、そういうことじゃないのか?

誰かが自分の代わりに救ってくれることなんて当てにしねえ。自分と自分の家族は自分が守る。って考えてるから生きてられるんじゃねえのか?

そういう意味じゃ、ここはまだ、

『いきなり訳も分からず隣人にただの思い付きで殺される』

みたいなことまではねえ。俺がかつて暮らしていた村の連中やリーネやトーイが暮らしていた村の連中が戦争から逃れて避難してきた麓の集落で殺し合いが始まったのも、そこに至る何らかの<経緯>があったんだろう。ある日突然、いきなりバトルロワイヤルが始まった訳じゃねえと思う。

なら、今の村の奴らとも、子供をあんな風に使い捨てて死なせるような連中でも、折り合って生きていくしかねえ。

お互いに利用し合って生きていくしかねえんだよ。

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