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日常の章

気楽なもんだよ

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外じゃぼうぼう風の音がしてるが、直した屋根も何とか持ちこたえてくれてて、風呂場の中は快適だった。三人で浸かってると、本当にほっこりする。

「風が強いですね」

リーネが少し心配そうに言うのを、

「まあでも、屋根もガタガタ言ってないし、大丈夫だろ。壊れたらまた直せばいい」

俺は軽い感じでそう応えた。すると彼女も、

「そうですよね」

安心したように笑顔になってくれる。ああそうだ。壊れたら直せばいい。金を出して誰かに作らせた家じゃないんだ。自分達で適当に素人工作で作った<秘密基地>みたいな家だ。風が吹いて壊れようがどうなろうが、その程度のものしか作れない自分の責任だ。誰が悪いわけでもない。

気楽なもんだよ。

それに、随時レンガを仕入れて、木の壁の外側にさらに壁を作っていってるんだ。最終的には母屋も一緒にレンガの壁で囲んでしまおうと思ってる。それについては何年もかかるとは思うものの、前世でもあっただろ? 自分でコツコツ何年もかけて家を造った奴の話とか。その感じだな。

なのでそれはさて置いて、トーイも風が気になるのか物音がするたびにそっちの方に顔を向けるが、

「大丈夫だ、トーイ。俺がついてる」

そう言うと、

「……うん……」

頷いてくれた。

でも、後で分かったことだがこの時のトーイは、

『風で家が壊れるかもしれないのが怖い』

ってわけじゃなくて、

『外で怪物が暴れてるかもしれないのが怖い』

ということだったみたいだ。ある程度まで成長してきたことで想像力が豊かになり、逆に怪物を勝手に想像してしまって怖くなったらしい。

それは、<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵>の影響も実はあったようだな。人間を殺して食ってしまう<キ〇ガイ伯爵>が彼にとってはそれこそ、

<人食いのバケモノ>

に思えたんだろう。あれを<ホラーもの>として捉えてしまったか。だがそういうのも個々人の問題だ。

『怖がりだな、お前!』

と嘲笑うのは違うと思う。前世じゃ、いや、今世でもそうだが、怖がってる奴を馬鹿にして、

『悔しいなら克服して見せろ』

とか、強引な荒療治で無理矢理に治そうとしたりってのが横行していたが、いやいや、大人になってもそれが治ってない奴だっていたじゃないか。それどころか余計に悪化させた奴もな。

でも俺は、前世の記憶を持って子供時代を過ごしたおかげで分かったよ。そういうのはただの、

<素人の生兵法>

ってヤツだったって。

得体のしれないものへの恐怖ってのは、論理的に『そうじゃない』ってのが分かってくれば解消されていくんだ。

『自分が恐れている怪物は現実には存在しない』

と納得できてくれば自然と収まっていくんだよ。だから俺は、トーイに無理に克服させようとはしないでおこうと思ってる。

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