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日常の章

俺にだって怖いものはある

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風呂から上がって湯冷めする前に寝るために母屋のベッドにリーネやトーイと共にもぐりこんだ俺は、リーネに寄り添って横になるトーイに、

「怖いことがあったら、『怖い』と言ってもいいんだぞ。俺にだって怖いものはあるからな」

そう穏やかに話し掛ける。

「怖いもの……?」

怪訝そうに問い掛けるトーイに、

「そうだ。俺はでかいクモが怖いんだ。今でも急に目の前に出てこられたりしたら、たぶん、悲鳴をあげちまうな。だから大人になっても怖いものなんてあったりするんだよ。大人がそうなんだから子供が怖いものがあるってのは普通なんだ」

語って聞かせた。するとリーネが、

「クモは私も怖いです……!」

怯えた表情で体を竦ませた。確かに、林の中で大きなクモの巣が掛かってると、それを迂回するような動きを見せてたな。だからたぶん怖いんだろうなって思ってたが、やっぱりか。

「怖いものは怖いでいい。むしろ虚勢を張って誤魔化そうとする奴の方が俺は臆病者だと思う。自分に怖いものがあることを周りに知られることを怖がってる臆病者だってな」

とも語る。そんな俺に、トーイは、

「……ぼく、かいぶつがこわい……いまもそとにかいぶつがいるかんじがしてこわい……」

って応えてくれた。それが嬉しくて……

だってそうだろう? 信頼もしてない相手に自分の怖いものを教えるのって不安じゃねえか。それをネタに脅されたりするかもしれねえしよ。

なのにトーイは俺に、<怖いもの>を教えてくれた。だったらその信頼に応えなきゃな。

「そうか。でも、大丈夫だ。怪物は、俺達の家みたいに楽しくて仲良くやれてるところには入ってこれねえから。それに俺は、クモは怖いが怪物は怖くねえ。俺の傍にいたら心配ねえよ」

俺はゆっくりと、言い含めるようにしてそう諭した。トーイが怖がってる<怪物>は、実際にはいない。あくまでトーイの頭の中だけのそれだ。サンタクロースが実は自分の親だってことをいつか子供が知るように、自分の想像の中の怪物は実際にいないことをいつか実感できるようにもなるだろう。それを待てばいいだけの話だ。いないものはいない。その現実と向き合えるようになるだけで怪物は怖くなくなるさ。

でかいクモは現実にもいるが、怪物はいないんだよ。少なくともこの世界にはいない。ファンタジー世界にはいたりするかもだが、でもな、<現実に存在する怪物>は、それはもうただの<猛獣>みたいなもんだろ? 猛獣にだって対処法はあるんだ。現実に存在するものなら、逆に対処のしようもあるってもんだ。

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