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家族の章

その空いている分のリソースを

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カーシャは目が見えない。それはつまり、俺達のように<目が見える者>が視覚情報を脳で処理してる分のリソースがごっそり空いているとも言えるんじゃねえかな。だから、その空いている分のリソースを、聴覚や嗅覚や触覚といった感覚に割り振って、情報処理してる可能性はある。だから彼女は、音や嗅覚や触覚から得られる情報を、まるで目で見てるように立体的ないわば<疑似映像>として認識してる節があるんだ。

もちろんそれは、目で見た視覚情報に比べれば鮮明ではないかもしれねえにしても、少なくとも彼女が周囲の状況を認識するには十分に役立っているらしくて、思った以上に危なげないんだ。

<生き物>ってのは本当に良くできてるよな。

ただこれも、

『カーシャは目が見えないんだから俺達とは同じようにできるはずがない』

と、彼女に、

『目が見えないお前は俺達より劣ってる』

的なことを言わなかったのもあるってえ気がする。だから彼女は、自分を、

『劣っている』

として委縮することなく、自分にできることを最大限やろうとしてくれてるんじゃねえかな。

ある意味、彼女はこの家そのものの<頭脳>なのかもしれねえ。いわば、

<AIを使ったホームコントロールシステム>

って感じだろうか? この場合はAIじゃなく生身の人間そのものだけどよ。

何しろ彼女は、家の状態を音で察知できるんだ。

татоタート、おふろ、へんなおとする」

と彼女が言うので確かめてみると、床の一部が腐ってきてたりってえこともあった。他にも、

татоタート、みずのおとする」

と言いながら指をさした辺りの壁を調べると、中で雨漏りがして水が溜まってたりとかってのもあったんだよ。

だから彼女は、俺達に比べても『劣って』なんかいねえ。俺達とは違うものが見えてるだけなんだ。

だったら俺は、その彼女の能力を最大限に活かす努力をする。彼女は俺達がこの家で穏やかに生きていくための<要>なんだ。

あと彼女は、

「あめのにおいする」

とか言って、天気も言い当てる。さらには、

「だれか、きた」

そう言って、家の傍まで猟師が獲物を追ってきたのまで察知してみせた。そんな時は念のため、外には出ない。一応、矢が飛んできても家まで届かないように障害物は設置してあるものの、万が一があると嫌だしな。実際、たまに家からさほど離れてない木の幹に折れた矢が刺さってたりもしたし。

向こうも生活があるから『家の近くで猟をするのはやめろ』とも言えねえしよ。それをやめさせることのできる法的根拠とかもない。あくまでお互いに気を付けしかできねえ。

その『気を付ける』って部分をカーシャが補ってくれてるんだよ。

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