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宿角玲那編
快感
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今日まで宿角玲那が自らの復讐を成し遂げる為にどれだけ自分を磨いてきたか、最初にそれを身をもって味わうことになったのは、来支間敏文だった。
玲那は、人を殺す為の方法を自らイメージトレーニングするだけでなく、アルバイトの帰りに護身術を教える教室に通いそれも身に付けていた。特に、刃物を使った襲撃者に対する護身術について熱心に習得した。
だがそれは、決して自分の身を守る為ではなかった。刃物を持った相手に襲われた時にどう対処するかではなく、自分が刃物を使って襲い掛かった時に反撃を封じる為に具体的な反撃方法を知っておきたかったのだ。つまり護身の為ではなく、あくまで確実に人間を殺す方法を身に付ける為にということである。
しかしまさか、それが自分の身を守る為に役立つとは、彼女自身想定していなかった。
教室での習熟が終了した後も、彼女はまるで一流アスリートの如く自主的に練習を繰り返し、殆ど無意識に体が動くくらいに動きが染みついていた。しかも、中学の途中からレスリング部にも所属し、専門的な指導の下、体も鍛え上げてきている。自分が考えている通りに体が動くようにする為だった。今はレスリングは行っていないが自主的な鍛錬は続けており、その成果によるものか、敏文がナイフで切りかかっても全く慌てることなく体が勝手に動き、ナイフを取り上げ、そのまま反撃へと移ることができた。護身術ではそこまで教えてくれなかったが、その辺りは護身術を基に彼女が自ら編み出したものだった。
奪ったナイフを彼の脇腹から滑り込ませ、そしてネットで仕入れた人を殺す為の技術にあった通りに体内を抉るように捩じってみせた。それにより敏文の腸はズタズタに切り裂かれ、漏れ出た便が腹膜内を汚染した。処置が遅れれば確実に死に至る重大なダメージだった。
少年刑務所の中でただ恨みを募らせて人間性を失っただけの敏文と、復讐を実現する為に具体的な研鑽を怠らなかった玲那の差が出た瞬間だった。
にも拘らず、見事に敏文を撃退してみせた玲那に喜びの表情などはまったくなかった。
『くそっ! なんだよこいつ!! 余計なことしやがって!!』
彼女の頭の中にあったのはそういう思考だった。当然だ。こんな事件を起こしてしまって逮捕されては自分の本来の目的が果たせなくなる。幸い、大して返り血は浴びていない。手だけ洗えばそんなに目立たないだろう。どうやら目撃者もいないようだ。今はすぐこの場を離れ、保育園に健侍を迎えに行って家に戻り、迅速に計画を実行に移さねば。
今の時点で目撃者がいなければ、自分がやったと突き止められるまでには早くても一日、長ければ数日の余裕があるだろう。これからは時間との勝負だ。とにかく、宿角健雅と京子をまず殺害し、次いで警察に追い付かれる前に伊藤判生も殺す。勤め先や現住所及び普段の行動パターンが既に掴めていたのは不幸中の幸いだった。
『急がねば…!』
そう決断した彼女の行動は早かった。迷いなく動き、公園の手洗い場で血を洗い流し、保育園で健侍を迎えて家に帰った。
「遅くなりました…!」
と詫びながら夕食の用意をしているとそこへ見城夫妻がやってきた。
『なんでこんな時に…!』
とは思ったがそれは顔には出さず、夕食の用意をする。
「なんか今日はやけにパトがうるせえな。事件でもあったのか?」
サイレンを鳴らしたパトカーがひっきりなしに走り回っていることに健雅がぼやくが、玲那の表情はまったく動かなかった。
夕食の後で酒の用意をしてツマミに睡眠導入剤を混入。寝付くのを待つ間に健侍を風呂に入れたりと、あくまで日常と変わらない動きを心掛けた。
それが功を奏したのか、十一時前には宿角健雅と京子はリビングで鼾をかいて眠り始めた。見城とその妻は今回のツマミがあまり好みではなかったらしく殆ど口にしなかったことでその場では眠らなかったが、いつものことと慣れた様子で勝手に風呂に入って客間の方にこもってしまった。このまま客間で寝る為だ。
『仕方ない…! やり方を変えるか』
本当は包丁で一人一人感触を楽しみながら殺したかったが見城夫妻が客間にいては気付かれてしまうかもしれない。そこで玲那はオイルライターのオイルをカーテンに振りかけて火を放ち、クッションにも振りかけて出入り口を塞ぐようにそれにも火を放った。完全に寝ているので目が覚めることはないと思うが万が一目覚めても逃げ道を塞ぐ為である。
台所の引き出しに常に置いていた現金十数万円を手に取り、探偵から受け取った報告書の入ったバッグを掴んで家を出る。後はもうどうなろうと自分の知ったことではない。できれば宿角健雅も京子も見城夫妻も焼け死んでくれたら御の字だ。自室のベビーベッドに寝かせた健侍のことについては、頭によぎることさえなかった。
自転車に乗って京都駅へと向かい、途中のコンビニで夜行バスの席を予約した。幸い、今日の便の席が取れたのでそのまま夜行バスに飛び乗った。
「ふう…」
バスが発車すると、ようやく一息付けた。後は目的地まで待つしかない。気分が昂って寝られないかもしれないと思ったが、意外とすぐに眠りに落ちた。
寝ている間、何やらいろいろ夢を見た気がするが、目が覚めた時には何も覚えていなかった。意外な程にぐっすりと寝た気がする。
横浜の停留所でバスを降り、そこからタクシーで伊藤判生がいるであろう場所に向かった。風俗店の事務所だ。そこから朝の七時くらいに家に帰って夕方まで寝るのが毎日のパターンなのだという。そしてその調査報告は完璧だった。
事務所の前で待ち伏せていると、彼女の記憶にあるそれよりは明らかに老けていたが、まぎれもないあの男、玲那を地獄へと叩き落とした張本人の一人、実の父親の伊藤判生が姿を現した。
その時の玲那の胸によぎったものはと言えば、それはもう歓喜であったのかもしれない。決して実の父親に再会できたという喜びではなかったが。
「なんだお前…?」
自分の前に立ちはだかった若い女を見て、判生は訝った。それが自分の実の娘だとはすぐには気付かなかった彼に向かって玲那は微笑みかけた。彼女の生涯で唯一にして最高の満面の笑顔だった。そんな笑顔が自然と漏れたのだ。
だって、狂おしいまでに待ち焦がれた相手にようやく会えたのだから。
お父さん。
お父さん。
お父さん。
お父さん。
会いたかった。
やっと会えた。
さあ、死んで……!
素晴らしい笑顔のまま、バッグから取り出した包丁を父親の左脇腹から斜め上に目掛けて滑り込ませ、ぐるりと力一杯捩じってみせた。
「…が、っは! あぁっっ!!?」
声にならない呻き声を上げつつ、判生は本能的にその場を逃れようとした。父親の腹に深々と刺さった包丁を手放し、さらにバッグの中から新しい包丁を取り出して、逃げようとして背中を向けた彼を後ろから再び刺す。肉に滑り込む刃物の感触が彼女の背筋を奔り抜け、ゾクリと体が震えた。
『なにこれ、気持ちいい…!』
敏文の時は咄嗟だったからそれだけの余裕がなかったのかもしれないが、今ははっきりとそれを堪能することができた。
包丁を抜き、更に刺す。そしてまた、抜いて、刺す。
足がもつれて地面に倒れた父親の体に馬乗りになり、玲那はさらに包丁を刺した。
刺して、
抜いて、
刺して、
抜いて、
そして刺す。
それはまるで、男が女性の肉を犯すかのような往復運動だった。
『気持ちいい…! 気持ちいいよ…! ああそうか、男が女を犯すのはこんな風に気持ちいいからなんだ……!!』
そんなことを考えていた玲那の頬は紅潮し、瞳は潤んで恍惚の表情を浮かべていた。
そう、彼女はこの時、性的に感じていたのだ。普通の性行為では決して感じることのなかった性的な快感だった。それを生まれて初めて、包丁で人を刺すことで彼女は得ることができたのだった。
玲那は、人を殺す為の方法を自らイメージトレーニングするだけでなく、アルバイトの帰りに護身術を教える教室に通いそれも身に付けていた。特に、刃物を使った襲撃者に対する護身術について熱心に習得した。
だがそれは、決して自分の身を守る為ではなかった。刃物を持った相手に襲われた時にどう対処するかではなく、自分が刃物を使って襲い掛かった時に反撃を封じる為に具体的な反撃方法を知っておきたかったのだ。つまり護身の為ではなく、あくまで確実に人間を殺す方法を身に付ける為にということである。
しかしまさか、それが自分の身を守る為に役立つとは、彼女自身想定していなかった。
教室での習熟が終了した後も、彼女はまるで一流アスリートの如く自主的に練習を繰り返し、殆ど無意識に体が動くくらいに動きが染みついていた。しかも、中学の途中からレスリング部にも所属し、専門的な指導の下、体も鍛え上げてきている。自分が考えている通りに体が動くようにする為だった。今はレスリングは行っていないが自主的な鍛錬は続けており、その成果によるものか、敏文がナイフで切りかかっても全く慌てることなく体が勝手に動き、ナイフを取り上げ、そのまま反撃へと移ることができた。護身術ではそこまで教えてくれなかったが、その辺りは護身術を基に彼女が自ら編み出したものだった。
奪ったナイフを彼の脇腹から滑り込ませ、そしてネットで仕入れた人を殺す為の技術にあった通りに体内を抉るように捩じってみせた。それにより敏文の腸はズタズタに切り裂かれ、漏れ出た便が腹膜内を汚染した。処置が遅れれば確実に死に至る重大なダメージだった。
少年刑務所の中でただ恨みを募らせて人間性を失っただけの敏文と、復讐を実現する為に具体的な研鑽を怠らなかった玲那の差が出た瞬間だった。
にも拘らず、見事に敏文を撃退してみせた玲那に喜びの表情などはまったくなかった。
『くそっ! なんだよこいつ!! 余計なことしやがって!!』
彼女の頭の中にあったのはそういう思考だった。当然だ。こんな事件を起こしてしまって逮捕されては自分の本来の目的が果たせなくなる。幸い、大して返り血は浴びていない。手だけ洗えばそんなに目立たないだろう。どうやら目撃者もいないようだ。今はすぐこの場を離れ、保育園に健侍を迎えに行って家に戻り、迅速に計画を実行に移さねば。
今の時点で目撃者がいなければ、自分がやったと突き止められるまでには早くても一日、長ければ数日の余裕があるだろう。これからは時間との勝負だ。とにかく、宿角健雅と京子をまず殺害し、次いで警察に追い付かれる前に伊藤判生も殺す。勤め先や現住所及び普段の行動パターンが既に掴めていたのは不幸中の幸いだった。
『急がねば…!』
そう決断した彼女の行動は早かった。迷いなく動き、公園の手洗い場で血を洗い流し、保育園で健侍を迎えて家に帰った。
「遅くなりました…!」
と詫びながら夕食の用意をしているとそこへ見城夫妻がやってきた。
『なんでこんな時に…!』
とは思ったがそれは顔には出さず、夕食の用意をする。
「なんか今日はやけにパトがうるせえな。事件でもあったのか?」
サイレンを鳴らしたパトカーがひっきりなしに走り回っていることに健雅がぼやくが、玲那の表情はまったく動かなかった。
夕食の後で酒の用意をしてツマミに睡眠導入剤を混入。寝付くのを待つ間に健侍を風呂に入れたりと、あくまで日常と変わらない動きを心掛けた。
それが功を奏したのか、十一時前には宿角健雅と京子はリビングで鼾をかいて眠り始めた。見城とその妻は今回のツマミがあまり好みではなかったらしく殆ど口にしなかったことでその場では眠らなかったが、いつものことと慣れた様子で勝手に風呂に入って客間の方にこもってしまった。このまま客間で寝る為だ。
『仕方ない…! やり方を変えるか』
本当は包丁で一人一人感触を楽しみながら殺したかったが見城夫妻が客間にいては気付かれてしまうかもしれない。そこで玲那はオイルライターのオイルをカーテンに振りかけて火を放ち、クッションにも振りかけて出入り口を塞ぐようにそれにも火を放った。完全に寝ているので目が覚めることはないと思うが万が一目覚めても逃げ道を塞ぐ為である。
台所の引き出しに常に置いていた現金十数万円を手に取り、探偵から受け取った報告書の入ったバッグを掴んで家を出る。後はもうどうなろうと自分の知ったことではない。できれば宿角健雅も京子も見城夫妻も焼け死んでくれたら御の字だ。自室のベビーベッドに寝かせた健侍のことについては、頭によぎることさえなかった。
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「ふう…」
バスが発車すると、ようやく一息付けた。後は目的地まで待つしかない。気分が昂って寝られないかもしれないと思ったが、意外とすぐに眠りに落ちた。
寝ている間、何やらいろいろ夢を見た気がするが、目が覚めた時には何も覚えていなかった。意外な程にぐっすりと寝た気がする。
横浜の停留所でバスを降り、そこからタクシーで伊藤判生がいるであろう場所に向かった。風俗店の事務所だ。そこから朝の七時くらいに家に帰って夕方まで寝るのが毎日のパターンなのだという。そしてその調査報告は完璧だった。
事務所の前で待ち伏せていると、彼女の記憶にあるそれよりは明らかに老けていたが、まぎれもないあの男、玲那を地獄へと叩き落とした張本人の一人、実の父親の伊藤判生が姿を現した。
その時の玲那の胸によぎったものはと言えば、それはもう歓喜であったのかもしれない。決して実の父親に再会できたという喜びではなかったが。
「なんだお前…?」
自分の前に立ちはだかった若い女を見て、判生は訝った。それが自分の実の娘だとはすぐには気付かなかった彼に向かって玲那は微笑みかけた。彼女の生涯で唯一にして最高の満面の笑顔だった。そんな笑顔が自然と漏れたのだ。
だって、狂おしいまでに待ち焦がれた相手にようやく会えたのだから。
お父さん。
お父さん。
お父さん。
お父さん。
会いたかった。
やっと会えた。
さあ、死んで……!
素晴らしい笑顔のまま、バッグから取り出した包丁を父親の左脇腹から斜め上に目掛けて滑り込ませ、ぐるりと力一杯捩じってみせた。
「…が、っは! あぁっっ!!?」
声にならない呻き声を上げつつ、判生は本能的にその場を逃れようとした。父親の腹に深々と刺さった包丁を手放し、さらにバッグの中から新しい包丁を取り出して、逃げようとして背中を向けた彼を後ろから再び刺す。肉に滑り込む刃物の感触が彼女の背筋を奔り抜け、ゾクリと体が震えた。
『なにこれ、気持ちいい…!』
敏文の時は咄嗟だったからそれだけの余裕がなかったのかもしれないが、今ははっきりとそれを堪能することができた。
包丁を抜き、更に刺す。そしてまた、抜いて、刺す。
足がもつれて地面に倒れた父親の体に馬乗りになり、玲那はさらに包丁を刺した。
刺して、
抜いて、
刺して、
抜いて、
そして刺す。
それはまるで、男が女性の肉を犯すかのような往復運動だった。
『気持ちいい…! 気持ちいいよ…! ああそうか、男が女を犯すのはこんな風に気持ちいいからなんだ……!!』
そんなことを考えていた玲那の頬は紅潮し、瞳は潤んで恍惚の表情を浮かべていた。
そう、彼女はこの時、性的に感じていたのだ。普通の性行為では決して感じることのなかった性的な快感だった。それを生まれて初めて、包丁で人を刺すことで彼女は得ることができたのだった。
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