Gの愉悦

京衛武百十

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卵の黄身を混ぜた絵具は、完全に乾くと非常に堅固になって長い時間変質しない良質な画材になるという。

なるほど確かに非常に硬くて、噛み砕くのも一苦労だ。普通のゴキブリでは歯が立たんからさほど食われていないのだろう。

しかし今のところは他に適当な<餌>が見当たらんのだからこれを食うしかない。

だから私はひたすらガリガリと絵具を齧り、少しずつ食らっていった。

まさに<人類の宝>とも言われるであろう絵画をそうやって貪るなど、人間にとっては許されざる大罪かもしれないが、私にとってはそんなもの、それこそ、

「知ったことか!」

だからな。

そうして絵具を貪り食ってようやく落ち着いたところで、周囲を窺う。

壁に立てかけられた絵画そのものが<そそり立つ壁>のようにも見えるその光景に、わたしは、

『さて、次はどうしたものか』

と思案に暮れた。

とにかくゴキブリ共とやり合ったことで改めて自分の<力>がどの程度のものかも確かめられたし、それを考慮に入れて行動しないとな。

さっきのは正直、いささか無謀であったとも思う。

ゴキブリ共を侮っていたわ。

という訳で、まずは物置内の探索に戻る。

しかしそこには、備蓄用の長期保存が可能なタイプの食料も保管されていたものの、アルミ製と思しき包装を破ることもできず、そちらは諦めるしかなかった。

とは言え、その気になればゴキブリは、ものすごく食べられるものが多い。人間が出入りした部屋などには、髪の毛やフケ、咳やくしゃみをした時は元より喋ったりした時に飛んだ唾液、何かに触れた時についた皮脂、剥がれ落ちた垢等々、ゴキブリの餌となるものが豊富にある。

だからゴキブリを繁殖させないというのは、至難の業なのだ。

が、ここも散々、人間がうろついたであろうものの、男と小娘以外の姿が見えないほどに気配もなく、かなりの期間、殆ど人間が出入りしなかったであろうことから、既に他のゴキブリに食べ尽くされているようだ。

そうして探索を続けていると、また壁が歪んで床との間に僅かな隙間になっているところを見付けた。

今度は慎重に近付き、様子を窺う。

するとそこからは、何の気配もしてこなかった。どうやらここにはゴキブリはいないらしい。これは好都合だ。

と思うと、何やら非常に魅惑的な匂いが漂ってくる。

「これは……」

そう思いその匂いのする方へと足を進めると、ゴキブリとしての私の感覚が、プラスチックの小さな容器らしきものを捉えた。匂いはそこから漂ってくる。

何とも抗いがたい美味そうな匂いだ。

しかし私は気が付いた。

「これは、<ホウ酸団子>入りの毒餌ではないか……!」

なるほど、あの隙間を根城にしていたゴキブリのコロニーは、この毒餌を食ったことで壊滅したのかもしれないな。

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