Gの愉悦

京衛武百十

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テンペラ

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私がその<隙間>に近付くと、中から伝わってくる<敵意>は一層、濃いものになった。はっきりと圧力さえ感じる。

それでも私が止まらないと見るや、中から数匹のゴキブリが姿を現した。

奴らに<言語>はないものの、ごく簡単な意思の疎通はできる。

明らかに『近付くな!』と言っている。

「ふん、私に命令するな!」

と、声にはならないが私の方からもそういう<圧>を返す。

すると<敵意>は<攻撃性>に転換され、ざあっと一気に襲い掛かってきた。完全にこちらを潰す気だ。

もっとも、ゴキブリは本来、<狩り>をする昆虫じゃないので、スズメバチやカマキリといった高い攻撃力を持つ昆虫に比べれば明らかに攻撃がぬるい。

基本的には体当たりを食らわしたり、昆虫の中では最速クラスの速度を発揮する足の一撃で弾き飛ばすくらいだ。

で、私もそうする。

奴らの三倍の速度を発揮して攻撃を躱し、逆に一撃を食らわしてやると、一匹がパーンと面白いように空中高く撥ね飛ばされた。

しかしそれでも、致命的なダメージにはならない。一瞬は怯んでも、再び床に降り立って体勢を立て直せば再びかかってくる。

だがこれしかできないのだからやるしかなかった。

次の奴も同じように撥ね飛ばし、さらに次へ。

何度来ようとも何度でも撥ね飛ばしてやる。

人間の目から見ると、暗い物置の片隅で何匹ものゴキブリがぴょんぴょん撥ねて遊んでいるかのようにも見えるだろうな。

私達がどれほど真剣に命すらかけて戦っているのか知りもせんクセに。

まあそんなことを言っても始まらんので、とにかくやるだけだ。

が、さすがに多勢に無勢。しかもこちらは通常のゴキブリでは発揮できない限界を超えた力を出し続けているので、エネルギーの消耗が激しい。

なるほど、それが尽きれば死ぬということか。

明らかにヤバいレベルまでエネルギーを消耗したことを感じた私は、一転、逃げに転じた。

この時に私が相手をしていたゴキブリの中で最も体の大きい奴を撥ね飛ばした瞬間、躊躇なく踵を返してその場を離脱する。

この私がゴキブリ相手に背中を見せるなど業腹にもほどがあるが、ここで意地を張っても何の意味もない。

今はとにかく、態勢を立て直すのが先決だ。

物置のような部屋とはいえ、小さなゴキブリにとってはそれなりに大きな空間だ。奴らの気配が届かない位置まで離脱すると、追ってはこなかった。

そこはまた、いくつもの絵画が壁に立てかけられた場所だった。私は敢えてそこを目指して逃げてきたのだ。

絵画を描く為の絵具には、卵の黄身を混ぜたものがある。それを匂いで察知していた私は、躊躇することなく絵画の一つに飛びつき、卵入りの絵具を貪ったのだった。

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