Gの愉悦

愉快な見世物

＜フィクションの中の復讐劇＞を楽しむのは問題ない。所詮は現実ではないのだからな。しかし、現実に＜復讐＞を行えば、ご都合主義により望んだ結果に至るフィクションのそれと同じようにはいかんのだ。

現実は、フィクションのように事象の一部分のみを切り出し、都合の悪い部分をトリミングすることはできん。

そして人間は完璧ではない。必ずミスが付きまとう。今回の、事実が伴わないただの軽口、不謹慎な冗談を真に受けて、確かな証拠もないのに＜仇＞と断定して復讐を実行してしまうような、な。

復讐を実行しようとするような奴は、基本的に＜視野狭窄＞に陥っている。自身の行為がどういう影響を与えるかという部分に視点を向けることができんのだ。

ゆえに＜復讐＞を禁止する先進国は多い。過去の事例を詳細に検証すればこその判断だ。それを、自分ではロクに調べもせず、

『被害者や遺族の気持ちを考えろ！』

などと綺麗事を盾にして復讐の正当性を訴えるような輩は、小僧の的外れな復讐の犠牲となったエルダーの男の母親の無念をどう捉えるつもりだ？

被害者や遺族の気持ちを考えるのであれば、こんな復讐は行われるべきではなかったと思わないか？

まあ、どうせ、ごちゃごちゃと屁理屈を並べて正当性を主張するのだろうがな。

小僧と同じく、

『そんな不謹慎な冗談を言うような奴は死んで当然』

とかホザいてな。

私達、＜邪神＞と称される者共は人間のそういう部分が好物でなあ。ちょっと唆そそのかしてやるだけで面白いように多くの人間を巻き添えにして自滅へと突っ走る。

いやはや実に愉悦愉悦。

が、残念ながら今の私にはそれをできるだけの力はないがな。

なにしろ体はただのゴキブリだし。

しかしなかなか面白い見世物だったよ。私が唆さなくてもやらかしてくれるんだから人間というのは本当に面白い。

せっかくいい感じに育った人間共を失うのはやはり『もったいない』な。なるべく御破算にしないように気を付けたいもんだ。

ああ、それと、あの小僧の両親についても、

『テロリストを育てた』

ということで当然のように銃殺刑が決定。こちらも決定が下った翌日には執行された。

くくく、

『死刑判決が出たら即執行するべきだ』

と主張する連中にとっては天国のような世界だな。

くくく、くはは、くはははは！

『隔離区画に生まれた』というだけで蔑まれ軽んじられ、人間として扱われず、慰み物となり、それでもと愛した息子は見当違いな復讐をやらかして銃殺刑となり、今また自分達も殺される。

なんと愉快な見世物か！

加えて、物事を冷静に見ることもできん愚か者に息子を殺され、それまでは先鋭的な差別意識を持っていなかった＜エルダーの男の母親＞もこれで隔離区画の奴らの死すら願う奴となったなあ。

結構結構。