58 / 92
その貪欲さは嫌いではないぞ
しおりを挟む
<殺処分部隊>の奴らについても確認はしたし、私はここから<畜産工場>へと向かうルートを探し始めた。
が、どうにも最下層の連中は無駄に綺麗好きが多いのか、殺虫剤がやたらと撒かれていて、安全なルートを探すのにさらに苦労した。
とは言え、床や壁や天井には殺虫成分が付着しているものの、人間の体や衣服にまではさすがに付いていないので、やはり人間に掴まって移動するのが一番確実だと判断する。
もっとも、見付かると当然厄介だがな。
実際、一度気付かれて危うく潰されそうになったわ。
しかし、ここまで来ると私も慣れたものだ。人間の体にしがみつくと気付かれる危険性も高くなるので、荷物に紛れ込むことを徹底する。
加えて、普通のゴキブリは荷物が動くと逃げようとして逆に見付かることが多いが、私は当然、そんなことはせん。おとなしく身を潜めて気付かれないようにすることを心掛ける。
で、畜産工場担当の木端役人の荷物にまぎれ、運んでもらう。
だが、当の役人は不満そうだ。
「何で私があんな臭いところに……早く異動を……」
エレベーターに乗っている間もぶつぶつと文句を垂れていた。
こいつの都合など知ったことではないが、別にこいつでなくても構わんから関知しない。
そうして着いた先は、小さな野球場並みの広さを持つ空間だった。そこに土が敷かれ牧草が植えられ、ざっと三十頭ほどの牛が放たれているのが分かる。姿は見えないが豚や鶏の声もするので、敷地を区切る柵の向こうで飼育されているのだろう。
地下の閉鎖された空間でありながら、思った以上に本格的な畜産が行われていることに、私は少し感心していた。こうまでして肉が食いたいのか、人間よ。
だがその貪欲さは嫌いではないぞ。
管理棟らしき場所に向かう役人の荷物から抜け出し、私は<地面>へと降り立った。
久々の土の匂いが思った以上に心地好い。
やはり、生物の体というのはこういうものを欲するようにできているのだなと実感する。
役人は、『臭い』だなんだと文句を並べていたが、正直、気になるほどではないな。よほど換気がしっかりなされているのだろう。それでいてこの気温が保たれているというのは、大したものだな。
それにしても、ここまでのエネルギーをいかにして確保しているのか。
一番、可能性が高いのは原子力だろうが、その割には木端役人共の口からはそれを窺わせる発言はなかったな。原子力は管理が大変だし、神経も使うはずだが、もしやもっと簡便に使えてかつまとまった電力を生み出す発電装置でも発明されたか?
こうなってくるとそちらにも興味が湧いてくるな。
だがまあ今は、せっかくなのでこの環境を満喫させてもらおう。
が、どうにも最下層の連中は無駄に綺麗好きが多いのか、殺虫剤がやたらと撒かれていて、安全なルートを探すのにさらに苦労した。
とは言え、床や壁や天井には殺虫成分が付着しているものの、人間の体や衣服にまではさすがに付いていないので、やはり人間に掴まって移動するのが一番確実だと判断する。
もっとも、見付かると当然厄介だがな。
実際、一度気付かれて危うく潰されそうになったわ。
しかし、ここまで来ると私も慣れたものだ。人間の体にしがみつくと気付かれる危険性も高くなるので、荷物に紛れ込むことを徹底する。
加えて、普通のゴキブリは荷物が動くと逃げようとして逆に見付かることが多いが、私は当然、そんなことはせん。おとなしく身を潜めて気付かれないようにすることを心掛ける。
で、畜産工場担当の木端役人の荷物にまぎれ、運んでもらう。
だが、当の役人は不満そうだ。
「何で私があんな臭いところに……早く異動を……」
エレベーターに乗っている間もぶつぶつと文句を垂れていた。
こいつの都合など知ったことではないが、別にこいつでなくても構わんから関知しない。
そうして着いた先は、小さな野球場並みの広さを持つ空間だった。そこに土が敷かれ牧草が植えられ、ざっと三十頭ほどの牛が放たれているのが分かる。姿は見えないが豚や鶏の声もするので、敷地を区切る柵の向こうで飼育されているのだろう。
地下の閉鎖された空間でありながら、思った以上に本格的な畜産が行われていることに、私は少し感心していた。こうまでして肉が食いたいのか、人間よ。
だがその貪欲さは嫌いではないぞ。
管理棟らしき場所に向かう役人の荷物から抜け出し、私は<地面>へと降り立った。
久々の土の匂いが思った以上に心地好い。
やはり、生物の体というのはこういうものを欲するようにできているのだなと実感する。
役人は、『臭い』だなんだと文句を並べていたが、正直、気になるほどではないな。よほど換気がしっかりなされているのだろう。それでいてこの気温が保たれているというのは、大したものだな。
それにしても、ここまでのエネルギーをいかにして確保しているのか。
一番、可能性が高いのは原子力だろうが、その割には木端役人共の口からはそれを窺わせる発言はなかったな。原子力は管理が大変だし、神経も使うはずだが、もしやもっと簡便に使えてかつまとまった電力を生み出す発電装置でも発明されたか?
こうなってくるとそちらにも興味が湧いてくるな。
だがまあ今は、せっかくなのでこの環境を満喫させてもらおう。
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる