Gの愉悦

京衛武百十

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ムカデ

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ゴキブリにとってはムカデも十分、<怪獣>のような存在だ。

しかも、私が通れるだけの隙間が連続して続いていない。右に左にと通れるルートを探しつつ私はムカデから逃れた。

こいつも、今の私では真っ向勝負だと勝てない。逃げるしかないのだ。

なのに、逃げるためのルートがままならん。

「くそっ! 道がない!!」

逃げた先は、袋小路になっていた。みっちりと断熱材が洋館の構造材に押し付けられて、通れる隙間がない。

それを嘲笑うかのようにムカデが迫る。

もちろん、昆虫もそうだがこの手の<虫>に感情などないはずなんだが、そう見えてしまうのも事実。

このままでは確実に捕えられて奴の腹を満たすことになる。

ゾルゾルゾルゾルと無数(と言ってもオオムカデらしいから、おそらく二十一対)の足を蠢かせるムカデの姿に、私はやはり死を覚悟した。カマキリを相手にした時には開けた場所だったからな。そういうところでは私の速度があれば何も怖くないのだが……

で、覚悟はしたものの、それは『生きることを諦めた』という意味ではない。

たとえ死ぬとしても、簡単には殺されてやらん。

諦観など美徳ではない。

とは言え、体の大きさもそうだが、何より、ムカデの体は固い。攻撃したところでダメージすら与えられん。

どうする……!?

と思った時、私は思い出していた。

『そう言えばムカデは、基本的には動いているものしか襲わないのではなかったか……?』

まったく。ゴキブリの体の所為で十分な知能が確保できていないもんだからすっかり頭から消え失せてたわ。

さりとて、動いていなければ決して食わないと限っているわけでもないらしいがな。だが基本的には動いている獲物に触れた瞬間に喰らい付いて毒を注入するというのが本来の生態だったはずだ。

だから私は、完全に停止した。すると途端に、ムカデは私の姿を失探したようだった。

ムカデも触覚に頼って周囲を探知している。さっきは私が逃げ回ってたからその振動を頼りに追ってきたのだろう。

ともあれ、ムカデが諦めるまで私は息を殺し潜むことにした。

するとムカデは、私の体を乗り越えていく。二十一対四十二本の足が私を踏み付けて。

足蹴にされたのは業腹とはいえ、今は生き延びることが先決だ。

異様な感触が私の上を通り過ぎるのをただひたすら待つ。

行き当たりまで進んだムカデは、それ以上先に行けないことを察して、後退を始めた。

『よしよし、このまま通り過ぎてくれよ……』

それを祈る。

そして私が願った通りに、ムカデは私の上を通り過ぎていく。

だが、もう少しというところで気配が変わるのを、私も察したのだった。

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