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振り返り
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ムカデは基本的に動いているものしか襲わんという。しかしそれも絶対ではない。
自分が踏みつけているものがさっきまで追いかけていたゴキブリであることに、気付いたらしい。体を捻って私に喰らい付こうとする。
だが、非常に狭い場所だったことが今度は私に有利に働いた。体の大きなムカデでは思うにまかせずもたついている隙にぐわっと体を持ち上げて、ムカデが一瞬浮き上がったところを全力で離脱する。
ここでも大きな体が災いしてすぐに私を追いかけてこれなかった。
奴の探知範囲から逃れることに成功したようだ。
本来ならこの不利な条件を知恵と勇気辺りで撥ね退けて勝利すれば盛り上がるのかもしれないが、残念ながらここではそんな上手くはいかん。これまででも何度も幸運に助けられてきたのだ。それ自体がいつもいつも都合よく働いてはくれんさ。
いずれにせよ、私は辛うじて命を繋ぎ、あの男との決着をつける機会を残すことができた。
しかし、いた期間は向こうの地下施設の方が長かったにも拘らず、不思議とこちらの方が落ち着くな。まるで自分の家にでも帰ってきたかのようだ。
それでも、途中、またもネズミやアシダカグモに追いかけられながらも、私は|例の配電室へと戻ってきた。
なんだか懐かしいな、ここも。
そんなことも思いつつ、ネズミを警戒しながらも、以前に機械の隙間へと落としてあったネズミの糞や毛をもりもりと食い、エネルギーを補給する。
食事はここがあれば大丈夫だろう。
ゆっくりと堪能し、これまでに判明した状況を振り返る。
『ここは、全球凍結レベルの寒冷な環境となった地球である』
『しかし<日守こよみ>がいた地球ではない』
『人間は、スペースコロニー並の人工環境でのみ生存が可能』
『残った人間の数は決して多くない。また、残った人間のメンタリティも、この限定的な環境下で変質してきている』
『この屋敷には、あの男と小娘以外の人間はいない。時折、設備のメンテナンスのために係員が派遣されるだけである』
とまあ、こんなところか。
そうして食事を終えた私は、目的の一つを達成すべく移動を開始する。
雄と交尾をし、卵を産むのだ。
あの男と小娘が暮らしている区画まで来ると、やはり異様に清潔になってくるのが分かる。
その理由も判明した。あの男が、自分達が暮らす区画については自身で徹底的に掃除しているのだ。
久々にあの男の姿を見て、私はなぜかホッとしてしまう。ホッとするのだが、同時に、そこで見た男の姿がまた異様でなあ。
掃除機をかけ、スチームクリーナーをかけ、清掃用のワイパーをかけ、粘着シートで身の毛さえ逃さない。もはや偏執的な丁寧さだ。他にすることもないことで、拘るようになってしまったのかもしれん。
もっとも、人間がそこまでやっても完璧には綺麗にならないがな。しかし僅かに残った髪の毛や皮膚片などを、敢えてこの辺りに住み着いたゴキブリ共が食べ尽くしてしまうのだろう。
自分が踏みつけているものがさっきまで追いかけていたゴキブリであることに、気付いたらしい。体を捻って私に喰らい付こうとする。
だが、非常に狭い場所だったことが今度は私に有利に働いた。体の大きなムカデでは思うにまかせずもたついている隙にぐわっと体を持ち上げて、ムカデが一瞬浮き上がったところを全力で離脱する。
ここでも大きな体が災いしてすぐに私を追いかけてこれなかった。
奴の探知範囲から逃れることに成功したようだ。
本来ならこの不利な条件を知恵と勇気辺りで撥ね退けて勝利すれば盛り上がるのかもしれないが、残念ながらここではそんな上手くはいかん。これまででも何度も幸運に助けられてきたのだ。それ自体がいつもいつも都合よく働いてはくれんさ。
いずれにせよ、私は辛うじて命を繋ぎ、あの男との決着をつける機会を残すことができた。
しかし、いた期間は向こうの地下施設の方が長かったにも拘らず、不思議とこちらの方が落ち着くな。まるで自分の家にでも帰ってきたかのようだ。
それでも、途中、またもネズミやアシダカグモに追いかけられながらも、私は|例の配電室へと戻ってきた。
なんだか懐かしいな、ここも。
そんなことも思いつつ、ネズミを警戒しながらも、以前に機械の隙間へと落としてあったネズミの糞や毛をもりもりと食い、エネルギーを補給する。
食事はここがあれば大丈夫だろう。
ゆっくりと堪能し、これまでに判明した状況を振り返る。
『ここは、全球凍結レベルの寒冷な環境となった地球である』
『しかし<日守こよみ>がいた地球ではない』
『人間は、スペースコロニー並の人工環境でのみ生存が可能』
『残った人間の数は決して多くない。また、残った人間のメンタリティも、この限定的な環境下で変質してきている』
『この屋敷には、あの男と小娘以外の人間はいない。時折、設備のメンテナンスのために係員が派遣されるだけである』
とまあ、こんなところか。
そうして食事を終えた私は、目的の一つを達成すべく移動を開始する。
雄と交尾をし、卵を産むのだ。
あの男と小娘が暮らしている区画まで来ると、やはり異様に清潔になってくるのが分かる。
その理由も判明した。あの男が、自分達が暮らす区画については自身で徹底的に掃除しているのだ。
久々にあの男の姿を見て、私はなぜかホッとしてしまう。ホッとするのだが、同時に、そこで見た男の姿がまた異様でなあ。
掃除機をかけ、スチームクリーナーをかけ、清掃用のワイパーをかけ、粘着シートで身の毛さえ逃さない。もはや偏執的な丁寧さだ。他にすることもないことで、拘るようになってしまったのかもしれん。
もっとも、人間がそこまでやっても完璧には綺麗にならないがな。しかし僅かに残った髪の毛や皮膚片などを、敢えてこの辺りに住み着いたゴキブリ共が食べ尽くしてしまうのだろう。
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