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寿命
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夜。男が小娘を車椅子に乗せて、寝室へと向かう。今日は落ち着いているようだ。
男と小娘の生活は、静かで穏やかではあったが、同時に、あまりにも淡々としているその暮らしぶりに、そこはかとない狂気も感じられる。
まあ、両手足を失い一人では移動もままならない小娘だけじゃなく、男の方も実質的に監禁状態に等しい生活なのだから、無理もないというものか。ある意味では<拘禁反応>に近いものも出ているのだろう。この世界の連中が異様に抑圧的なのも、その影響かもな。
それでも、向こうの地下施設の連中に比べればまだ人間味があると言えるのかもしれんが。
そうして、この洋館に戻り、二人との共同生活も改めて十日目を迎えた頃、私は、自身の体にある変化が生じたことに気付いた。
『む…まさか、これは……?』
自分の体が急速に劣化していくのを感じる。潤滑油が切れた機械のように間接がきしむ。これまでと同じようには力が入らない。
『寿命…か……?』
予測はしていたが、予測以上に短かったな。
……いや、もしかするとここまでの無理が影響しているのかもしれない。ここに来て早々に毒餌を食ってしまったことも大きなダメージとなり寿命をごっそりと削った可能性があるな。
今はまだ普通に動くのには支障はないものの、もって数日といった印象がある。
毒餌を食った影響だとするのなら少々情けなくもありつつ、それほど腹は立っていないからこのまま命が尽きても大丈夫だろう。
すると私は、突き動かされるように屋敷の中を走り抜けた。ダクトなどを通って回り道をするのも惜しい。そしてある部屋の前まで来ると、床と壁の間にできた僅かな隙間から中に潜り込む。
するとそこには、十数匹のゴキブリの姿があった。しかし攻撃的な様子はない。なぜなら、この体のゴキブリが元々属していたコロニーだったからだ。
こちらに戻ってからも探索を続けたことで、目星を付けていたのだ。
と言うか、単に消去法ではある。
そしてこの隙間がある部屋は、小規模な野菜工場とでも言うべき<プラント>が稼動していた。自動化されたそこで、十数種類の野菜が栽培されていたのだ。はっきり言って、規模こそは小さいものの向こうの地下施設よりも高度なものだと言えるだろうな。
食品については向こうの地下施設からも配達もされるものの、それだけではなく、限られた種類ではあっても新鮮な野菜も収穫できるということか。
そのプラント自体は衛生管理が徹底されていてさすがに侵入できなかった。それだけならせっかくのご馳走を前にお預けを食らっている状態とも言えるものの、その一方で、収穫のためにあの男が毎日訪れるため、その際に毛などを落としたり、男の履いている靴の底に着いた、床に落ちていた男や小娘の毛、剥がれ落ちた皮膚等が床に擦り付けられることで残されていき、それがゴキブリ共の餌になるのである。
男と小娘の生活は、静かで穏やかではあったが、同時に、あまりにも淡々としているその暮らしぶりに、そこはかとない狂気も感じられる。
まあ、両手足を失い一人では移動もままならない小娘だけじゃなく、男の方も実質的に監禁状態に等しい生活なのだから、無理もないというものか。ある意味では<拘禁反応>に近いものも出ているのだろう。この世界の連中が異様に抑圧的なのも、その影響かもな。
それでも、向こうの地下施設の連中に比べればまだ人間味があると言えるのかもしれんが。
そうして、この洋館に戻り、二人との共同生活も改めて十日目を迎えた頃、私は、自身の体にある変化が生じたことに気付いた。
『む…まさか、これは……?』
自分の体が急速に劣化していくのを感じる。潤滑油が切れた機械のように間接がきしむ。これまでと同じようには力が入らない。
『寿命…か……?』
予測はしていたが、予測以上に短かったな。
……いや、もしかするとここまでの無理が影響しているのかもしれない。ここに来て早々に毒餌を食ってしまったことも大きなダメージとなり寿命をごっそりと削った可能性があるな。
今はまだ普通に動くのには支障はないものの、もって数日といった印象がある。
毒餌を食った影響だとするのなら少々情けなくもありつつ、それほど腹は立っていないからこのまま命が尽きても大丈夫だろう。
すると私は、突き動かされるように屋敷の中を走り抜けた。ダクトなどを通って回り道をするのも惜しい。そしてある部屋の前まで来ると、床と壁の間にできた僅かな隙間から中に潜り込む。
するとそこには、十数匹のゴキブリの姿があった。しかし攻撃的な様子はない。なぜなら、この体のゴキブリが元々属していたコロニーだったからだ。
こちらに戻ってからも探索を続けたことで、目星を付けていたのだ。
と言うか、単に消去法ではある。
そしてこの隙間がある部屋は、小規模な野菜工場とでも言うべき<プラント>が稼動していた。自動化されたそこで、十数種類の野菜が栽培されていたのだ。はっきり言って、規模こそは小さいものの向こうの地下施設よりも高度なものだと言えるだろうな。
食品については向こうの地下施設からも配達もされるものの、それだけではなく、限られた種類ではあっても新鮮な野菜も収穫できるということか。
そのプラント自体は衛生管理が徹底されていてさすがに侵入できなかった。それだけならせっかくのご馳走を前にお預けを食らっている状態とも言えるものの、その一方で、収穫のためにあの男が毎日訪れるため、その際に毛などを落としたり、男の履いている靴の底に着いた、床に落ちていた男や小娘の毛、剥がれ落ちた皮膚等が床に擦り付けられることで残されていき、それがゴキブリ共の餌になるのである。
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