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英気
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男は小娘に寝巻きを着せてやり、車椅子に座らせドライヤーで髪を乾かす。
その間も、小娘は穏やかな貌をしていた。
とは言え、男は『二年待ってくれ』と言った。その二年を果たしておとなしく待てるかどうかというのはあるが、それでも具体的な数字で期限を切ってもらえたというのは、<待つ身>としてはありがたいというものか。
私も、転生を繰り返していた時には、具体的な話をしようとすればのらりくらりとはぐらかし、結論をずるずると先延ばしにしようとする男に引っかかったこともあったからな。
あれは実に無駄な時間であった。
しかも最後には金を持ち逃げされて行方をくらまされたのだから、実に愚かの極みよ。
だが、この男は私が引っかかったようなロクデナシでないことは、ここまで見てきた限りでも分かる。ロクデナシな奴は、男でも女でも、誰も見ていないところでは本性を見せるのだが、この男にはそれがなかった。こいつはまぎれもなく<朴念仁>の類ではありつつ、少なくとも極端な裏表もなく、小娘をいいように利用してやろうという下心があるわけでもなく、ただただ<クソ>がつくほど真面目なだけの男だ。
ならば、小娘が男を傷付けるような真似さえしなければ、こいつは間違いなく、大切にしてくれるだろう。私が引っかかった男共とは違う。
そして小娘もまた、男を大切にするタイプだ。実にお似合いだな。
髪も乾き、男は車椅子を押して小娘と共に寝室へと向かう。
まあ普通ならこの後、男と小娘が愛を確かめ合うような展開になるところだろうが、残念ながらこの朴念仁はそんな空気など読んではくれまい。
それでもかまわぬさ。
この世というのは、本来、ままならんものだ。そのままならん中でも、こうしてそれなりに先が見通せる流れになったのであればそれでいいではないか。
私としてもこれ以上、野暮をする気にもなれず、とりあえず風呂場で、排水溝に溜まった男や小娘の抜け毛などをもりもりと食って、英気を養った。
散々、お預けを食ったものの、男との決着をつける機会が巡ってくるであろう予感はある。
そして、私のこの体も、もういよいよ長くないだろうという予感も共にある。
『もしかしたら、これが最後の晩餐になるかもしれないな……』
<最後の晩餐>が風呂場の排水溝に溜まった抜け毛や垢というのは普通に考えれば情けないことこの上ないに違いないと思いつつ、何しろ今の私はゴキブリだからな。そんなことを気にするメンタリティは持ち合わせておらん。
男との決着に必要なエネルギーさえ確保できればいいのだ。
その間も、小娘は穏やかな貌をしていた。
とは言え、男は『二年待ってくれ』と言った。その二年を果たしておとなしく待てるかどうかというのはあるが、それでも具体的な数字で期限を切ってもらえたというのは、<待つ身>としてはありがたいというものか。
私も、転生を繰り返していた時には、具体的な話をしようとすればのらりくらりとはぐらかし、結論をずるずると先延ばしにしようとする男に引っかかったこともあったからな。
あれは実に無駄な時間であった。
しかも最後には金を持ち逃げされて行方をくらまされたのだから、実に愚かの極みよ。
だが、この男は私が引っかかったようなロクデナシでないことは、ここまで見てきた限りでも分かる。ロクデナシな奴は、男でも女でも、誰も見ていないところでは本性を見せるのだが、この男にはそれがなかった。こいつはまぎれもなく<朴念仁>の類ではありつつ、少なくとも極端な裏表もなく、小娘をいいように利用してやろうという下心があるわけでもなく、ただただ<クソ>がつくほど真面目なだけの男だ。
ならば、小娘が男を傷付けるような真似さえしなければ、こいつは間違いなく、大切にしてくれるだろう。私が引っかかった男共とは違う。
そして小娘もまた、男を大切にするタイプだ。実にお似合いだな。
髪も乾き、男は車椅子を押して小娘と共に寝室へと向かう。
まあ普通ならこの後、男と小娘が愛を確かめ合うような展開になるところだろうが、残念ながらこの朴念仁はそんな空気など読んではくれまい。
それでもかまわぬさ。
この世というのは、本来、ままならんものだ。そのままならん中でも、こうしてそれなりに先が見通せる流れになったのであればそれでいいではないか。
私としてもこれ以上、野暮をする気にもなれず、とりあえず風呂場で、排水溝に溜まった男や小娘の抜け毛などをもりもりと食って、英気を養った。
散々、お預けを食ったものの、男との決着をつける機会が巡ってくるであろう予感はある。
そして、私のこの体も、もういよいよ長くないだろうという予感も共にある。
『もしかしたら、これが最後の晩餐になるかもしれないな……』
<最後の晩餐>が風呂場の排水溝に溜まった抜け毛や垢というのは普通に考えれば情けないことこの上ないに違いないと思いつつ、何しろ今の私はゴキブリだからな。そんなことを気にするメンタリティは持ち合わせておらん。
男との決着に必要なエネルギーさえ確保できればいいのだ。
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