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第40話 勇者の剣

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「なんか凄かったね。その剣」
 負傷者の手当てが済んだピクシーはジャックの元へ戻ってくるなりそう言った。
 驚いているというより、感心しているといった表情に見える。

「ピクシーにはどう見えた?」
 本人が理解できないことでも、客観的に見た人には分かることもあるはずだ。そう思ったジャックはピクシーにはどう見えていたかを聞いてみた。

「剣の刃に沿って光が走ったように見えたよ。そしたら魔物が飛んでっちゃったの」
 ピクシーはその光景を何とか表現しようと手足をバタバタさせながら説明しようと試みたが、ジャックには今一つ伝わらない。
 しかし次の一言はジャックにとって、とても興味深かった。

「あれ魔法の一種なんじゃないかな?」
 ピクシーはそれがさして不思議なものでは無いといった風にそう言った。

 魔法……一昔前までならおとぎ話でしか登場しない架空の力だ。
 現在ではピクシー達妖精族と魔物達がその一部を使えるから現実のものという認識に変わりつつあるものの、人間にとっては未知の力である。
 当然ジャックも魔法については全く理解できていないが、実際に使えるピクシーが「魔法だ」というのであればそうなのかもしれないとは思った。

 そうなると次に湧きだす疑問は当然こうなる。

「で、なんで俺が魔法を使えるんだ?」
 おとぎ話の中ならともかく、現実の世界では人間が「魔法を使えない」というのは暗黙のお約束……というより絶対的な真理である。
 ジャックは当たり前だが普通の人間だ。これまでも魔法なんてものは使えたことは無い。それどころかピクシーと出会う前は見たことすらなかった代物だ。

「ジャックが使えるようになったんじゃなくて、剣の力なんじゃない?」
 ピクシーも人間が魔法を使えるとは思っていない。となれば魔法を放ったのは剣という事になる。

「実は……ジオがいなくなってからここまで、ずっと考えてて……前から気になってたこともあるし、言っても良い?」
 珍しくピクシーの歯切れが悪い……というより、あのおしゃべりなピクシーが自分の考えを話すのにジャックに許可をもらおうとしている。

「なんだ?」
 ピクシーの態度がいつになく真面目なのに気が付いたジャックは、こう言って話すことを許可した。

「ジャックが持ってるその剣……勇者の剣なんじゃないかな?」
 ピクシーは結論から言った。恐らく実際に起こった事象から、ジャックに対して最も説得力のある話を最初に持ってきたのだろう。

「……でも、これ元は俺の家にあった剣だぜ?」
 ピクシーの言う通り、確かにこの剣には不思議な力があるのかもしれない。探してくるように王命が下った件にも納得がいく。
 しかし、そんな大層な代物が何故自分の実家に転がっていたのか、その点にどうしても合点がいかないのである。

「そのことなんだけど……」
 ピクシーは口籠った。

 恐らくこの辺りが発言の許可を請うた理由なのだろうとジャックは直感した。

「うん」
 ジャックは短く相槌を打ってピクシーの次の言葉を待った。

「ジオの奥さんってさ……ジャックのお母さんなんじゃない?」
 ピクシーはジャックの反応をうかがいながら、遠慮がちに、しかしはっきり言い切った。

「……」
 ジャックは少し考えこんだ。

 ピクシーの言ったことは理論だって考えればジャックでもいきつく結論だった。
 しかし、自分の事となると、やはり主観が邪魔をしてピクシーに言われるまで気が付かなかった……というよりも気付きたくなかったのかもしれない。
 それを察してピクシーも発言の許可を取ったのだろう。

「その剣をジオに渡した時、ジオがなんて言ったか覚えてる?」
 ピクシーはこの剣探しの旅に出発した時のことをジャックに思い出すよう促した。

「アリー……」
 これはジャックもよく覚えていた。ジオがお礼を言ったが、どうにも文脈に沿わないので不思議に思った一言であった。しかし、それはジオがボケているからなのだろうと勝手に解釈して忘れようとしていた言葉でもあった。

「そう、アリー。ジャックのお母さん、アリスの愛称だよね」
 ピクシーは墓標を見た時にチラッとこのことを考えていた。
 それに「今思えば……」ということにはなってしまうが、ピクシーは初めてジオがジャックの顔を見た時の雰囲気に違和感を感じていた。その理由もそう考えると「納得がいく」ということを補足でジャックに説明した。

「あっ!」
 ジャックは片手で口を覆ってその後の言葉を遮った。
 ジャックの頭の中でも何かがつながったようだ。そもそも母親の名前をその息子が愛称で呼ぶことは無い。ジャックにとっては意外な盲点でもあったのだろう。

 二人は改めて剣を見つめると、ここ数カ月の旅のことを思い出していた。
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