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不穏
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その日ディカイオ公爵家はどことなくざわついてた。
落ち着きなく人が出入りする。
いよいよフォティアが産気づいたと聞いて、ルーカスもまた自身の部屋で待機していた。
ニコラオスとフォティアの子。
男の子であれ女の子であれ、産まれ落ちた瞬間から複雑な事情をその身で受け止めなければならない。
ルーカスも普通とは言い難い出自だったせいか、産まれてくる子に微かな同情を覚えた。
お産は人によってかかる時間が違うという。
まだ午前中だが今日中に産まれるかどうかわからなかった。
「ルーカス様」
不意に誰もいないところから声をかけられて、ルーカスは窓を見た。
開けられた隙間から男が一人入ってくる。
「ビオンか」
男は公爵家の『影』を取りまとめる者だった。
「すでに公爵邸の周りに数名、賊と思しき者たちが潜んでいます。どうされますか?」
「侯爵が雇った者たちか?」
「おそらく」
報告を聞いてルーカスは思案する。
その者たちを今捕縛することはたやすい。
しかし今捕まえてしまうと問える罪が変わってしまう。
ルーカスとしては今回の企ては完膚なきまでに叩き潰したかった。
「泳がせておけ。奴らが動くのは子どもが産まれてからだ」
「承知いたしました」
返事を残し、ビオンはスッと姿を消した。
神出鬼没の彼らは音もなく現れて音もなく去る。
武術に関してはかなりの鍛錬を積んだルーカスでさえ彼らの気配を察知するのは骨が折れた。
侯爵家の企てについて事前に情報を得ているとはいえ、雇われた者たちの直前の動きまでは掴みきれずビオンに偵察をさせていた。
『お産で命を落としたことにし、出産後フォティアを始末する』
計画を知った時ルーカスは憤りを感じた。
せめてこの計画がイレーネの考えでは無いことを祈りたいが、実際どうなのかはわからない。
あの誇り高き前公爵夫人がそこまで堕ちたとは思いたくなかった。
しかし人は変わる。
良いも悪いも周りの影響を受けて。
セルジオスを失い、ニコラオスを失ったイレーネはもしかしたらすでに正気では無いのかもしれない。
環境が人を変え、環境が人を作る。
誰と出会えるかというのはその中でも大きな要因といえた。
嵐の前の静けさだろうか。
特に何も動くことのない膠着状態のなか、ルーカスは侍女の入れたお茶を飲みながらゆったりとその時を待った。
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