NTRゲーに転移したらライバル勇者としかフラグが立たない!

夏野うに

文字の大きさ
2 / 9

2.一般通過渡り人上嶋悠生二十歳

しおりを挟む
 ドン、ドン、ドドン。
 徐々に近付いてくる太鼓の音は、開戦の印。
 国境から遠く離れている筈の王都では、本来届く筈もない恐怖だ。

「敵襲──ッ!」
「急ぎ門を閉じよ! 敵はそこまで来ているぞ!」

 歌のような呪文のような声が頭上から降り注ぐ。
 翼を持つ不吉な影が宙を舞い、不快な音を発していた。
 耳を貫き頭蓋の中まで届くような、今すぐ此処から逃げ出したくなるような──

「重騎士隊、前へ!」

 これ以上聞いていたくない。
 頭を抱え、目を閉じた。震えが止まらない……今すぐにでも逃げ出したい。

「キアアアアッ!」

 胃からせり上がってくる何かを吐き出した。
 嘔吐きながら地面に落ちたものを見る。真っ黒い、泥のようなかたまり。
 これは血と、刮げられた肉だ。
 頭を動かせないと思ったら、後ろから押さえつけられていた。
 かえしの付いた刃に似た虫の足が、頭部を抱え込んでいる。

「ぅ、え」

 ぐらりと視界が揺れて──

 唐突に視点が変わる。

「赤い……?」

  強い風に煽られ、閉じた瞼を光と熱が刺してくる。
 建物が、町が、人が燃えていた。
 悲鳴と怒号に重なるようにして、身も凍るような怖ろしい鳴き声が辺りに響く。

「なんだ、これ」

 俺の身体は宙に浮いていた。
 周囲を翼の生えた黒い生き物が通り過ぎていく。
 襲ってくる気配はないが、眼下では惨たらしい殺戮が行われていた。
 異国の鎧を着た兵が、逃げ惑う者の背を切りつける。
 抵抗する人も、彼らを守る兵士も、皆為す術無く倒れていく。
 親が命に替えて庇った子が、降り注ぐ魔法の火に飲まれ息絶える。

「あ……」

 全ては無駄だったのか。
 込み上げる無力感に、四肢の力が抜けていく。
 だらりと下げた手足の先に、崩れかけた塔があった。
 瓦礫の中、蹲る男がゆらりと立ち上がる。
 塵と埃にまみれた金髪が、激しい風に煽られている。乱れた前髪の隙間から覗く虚ろな眼差しが、ゆっくりと辺りを見渡す。
 その手が握るは漆黒の槍。
 あれは、そうだ、勇者の、レグルスの目覚め──





「うがああああっ!?」

 ギリギリと締め付けられるような頭部の痛みに飛び起きる。
 慌てて首の後ろに手をやり確かめるが、穴は開いていなかった。

「ゆ、夢……?」

 エロゲーの世界に転移して、勇者と会って槍を取りに行く──なんて。

「そうだよな、有り得ないよな。はぁ変な夢見ちゃった……」
「お目覚めになられましたか」
「ヒャア!」

 思わず世紀末な悲鳴が口からまろび出る。
 えらく難しい顔をしたじいさんが、俺の顔面二センチの所まで迫っていたからだ。

「何? ええ、誰? ここどこ?」

 豪華な刺繍のされた高級そうなローブ。
 宝石のはめ込まれた額飾り。
 真っ白な髪と髭が繋がっているタイプの、ファンタジー映画に出て来そうな貫禄あるじいさまが、重々しい仕草でその場に平服する。

「お言葉に不便はございませんでしょうか」
「え? ……あ、だ、大丈夫……です」
「そうですか。お休みの間、貴方様に言語魔法をかけさせていただきました。目覚めてしばらくは少々頭が重く感じられると思いますが、じき馴染むものですからご安心を」
「言語魔法!? すげっ……だぁあああ」

 おじいさまの言う通りだった。
 急に頭を振ったせいか、痛みが倍増する。
 グギギと唸りつつ、慎重に視線を巡らせると、そこは天井にばかでかい穴の開いた、ほぼ壁しか残っていない部屋だった。

「あーやっぱ夢じゃない感じかぁ……」
「はい?」
「すみません何でもないです」

 痛みのせいか、ショックだったのか。
 つんと来る鼻を押さえてしばらく下を向く。
 ……よし、大分楽になってきた。
 顔を上げると俺は一応ベッドらしき物に寝かされて、手には布が巻かれていた。
 そして緊張したような顔で俺を見つめるご老人が一人、と。

「あの」
「はっ」

 俺が言葉を発すると、相手は緊張した様子で頭を下げる。
 その態度には深い敬意が感じられ──るのは何故? え、初対面ですよね? 何で俺こんな所にいるの? あとレグルス君は?
 どれから尋ねようかと頭を悩ませていると、向こうから答えが剛速球で飛んできた。

「何なりとお申し付け下さい勇者様」
「ゆっ……えええええ!?」





「だから違うんです! 俺は勇者じゃなくってぇ!」

 さっきの天井穴開き部屋は控えの間だったらしく、現在俺は謁見室にて上半身をわたわた動かしていた。
 一部壁にヒビは入っているが、この部屋は概ね無事のようだ。
 正面に王様、その横にレグルス、両脇にずらりと並ぶ貴族を差し置き、豪華な椅子に座らせられた俺は完全にアガッていた。
 だって人生こんなに注目浴びる事なかったもの。胃がキリキリする。

「勇者はそこにいるレグルスで、俺は全然関係無いただの一般人ですハイ!」
「いえ、間違いなくこのお方が伝承にある勇者かと!」
「おーいちょっとーそこのーレグルスくんんん?」
「……ッ」

 名を口にした途端目を見開いて俺を見たレグルスは、感無量、みたいな顔をしてその場に膝を突く。
 やめて。主君の横でしていい事じゃないよ多分。

「勇者殿は──」
「ノー!」
「……コホン」

 本編では顔無しテキストのみだった亡国の王様は、王様だった。
『隷属のガレリア』は中世ヨーロッパ的な服装を基調に古代ローマ風が混ざり合い、更に現代らしいアレンジを加えたデザインだったのだが、概ねそんなような印象。
 シャツにチュニックにサーコートのそれぞれ豪華版。
 マントも毛皮だし、王冠載ってるし、まるで絵本に出てくるような『王様かくあるべし』と言った王様に、密かな感動を覚える。王様や~。

「しかし客人殿は、『渡り人』とお見受けするが?」
「渡り人?」
「こことは違う世界から来る者たちの事だ。姿形が違い、言葉が通じぬ」
「……あっ、ああ~! はいはい」

 確かにあったわ、そういう設定。
 NTR違いがインパクト強すぎて忘れてたけど、主人公は元々この世界の『渡り人』、つまり現代人設定なんだよな。
 この世界で稀に起こる現象。現代の知識を持つ渡り人は国を繁栄させたり、災厄になって滅ぼしたりと大活躍で、各地の伝承にもなっている。
 そのうちの一つが『隷属のガレリア』のストーリーの基盤になっている。
 魔に染まりし世界にある日勇者が訪れ、民を救うであろう的な王道展開ですわ。

「我が国の伝承にあるのだ。『滅びの日、神より与えられし力が天より無数の矢を降らせ、敵を打ち倒す──』と」
「おおぅ……」

 なんて曖昧な伝承なんだ。どんな意味にも取れるじゃないか。
『滅びの日』なんて言っちゃってるけどそこはいいのか?
 実際本編では滅んでたから間違いではないし、その後流星槍で敵が全滅するのも合ってるんだよなあ。

「ではやはり勇者はレグルスで間違いないですね! 俺はただ槍の場所教えただけなんでっ」
「我ら王族も知らぬ神器の位置を、渡り人であらせられる貴方が知らせてくれた、と」
「ウッ……」

 これがゲームだったら俺も勇者ルートを楽しめたと思う。実際コンプしたし。
 でも現実でレグルスが抱いた女を回収して歩くルートなんてゴメンだ。
 俺は恋愛がしたいんだ。そりゃ将来的にはどうなるかわからないけどさ? ハーレムもやぶさかではないけれど? 童貞の間はまっとうな彼女とお付き合いの夢見たっていいだろ。
 勇者全力回避の姿勢を崩さない俺と、王の視線が正面からぶつかり合う。
 絶対嫌という思いを込めて見つめる。勇者はレグルスで間違いない。公式だってそう言ってる。ただちょっと後半道を外れただけなんですよね……。

「王都は滅びを免れた。貴方が『レグルスが勇者である』と仰るならば、それは間違いのないこと」
「はいそうですぅぅ! 間違いありません!」

 王様! 素敵! 最高! ヨッ名君!

「また襲撃を知らせ、勇者を導いた貴方は神の使いであろう」
「うえぇええ!?」

 王様! 何してんの! ちょっと待って!? 違うからそれ!
 なんだその超展開。本編に無い概念出してくんなや!
 いい年したおっさんが、揃いも揃ってウンウン頷いている。
 えええなんでこの国まとまってるの。誰か一人くらい俺の正体怪しんで嫉妬してギギギとかしないんかい。え、本当に名君……?

「そんな大層なもんじゃないです……」

 レグルスなんてもう、キラッキラした目で俺を見ている。
 顔面と相まってとんでもない圧だ。両手を組み、地面に膝を突いて拝み始めた。うわ否定し辛ぇ……!
 主人公も一応勇者の範囲ではある。
 道を逸れたレグルスの代わりに、奴が取りこぼした各地のフラグと装備と女を回収し、最終的に奴が為し得なかったラスボス撃破をしてハッピーエンドだからな。
 だがこの場合は……渡り人である俺がその道を選ばなければ、この世界このルートのまま存続していくのか?
 その場合レグルスの扱いは?
 ここから各地で襲撃が頻発し、レグルスは仇を追って大陸中を駆け回る。
 でも幾ら強力な流星槍があっても所詮は一人。
 取りこぼした町も都市もたくさんあって、周辺は荒れて……そんな中ようやく主人公が現れて、えっちらおっちら助けに行く訳だよな。
 となると国を亡くし一人孤独にさすらうのじゃなく、国のバックアップありの迅速な対応があれば──…

「くっ」

 考える時間が欲しいのに、状況がそれを許さない。
 此処で俺が徹底的に否定して、関係ないですサヨウナラと言って別れたとして。
 じゃあ誰がレグルスを敵の所へ連れて行く?

「ああ……そうか。そうだよなぁ」

 この国と同じだ。
 ゲームをプレイした俺は、これから何が起こるか知っている。
 被害が出る前に防げる。誰かが死ぬのを見なくて済む。
 それにまあ……元の世界に帰れるかどうかもわからんし。

「神……とか、そういうのとはちょっと違うんですけど。これからレグル……勇者様にして欲しい事は、色々とありまして」
「ウオオオオオッ!」
「なにごとっ!?」

 周囲のおっさんじいさん共が一斉に声を上げる。
 王も、レグルスも、皆拳を振り上げて野太い声が響き渡る。

「皆の者! 今此処に勇者が誕生した!」
「オオオオオオ!」
「勇者の導き手、神の使いにより我が国には一層の繁栄がもたらされるであろう!」
「オオオオオオオオ!!」
「はわわわわ」



 王都滅亡は勇者レグルスの活躍により無事回避された。
 その功績は彼に力を授けた渡り人の存在と共に、大陸中へ広まっていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BLゲームの主人公に憑依した弟×悪役令息兄

笹井凩
BL
「BLゲーの主人公に憑依したら、悪役令息の兄が不器用すぎてメロかった」……になる予定の第一話のようなものです。 彼氏に遊ばれまくってきた主人公が性格終わっている男共を粛清してやろうとするのに、情が湧いてなかなか上手くいかない。 そんな中、一番嫌いであったはずの悪役令息、兄の本性を知って愛情が芽生えてしまい——。 となるアレです。性癖。 何より、対人関係に恵まれなかったせいで歪んだ愛情を求め、与えてしまう二人が非常に好きなんですよね。 本当は義理の兄弟とかにしたほうが倫理観からすると良いのでしょうが、本能には抗えませんでした。 今日までの短編公募に間に合わなかったため供養。 プロットはあるので、ご好評でしたら続きも載せたいなと思っております。 性癖の近しい方に刺されば、非常に嬉しいです。 いいね、ご感想大変励みになります。ありがとうございます。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...