【完結】正義のオメガとクズアルファ

西胡瓜

文字の大きさ
8 / 35

8 一日目

しおりを挟む
「なんでお前が着いてくるんだよ」

「うるせぇ、お前には聞きたいことが山ほどあるんだよ!」

 凛が家に帰るというので、俺が送ってやると凛の後をついて来ていた。女子でもあるまいし不良校に通う男を送るなんて気持ち悪りぃが、こいつには聞きたいことが山ほどあるため、二人きりになりたかった。
 学校で話せばいいのだが、明日からは星学に通わなくちゃならなくなったから、今日ぐらいしか話すチャンスがないと思った。

「お前本当に日向のこと好きなのかよ」

「あ? 本気だよ、まじで好き」

 マジトーンで言ってくるこいつに感心してしまう。こんな真面目な凛は十数年一緒にいて初めて見た。

「じゃあなんで俺と同じ学校にしたんだよ、星学に通えばよかっただろ……お前もアルファでそれなりに頭いいし」

 俺とつるんでいた凛だが、ヤバキタでは学年いや学校で一番頭がいいだろう。
 中学の時もクラスで上位だったし、アルファのこいつなら星学に受かったはずだ。なのになんで俺なんかと同じ底辺校のヤバキタに通ってるのか今更ながら不思議である。

「日向に頼まれたんだよ正義のこと頼むって、俺、別に勉強好きじゃねぇし、星学なんてお坊ちゃま校行きたかなかったからな」

「日向が、そんなこと……」

「あれでも、お前のこと気にかけてるんだよ、お前オメガの自覚全然ないからな、アルファの俺が側にいれば少しは安全だろ」

「そっか……じゃあやっぱり今日は悪いことしちまったな」

 いつもふざけている日向だが、本当は俺を気にかけてくれたと知り嬉しい反面申し訳なさが募る。

「だったら、久住をどうにかしとけよ」

「わーてるよ」

 どうにかするつもりではいるが、どうしたらいいのか全くわからないでいる。考えるのは性に合わないので学校に行ってから考えることにした。

「あと、お前もさっさと彼女でも彼氏でもいいから作れよなー、番にならなくてもいいから誰か作れよ」

「はぁ?!」

 急に全く違う話をし出す凛に、アホみたいな声を出してしまう。つーか、彼氏ってお前らと同じホモにすんじゃねぇ。

「うるせー、弟に突っ込まれてよがってたクセに! アルファ様もあんな風によがるんだな」

「うっ……オメガのお前には負けるけどな。久住に少しちんこイジられたぐらいであんあん言ってたじゃねーか」

「言ってねーわ! 今度発情期が来たらお前の部屋に入ってラットにしてやろーか!!」

「ふっ、残念だがお前ごときのフェロモンなんかでラットになれる気がしないな」

 ──ムッカー!!!

 男としてのみならずオメガとしても屈辱的なことを言われた気がする。

「まぁ、落ち込むなって星学でいいやつ探してこいよ」

「男子校だろーが!!」

 俺に男と付き合えというのか、絶対にごめんだ。とにかく久住の問題が解決したら彼女探しでもしてさっさと童貞を卒業しなければと固く決意した俺だった。



◇◇◇



 ──次の日

「いい! 話しかけられても嫌な顔しないでニコニコ笑ってること、授業中に寝ないこと、早弁しないこと、先生に反抗しないことあと……」

「あー、もうわかったから」

「ほら! 腕まくりしない!」

 星宮学園のブレザーの制服を着た俺に矢場沢北高校の学ランを着た日向に学園での注意事項を聞いていた。
 堅苦しいブレザーを腕まくりしようとしたら注意されて登校前からうんざりしている。髪の毛も前髪を下ろしていて鬱陶しい。
 昨日と同じピンをつけられそうになったので、断固として拒否した。

「まぁとりあえず、問題を起こさないよう久住先輩をどうにかしてくれればいいから」

「わーったよ」

「そうだ、部活だけど僕、映画研究部に入ってるから放課後はそこに寄ってね」

「お前部活なんて入ってたのかよ」

「まぁね、ほぼ活動してないから顔だけ出せば大丈夫だよ」

 部活なんて中学の時以来だ。と言っても名前だけ入っていただけで幽霊部員だった。
 面倒くさいが顔を出すだけなら別にいいだろう。

「薬持った?」

「あ、忘れてた……」

「駄目だよ! 酷くないとはいえ正義はオメガなんだから! それに星学にはアルファの生徒が多いんだからね!」

「わーってるよ、まだ発情期の時期じゃねーのにめんどくせぇ」

 身支度を終えた俺たちは学校に向かうため一階に降りた。

「あら、今日は二人逆なの?」

「あぁ、ちょっとな」

「なんだ、楽しそうだな」

 一階に降りると父と母に遭遇する。さすが両親というべきか俺たちを瞬時に見分け、逆になっていることを言い当てたのだが、楽しそうだと笑っている。
 不良の俺がいうのもなんだが、そんなんでいいのかと思ってしまう。

 アホ両親に呆れながら靴を履いた俺たちは玄関のドアを開けた。

「よ! はよー」

「おはよう凛」

「……はよ」

 玄関前にはいつも通りヤバキタの学ランを着た凛が俺たちを待っていた。憂鬱な俺を気にかけることもなく、早速二人で「学ランも似合ってるな」なんてイチャイチャ話をしている。
 学ランなら中学でも着ていたし珍しくもないだろうに。

 昨日、付き合ってるのがバレてからあからさまに俺の前でもイチャつくようになっている気がする。羨ましくはないが腹が立つ。
 
 苛立っている俺に気付いたのか凛が俺に声をかける。

「正義も似合ってるぞー、日向にそっくりだ」

「そうかよ」

 まったく嬉しくないし、双子なんだから似ていて当然だ。俺は不貞腐れながらイチャつく二人の後ろを歩いて行った。

 駅の前まで歩いて来ると三人は立ち止まる。ヤバキタは駅から歩いたところにあるのだが、星宮学園は駅から5駅ほど先にあるためここでお別れだ。

「じゃ、頑張ってね」

「頑張れよー」

「ちっ、うるせー」

 応援する(楽しんでいる)二人に素気なく別れを告げて、駅のホームに向かって行った。改札を通る前に二人の姿を見ようと、振り返ると腕を組んでイチャイチャと学校に歩いていく姿が見えた。

 つーか今は日向が俺なんだから、側から見たら俺と凛が付き合ってるみたいになってんじゃないのか……頼むから変な噂をばら撒かないでくれと思いながら、俺は改札を通った。




 







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...