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30 真実
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「はぁー」
最終日、俺の気分は晴れやかな青空とは対照的にどんよりとした気持ちで覆われていた。
昨日の日向と凛に問い詰められてからと言うもの、久住のことが頭から離れず、悶々としっぱなしであまり寝れなかった。
久住のせいで寝れなかったと思うとムカムカと腹が立って、今日あったら一発ぶん殴ってやろうと思う。
でも、あいつがどこにいるのかなんて俺にはわからない。いつもよりもだいぶ早くついた学園には生徒の姿はほとんどない。
一週間の間にだいぶ優等生に染められたもんだ。早起きが習慣付いてしまっていた。
教室に行くのもアレだと思った俺は、部室で時間になるまでひと眠りでもしようかと部室棟に向かう。
「そういえば鍵持ってなかったな」
部室の前に来たのは良いが、この部屋の鍵を持っていないことに気がついた。さすがに開けっ放しという不用心なことはしないだろう。
諦めて教室に向かおうとしたが、ダメ元でドアノブに手をかけて捻ってみる。するとドアノブは簡単に動きガチャリと扉の開く音がした。
誰かが閉め忘れたのだろう、ラッキーと思いながらドアを開け部室の中に入るとまさかの人物が俺の目に飛び込んできた。
「……久住」
久住は部室に設置してあるソファに座り目をつむり寝ていた。ゆっくりと近づくと寝息も聞こえる。
こうやってまじまじと見ると本当にカッコいい。学園の人気者というのも頷ける。でも、いつものキリッとした顔ではなくまだ幼さの残るあどけない寝顔に可愛いと思ってしまった。
一発ぶん殴ってやるなんて気持ちはもはや俺の中には存在しておらず、俺の心臓はバクバクと音を立てていた。
──どうしよう
寝ているのだから邪魔せずに大人しく部室を去るべきか、起こして話を聞くべきか。話をするつもりだったが、朝からこの展開になるとは思っていなかったので心の準備ができていない。
「はぁ、教室にでもいくか」
俺は久住の寝顔を見ながらボソリと呟くと、久住に背を向け扉の方へ歩いて行こうとする。
「なんだ、俺に用があったんじゃないのか」
「!? 久住……起きてたのか」
「今起きた」
背を向けた俺の手首を久住が掴んだ。振り返ると眠そうな顔をした久住が俺の顔を見ていた。
なんだろうかこの変な気持ち、体がモゾモゾする。
平穏を装うのに必死な俺と寝ぼけ眼でぼーっと俺のことを見ている久住。今までにない空気感に体がむず痒くなる。
「俺に聞きたいことがあるんだろ」
「まぁ、そりゃ山ほどあるけど」
「いいぞ、いくらでも話してやるから、お前も座れ」
久住は自分の座っているソファの隣を手でポンポンと叩き、俺に座るよう促す。俺は素直に久住の横に腰を下ろした。
「じゃあ……昨日毒島が言ってたことって本当なのかよ。お前が毒島に逆らえないってのは」
俺は遠慮がちに昨日毒島が言っていたことの真意を確かめるべく久住に質問した。
「……本当だ、俺はあいつに大きな借りがあるからな」
久住は悔しがることもなくさらりとそう言った。
「どんな借りだよ、あんな奴の言いなりになるほどのことって……」
「昨日聞いたか、言っただろ俺はオメガを抱けないって」
「う、うん」
「正確にいえば女性とオメガを抱けないんだ」
「なんで……」
「ふっ、怖いからだよ」
「こわ、い?」
久住は自傷気味にそう言った。まるで馬鹿げた理由だと自分自身を嘲笑うかのように。
「中学の時、同じ学校の生徒で初めて発情期になったオメガの女にたまたま遭遇したんだ……そいつのフェロモンに当てられて俺はラットになってそいつのうなじを噛んじまった」
「それって……」
「あぁ、俺には番がいるんだ。まぁそいつとはそれ以来会っていないがな……久住財閥の御曹司がとんでもない事件を起こしちまったんだ」
「でも、なんでそこで毒島が出てくるんだよ」
「その噛んだ女が毒島の妹だったんだ、だからこの事件を明るみに出さないことを条件に俺は毒島に逆らえないんだ」
「そんな……」
だから、久住は毒島に逆らえずにいるのか。でもなんだろうこの話どこかに違和感を感じる。
「ちゃんと調べたのか?」
「ん? それ以来、妹とは会っていないからわからないな」
「そっか……」
もし日向がオメガで、久住に無理やり番にさせられたらどう思うだろう。そりゃ怒る、一生をかけて償わせるが毒島みたいに久住を思い通りに操りたいなんて思わない。
それに昨日毒島は、オメガのことを大層馬鹿にしていた。妹想いならそんな言動絶対にしないはずだ。
「ちゃんと毒島のこと調べてみろよ」
「? なんだ急に……」
「いいから!」
俺の言葉に首を傾げる久住だったが、なんとか納得してくれたようだ。金持ちなんだからそういうの調べる人間ぐらいいるだろう。
久住の過去が知れたところで、俺はもう一つ気になっていることを聞く。
「はじめてのデートの時も俺が日向じゃないってわかってたのか?」
「あぁ、もちろんな」
「あれも、もしかして」
「毒島の命令だ。盗聴されてたしなあの時はああするしかなかった……悪かったな」
お互いに盗聴されてたなんて、なんだかおかしな話だ。久住がいうには日向も自分のものにしたかったんだとか、久住が言ったことは全部毒島が思っていたことだったらしい。
「じゃあ久住はクズじゃなかったのか……」
「はは、それはどうだろうな」
俺の大いなる勘違いが明らかになり、久住に悪いことをしたと落ち込む。
「あ! 江古田はなんなんだよ!」
「あれは……普通にセフレだな」
「はぁ!? やっぱりクズ!」
「はは、そうだ、俺も大概クズだぞ」
なんだよ、落ち込んで損した気分だ。でもそれでもコイツは良い奴なんだと思う。俺を毒島から守ろうとしてくれたのだから。
オメガが嫌いなはずなのに、昨日は俺のわがままにも付き合ってくれた。
「ありがとな、昨日は助けてくれて」
「俺のせいでもあるからな」
「毒島のことあとはお前がなんとかしろよ」
「わかってるさ、もうあいつの指示に従うのも飽きたからな」
俺たちははじめて素直に笑い合っていた。
なんだろう、コイツと一緒にいるのは嫌じゃない。むしろこの時間を過ごしていたいと思っている自分がいる。
最終日、俺の気分は晴れやかな青空とは対照的にどんよりとした気持ちで覆われていた。
昨日の日向と凛に問い詰められてからと言うもの、久住のことが頭から離れず、悶々としっぱなしであまり寝れなかった。
久住のせいで寝れなかったと思うとムカムカと腹が立って、今日あったら一発ぶん殴ってやろうと思う。
でも、あいつがどこにいるのかなんて俺にはわからない。いつもよりもだいぶ早くついた学園には生徒の姿はほとんどない。
一週間の間にだいぶ優等生に染められたもんだ。早起きが習慣付いてしまっていた。
教室に行くのもアレだと思った俺は、部室で時間になるまでひと眠りでもしようかと部室棟に向かう。
「そういえば鍵持ってなかったな」
部室の前に来たのは良いが、この部屋の鍵を持っていないことに気がついた。さすがに開けっ放しという不用心なことはしないだろう。
諦めて教室に向かおうとしたが、ダメ元でドアノブに手をかけて捻ってみる。するとドアノブは簡単に動きガチャリと扉の開く音がした。
誰かが閉め忘れたのだろう、ラッキーと思いながらドアを開け部室の中に入るとまさかの人物が俺の目に飛び込んできた。
「……久住」
久住は部室に設置してあるソファに座り目をつむり寝ていた。ゆっくりと近づくと寝息も聞こえる。
こうやってまじまじと見ると本当にカッコいい。学園の人気者というのも頷ける。でも、いつものキリッとした顔ではなくまだ幼さの残るあどけない寝顔に可愛いと思ってしまった。
一発ぶん殴ってやるなんて気持ちはもはや俺の中には存在しておらず、俺の心臓はバクバクと音を立てていた。
──どうしよう
寝ているのだから邪魔せずに大人しく部室を去るべきか、起こして話を聞くべきか。話をするつもりだったが、朝からこの展開になるとは思っていなかったので心の準備ができていない。
「はぁ、教室にでもいくか」
俺は久住の寝顔を見ながらボソリと呟くと、久住に背を向け扉の方へ歩いて行こうとする。
「なんだ、俺に用があったんじゃないのか」
「!? 久住……起きてたのか」
「今起きた」
背を向けた俺の手首を久住が掴んだ。振り返ると眠そうな顔をした久住が俺の顔を見ていた。
なんだろうかこの変な気持ち、体がモゾモゾする。
平穏を装うのに必死な俺と寝ぼけ眼でぼーっと俺のことを見ている久住。今までにない空気感に体がむず痒くなる。
「俺に聞きたいことがあるんだろ」
「まぁ、そりゃ山ほどあるけど」
「いいぞ、いくらでも話してやるから、お前も座れ」
久住は自分の座っているソファの隣を手でポンポンと叩き、俺に座るよう促す。俺は素直に久住の横に腰を下ろした。
「じゃあ……昨日毒島が言ってたことって本当なのかよ。お前が毒島に逆らえないってのは」
俺は遠慮がちに昨日毒島が言っていたことの真意を確かめるべく久住に質問した。
「……本当だ、俺はあいつに大きな借りがあるからな」
久住は悔しがることもなくさらりとそう言った。
「どんな借りだよ、あんな奴の言いなりになるほどのことって……」
「昨日聞いたか、言っただろ俺はオメガを抱けないって」
「う、うん」
「正確にいえば女性とオメガを抱けないんだ」
「なんで……」
「ふっ、怖いからだよ」
「こわ、い?」
久住は自傷気味にそう言った。まるで馬鹿げた理由だと自分自身を嘲笑うかのように。
「中学の時、同じ学校の生徒で初めて発情期になったオメガの女にたまたま遭遇したんだ……そいつのフェロモンに当てられて俺はラットになってそいつのうなじを噛んじまった」
「それって……」
「あぁ、俺には番がいるんだ。まぁそいつとはそれ以来会っていないがな……久住財閥の御曹司がとんでもない事件を起こしちまったんだ」
「でも、なんでそこで毒島が出てくるんだよ」
「その噛んだ女が毒島の妹だったんだ、だからこの事件を明るみに出さないことを条件に俺は毒島に逆らえないんだ」
「そんな……」
だから、久住は毒島に逆らえずにいるのか。でもなんだろうこの話どこかに違和感を感じる。
「ちゃんと調べたのか?」
「ん? それ以来、妹とは会っていないからわからないな」
「そっか……」
もし日向がオメガで、久住に無理やり番にさせられたらどう思うだろう。そりゃ怒る、一生をかけて償わせるが毒島みたいに久住を思い通りに操りたいなんて思わない。
それに昨日毒島は、オメガのことを大層馬鹿にしていた。妹想いならそんな言動絶対にしないはずだ。
「ちゃんと毒島のこと調べてみろよ」
「? なんだ急に……」
「いいから!」
俺の言葉に首を傾げる久住だったが、なんとか納得してくれたようだ。金持ちなんだからそういうの調べる人間ぐらいいるだろう。
久住の過去が知れたところで、俺はもう一つ気になっていることを聞く。
「はじめてのデートの時も俺が日向じゃないってわかってたのか?」
「あぁ、もちろんな」
「あれも、もしかして」
「毒島の命令だ。盗聴されてたしなあの時はああするしかなかった……悪かったな」
お互いに盗聴されてたなんて、なんだかおかしな話だ。久住がいうには日向も自分のものにしたかったんだとか、久住が言ったことは全部毒島が思っていたことだったらしい。
「じゃあ久住はクズじゃなかったのか……」
「はは、それはどうだろうな」
俺の大いなる勘違いが明らかになり、久住に悪いことをしたと落ち込む。
「あ! 江古田はなんなんだよ!」
「あれは……普通にセフレだな」
「はぁ!? やっぱりクズ!」
「はは、そうだ、俺も大概クズだぞ」
なんだよ、落ち込んで損した気分だ。でもそれでもコイツは良い奴なんだと思う。俺を毒島から守ろうとしてくれたのだから。
オメガが嫌いなはずなのに、昨日は俺のわがままにも付き合ってくれた。
「ありがとな、昨日は助けてくれて」
「俺のせいでもあるからな」
「毒島のことあとはお前がなんとかしろよ」
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