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32 告白
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一ヶ月後
「あ~、腹減ったー! バーガー食ってこうぜ」
季節は夏に突入し、暑いなか学校帰りに凛にファストフード店に行こうと誘った。
凛は暑そうに制服のワイシャツをパタパタさせている。
「だめだ、今日は日向と遊ぶ約束してんだ」
「……あっそ、お熱いことで」
「なんだ、拗ねてんのか? てか、お前彼女作るんじゃなかったのかよ」
「やめた、なんか良い人いないし」
あれから久住のことを忘れようと、同じクラスのやつに紹介してもらった女の子に数人会ったが、いまいちピンとこなくて彼女は相変わらずいないままだった。
ていうか、久住のこと全然忘れられてなかった。まさか自分がこんなにも失恋をずるずる引っ張るようなめんどくさい男だとは思わなかった。
男が好きになったわけじゃない。久住を好きになってしまっただけだ。
「まぁ、落ち込むな今日はお前も仲間に入れてやる! 桃鉄でもしよーぜ!」
「よっしゃー! じゃあ100年な!」
「それ、一日じゃ終わらないだろ……」
「そうと決まればお菓子買ってこうぜ!」
「待て待て、お菓子は日向が買っておいてくれてある」
「そうか、ならとっとと帰ろうぜー!」
今日は金曜日だから、思う存分ゲームに付き合ってもらおう。少しだけ元気になった俺は、軽い足取りで自宅へ向かった。
◇◇◇
「ただいま~」
「お邪魔しまーす」
玄関の扉を開けると同時に、階段を急いで降りる足音が聞こえた。
「おっかえりー! ほらほら、正義早く2階へ!」
「なんだよ……急かすなって」
俺たちの前に颯爽と現れた日向は、俺の背中を押して早く2階へ上がるよう言ってきた。
そんなにゲームやりたかったのかよ。
「押すなって」
「いいからいいから、早く開けて」
日向が押してきたのは俺の部屋の扉の前だった。日向の部屋でゲームすると思ってたからなんで俺の部屋なのだろうと不思議に思ったが、日向があまりにも急かすもんだから、俺は自分の部屋のドアノブを捻り扉を開ける。
「えっ……久住?」
俺の部屋には、星宮学園の制服を着た久住が座っていた。幻かと思い数回瞬きをするが、やはり久住はいた。
「なんで?」
「お前に会いにきた」
──なんで?
もう二度と会えないと思っていた人物が目の前にいる。
あまりに突然の出来事に全く頭が回らずパニックになっている。お互いに気まずくてなんとも言えない空間になっていた。
「あ、久住だ、はじめて見たけどマジでイケメンだな」
空気の読めない男が、ヘラヘラと俺の部屋の中を覗いてそんなこと言っているが、どうでも良かった。
「あっ! お菓子買うの忘れちゃった~、僕ってばうっかりさん」
「じゃあ、買いに行くか?」
「そうだね、凛と二人でお菓子買ってくるね。多分二時間ぐらいかかると思うからそれまで、ごゆっくり~」
なんて棒読みなセリフをバカップル二人はすると、階段を降り家を出ていった。
気を遣ってくれたのはわかるが、もう少し自然にできないもんかな。
今この家には俺と久住の二人だけだ。
俺は自分の部屋に入れずに、入り口の前で突っ立っていた。
「入れよ、お前の部屋だろ」
「あ、うん」
俺はカチコチになりながら自分の部屋に入り、久住の隣に座った。
どうしよ、何話せば良いんだ? ていうか、なんで久住が俺の家に来ているんだよ! 日向が誘ったのかな、でも二人とも接点なんてほとんどないはずだ。
俺は久住の顔をまともに見れず俯いていた。
「久しぶりだな」
「あぁ」
「お前の弟は強引だな、お前よりもよっぽど不良じみてる」
やはり日向が何かしたようだが、一体どんなことをしたのだろうか。久住の言葉から相当乱暴なことをしたんだろうな。
でも、日向に言われただけでくるわけがないと俺は、黙り込んでいた。
「毒島のことを調べた。あいつの妹はオメガじゃなかった」
「はぁ?! どういうことだよ!!」
久住のとんでもない発言に黙っていた俺も流石に反応した。久住は呆れながら話を続けた。
「俺をおとしいれるために毒島が企んだことらしい。アルファやベータをオメガみたいに発情期を一時的に起こす薬があるんだとよ。よくよく考えたらあいつの家は製薬会社だ」
俺の言った通り毒島のことについて調べたらしく、久住は調べた内容を笑いながら話した。
確かにあいつは発情誘発剤とか持ってるぐらいだから、そういう薬を持っていてもおかしくない。
でもそんなことよりも、毒島の妹がオメガではないのならうなじを噛んでも番にはならない。
「じゃあ……お前たちは」
「あぁ、番にはなってなかった」
俺はその言葉を聞いて自然と涙が出てきた。久住と番になれるとかじゃなくてコイツが苦しまなくていいと安心したからだった。突然泣いた俺を見て久住は驚いている。
「なんでお前が泣くんだよ!?」
「だって、ぐすっ……よかっだぁ、これで久住は苦しまなくていいから」
「……お前、お人好しだな、ほんとに」
呆れながら久住はそう呟いた。
「それを、伝えに来たのか?」
「いや、違う……こんな話はどうでもいい」
久住は泣いている俺の顔に手を当てて涙を拭った。久住の顔を見るとすごく真剣な顔で、少し不安になった。
「正義」
ふと呼ばれた自分の名前に胸がドキリと高鳴った。そういえばはじめて久住に名前で呼ばれた気がする。
「な……に?」
「好きだ、俺と付き合ってほしい」
「へ? なんで……」
久住の言葉を何度も頭の中で繰り返す。夢みたいなセリフで夢でも見ているのかと何度も頭の中で疑う。
だって一ヶ月前、俺の告白を久住は断ったのにどうして……
「正義に会った時から、ずっと気になってた。でも、オメガだと思うと怖くてあの時は断っちまった。それに俺の家族はオメガのことを毛嫌いしてる……お前に辛い思いをさてしまうかもしれない」
「いい、そんなの平気だ! ほんとに、ほんとに俺のこと好き?」
「好きだよ」
「うぅ~、俺も好き」
俺は抑えきれなくて久住に思いっきり抱きついた。そんな俺を久住は逞しい腕で抱き止めてくれた。
周りからの批判なんてオメガと分かった時から覚悟を決めているから平気だ。
そんなことよりも久住が俺を好きと言ってくれたことが何よりも嬉しくてまた泣いてしまった。
「あ~、腹減ったー! バーガー食ってこうぜ」
季節は夏に突入し、暑いなか学校帰りに凛にファストフード店に行こうと誘った。
凛は暑そうに制服のワイシャツをパタパタさせている。
「だめだ、今日は日向と遊ぶ約束してんだ」
「……あっそ、お熱いことで」
「なんだ、拗ねてんのか? てか、お前彼女作るんじゃなかったのかよ」
「やめた、なんか良い人いないし」
あれから久住のことを忘れようと、同じクラスのやつに紹介してもらった女の子に数人会ったが、いまいちピンとこなくて彼女は相変わらずいないままだった。
ていうか、久住のこと全然忘れられてなかった。まさか自分がこんなにも失恋をずるずる引っ張るようなめんどくさい男だとは思わなかった。
男が好きになったわけじゃない。久住を好きになってしまっただけだ。
「まぁ、落ち込むな今日はお前も仲間に入れてやる! 桃鉄でもしよーぜ!」
「よっしゃー! じゃあ100年な!」
「それ、一日じゃ終わらないだろ……」
「そうと決まればお菓子買ってこうぜ!」
「待て待て、お菓子は日向が買っておいてくれてある」
「そうか、ならとっとと帰ろうぜー!」
今日は金曜日だから、思う存分ゲームに付き合ってもらおう。少しだけ元気になった俺は、軽い足取りで自宅へ向かった。
◇◇◇
「ただいま~」
「お邪魔しまーす」
玄関の扉を開けると同時に、階段を急いで降りる足音が聞こえた。
「おっかえりー! ほらほら、正義早く2階へ!」
「なんだよ……急かすなって」
俺たちの前に颯爽と現れた日向は、俺の背中を押して早く2階へ上がるよう言ってきた。
そんなにゲームやりたかったのかよ。
「押すなって」
「いいからいいから、早く開けて」
日向が押してきたのは俺の部屋の扉の前だった。日向の部屋でゲームすると思ってたからなんで俺の部屋なのだろうと不思議に思ったが、日向があまりにも急かすもんだから、俺は自分の部屋のドアノブを捻り扉を開ける。
「えっ……久住?」
俺の部屋には、星宮学園の制服を着た久住が座っていた。幻かと思い数回瞬きをするが、やはり久住はいた。
「なんで?」
「お前に会いにきた」
──なんで?
もう二度と会えないと思っていた人物が目の前にいる。
あまりに突然の出来事に全く頭が回らずパニックになっている。お互いに気まずくてなんとも言えない空間になっていた。
「あ、久住だ、はじめて見たけどマジでイケメンだな」
空気の読めない男が、ヘラヘラと俺の部屋の中を覗いてそんなこと言っているが、どうでも良かった。
「あっ! お菓子買うの忘れちゃった~、僕ってばうっかりさん」
「じゃあ、買いに行くか?」
「そうだね、凛と二人でお菓子買ってくるね。多分二時間ぐらいかかると思うからそれまで、ごゆっくり~」
なんて棒読みなセリフをバカップル二人はすると、階段を降り家を出ていった。
気を遣ってくれたのはわかるが、もう少し自然にできないもんかな。
今この家には俺と久住の二人だけだ。
俺は自分の部屋に入れずに、入り口の前で突っ立っていた。
「入れよ、お前の部屋だろ」
「あ、うん」
俺はカチコチになりながら自分の部屋に入り、久住の隣に座った。
どうしよ、何話せば良いんだ? ていうか、なんで久住が俺の家に来ているんだよ! 日向が誘ったのかな、でも二人とも接点なんてほとんどないはずだ。
俺は久住の顔をまともに見れず俯いていた。
「久しぶりだな」
「あぁ」
「お前の弟は強引だな、お前よりもよっぽど不良じみてる」
やはり日向が何かしたようだが、一体どんなことをしたのだろうか。久住の言葉から相当乱暴なことをしたんだろうな。
でも、日向に言われただけでくるわけがないと俺は、黙り込んでいた。
「毒島のことを調べた。あいつの妹はオメガじゃなかった」
「はぁ?! どういうことだよ!!」
久住のとんでもない発言に黙っていた俺も流石に反応した。久住は呆れながら話を続けた。
「俺をおとしいれるために毒島が企んだことらしい。アルファやベータをオメガみたいに発情期を一時的に起こす薬があるんだとよ。よくよく考えたらあいつの家は製薬会社だ」
俺の言った通り毒島のことについて調べたらしく、久住は調べた内容を笑いながら話した。
確かにあいつは発情誘発剤とか持ってるぐらいだから、そういう薬を持っていてもおかしくない。
でもそんなことよりも、毒島の妹がオメガではないのならうなじを噛んでも番にはならない。
「じゃあ……お前たちは」
「あぁ、番にはなってなかった」
俺はその言葉を聞いて自然と涙が出てきた。久住と番になれるとかじゃなくてコイツが苦しまなくていいと安心したからだった。突然泣いた俺を見て久住は驚いている。
「なんでお前が泣くんだよ!?」
「だって、ぐすっ……よかっだぁ、これで久住は苦しまなくていいから」
「……お前、お人好しだな、ほんとに」
呆れながら久住はそう呟いた。
「それを、伝えに来たのか?」
「いや、違う……こんな話はどうでもいい」
久住は泣いている俺の顔に手を当てて涙を拭った。久住の顔を見るとすごく真剣な顔で、少し不安になった。
「正義」
ふと呼ばれた自分の名前に胸がドキリと高鳴った。そういえばはじめて久住に名前で呼ばれた気がする。
「な……に?」
「好きだ、俺と付き合ってほしい」
「へ? なんで……」
久住の言葉を何度も頭の中で繰り返す。夢みたいなセリフで夢でも見ているのかと何度も頭の中で疑う。
だって一ヶ月前、俺の告白を久住は断ったのにどうして……
「正義に会った時から、ずっと気になってた。でも、オメガだと思うと怖くてあの時は断っちまった。それに俺の家族はオメガのことを毛嫌いしてる……お前に辛い思いをさてしまうかもしれない」
「いい、そんなの平気だ! ほんとに、ほんとに俺のこと好き?」
「好きだよ」
「うぅ~、俺も好き」
俺は抑えきれなくて久住に思いっきり抱きついた。そんな俺を久住は逞しい腕で抱き止めてくれた。
周りからの批判なんてオメガと分かった時から覚悟を決めているから平気だ。
そんなことよりも久住が俺を好きと言ってくれたことが何よりも嬉しくてまた泣いてしまった。
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