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ギターの軽快な音に、リズミカルなドラム。
ベースをかき鳴らし、それにどんどんテンションをあげていくボーカル。
高校生にしてはまとまっている方か。
まだ、幼さの残る顔立ちを見ながら、俺は腕時計を見た。
終了5分前。
俺の視線に気づいたドラムの手が止まる。
防音になっている為に中の音は聞こえない。
慌てて片づけを始める様子に、ほっとする。
時間が僅かでも過ぎてしまうと、延長料金を貰わないといけない。
そこはこちらも商売だ。
少しの時間位いいよ。なんて言ってしまったら最後。
SNSで拡散され、「ここの店員マジ神。延長料金まけてくれた。ラッキー」なんて書かれた日には、次の日には無職だ。
「あの、まだ時間大丈夫でしたか!?」
部屋を飛び出てきた高校生は、額に汗がにじんでいる。
腕時計は1分前をさしていた。
「ええ。大丈夫ですよ。忘れ物はありませんか?」
「多分、大丈夫です」
「ご利用ありがとうございました」
丁寧に頭を下げる俺を見る事もなく、ガヤガヤと移動する若者たちにかつての自分を見る。
まだ、彼らの熱気の残る部屋は、いつの時代も変わらないものなのかもしれない。
「今はスマホさえあれば、世界中に発信出来るんだもんな」
昔より格段に人の目に着きやすくなったこの時代。
才能のあるものは確実にチャンスにありつく事が出来るんだろう。
それは、裏を返せば才能のない奴はどこでも芽が出ないという事だ。
それがいい事なのか、そうではないのか…。
音楽で生きていこうと決めて上京。
何度、音源をとってレコード会社に送ったか。
路上で歌って、警察から注意された事も一度や二度ではない。
昔はライブハウスに人を呼んだり、そもそも自分たちの音楽を人に届ける事が大変だった。
音楽性の違いで解散なんて、ライブハウスではあるある過ぎて話のネタにもならない。
29歳のバンドの解散を最後に、音楽会社に就職を決めた。
そして、少しでも音楽に触れていたいなんて。
「未練ってやつかな…」
38歳。
独身。
現在彼女無し。
ギリギリ20代はまだ応援してくれる彼女が出来たが、それもどんどん年を重ねる毎に周りから人が減っていった。
ある者は結婚し、ある者は就職し。
俺の周りでメジャーになった人間はいない。
それだけ狭き門なんだって事は知っていたはずなのに。
「俺だったら」なんて、根拠のない自信だけで突っ走ってきた。
「ただいまーっと」
ただ寝るだけの部屋でしかない1Rに、出迎えてくれる人はいない。
駅から歩いて15分。
築45年のこのアパートが俺の城だ。
就職してそこそこ給料は貰っているが、どうしてもここから引っ越す気になれなかった。
いつかは六本木ヒルズの最上階に住むつもりで部屋を借りたのは、いまでは黒歴史を通り越して笑い話だ。
コンビニで買った酎ハイと、から揚げ弁当をテーブルに広げる。
年齢的にも自炊すべきだとは分かっているが、一人で暮らすとどうしても手間だと感じてしまう。
ふと、部屋の隅に目が留まる。
「そうだ。忘れてた。お袋から荷物来てたんだっけ」
小松菜とデカデカと書かれた段ボールに、厳重にガムテープがされてある。
格闘すること数分、無事に開いた段ボールの中から目に飛び込んできたのは、「毎日健康元気に青汁」というパッケージだった。
「青汁とサプリメント多いな…」
ちゃんと食べてるの?
大丈夫?病気してない?
もう、若くないんだから、きちんと体にいいもの食べないと。
そんな声が聞こえてきそうなラインナップだ。
ガサガサと中を漁ると、古い携帯電話と学生時代のアルバムが出てきた。
今では信じられないほど小さな液晶に、携帯の裏には友達と取ったプリクラが貼られている。
「うわっ、懐かしな。えっ、これどこにあったんだよ」
丁寧に充電器まで入っているので、早速充電するとピッーと懐かしい電子音がする。
「おお、昔の連絡先やメールとか残ってんじゃん」
カチカチとアドレス帳を開いていく。
『早坂』
ただ、番号だけが登録されたその文字に、高校生の頃の記憶が一気に蘇る。
ベースをかき鳴らし、それにどんどんテンションをあげていくボーカル。
高校生にしてはまとまっている方か。
まだ、幼さの残る顔立ちを見ながら、俺は腕時計を見た。
終了5分前。
俺の視線に気づいたドラムの手が止まる。
防音になっている為に中の音は聞こえない。
慌てて片づけを始める様子に、ほっとする。
時間が僅かでも過ぎてしまうと、延長料金を貰わないといけない。
そこはこちらも商売だ。
少しの時間位いいよ。なんて言ってしまったら最後。
SNSで拡散され、「ここの店員マジ神。延長料金まけてくれた。ラッキー」なんて書かれた日には、次の日には無職だ。
「あの、まだ時間大丈夫でしたか!?」
部屋を飛び出てきた高校生は、額に汗がにじんでいる。
腕時計は1分前をさしていた。
「ええ。大丈夫ですよ。忘れ物はありませんか?」
「多分、大丈夫です」
「ご利用ありがとうございました」
丁寧に頭を下げる俺を見る事もなく、ガヤガヤと移動する若者たちにかつての自分を見る。
まだ、彼らの熱気の残る部屋は、いつの時代も変わらないものなのかもしれない。
「今はスマホさえあれば、世界中に発信出来るんだもんな」
昔より格段に人の目に着きやすくなったこの時代。
才能のあるものは確実にチャンスにありつく事が出来るんだろう。
それは、裏を返せば才能のない奴はどこでも芽が出ないという事だ。
それがいい事なのか、そうではないのか…。
音楽で生きていこうと決めて上京。
何度、音源をとってレコード会社に送ったか。
路上で歌って、警察から注意された事も一度や二度ではない。
昔はライブハウスに人を呼んだり、そもそも自分たちの音楽を人に届ける事が大変だった。
音楽性の違いで解散なんて、ライブハウスではあるある過ぎて話のネタにもならない。
29歳のバンドの解散を最後に、音楽会社に就職を決めた。
そして、少しでも音楽に触れていたいなんて。
「未練ってやつかな…」
38歳。
独身。
現在彼女無し。
ギリギリ20代はまだ応援してくれる彼女が出来たが、それもどんどん年を重ねる毎に周りから人が減っていった。
ある者は結婚し、ある者は就職し。
俺の周りでメジャーになった人間はいない。
それだけ狭き門なんだって事は知っていたはずなのに。
「俺だったら」なんて、根拠のない自信だけで突っ走ってきた。
「ただいまーっと」
ただ寝るだけの部屋でしかない1Rに、出迎えてくれる人はいない。
駅から歩いて15分。
築45年のこのアパートが俺の城だ。
就職してそこそこ給料は貰っているが、どうしてもここから引っ越す気になれなかった。
いつかは六本木ヒルズの最上階に住むつもりで部屋を借りたのは、いまでは黒歴史を通り越して笑い話だ。
コンビニで買った酎ハイと、から揚げ弁当をテーブルに広げる。
年齢的にも自炊すべきだとは分かっているが、一人で暮らすとどうしても手間だと感じてしまう。
ふと、部屋の隅に目が留まる。
「そうだ。忘れてた。お袋から荷物来てたんだっけ」
小松菜とデカデカと書かれた段ボールに、厳重にガムテープがされてある。
格闘すること数分、無事に開いた段ボールの中から目に飛び込んできたのは、「毎日健康元気に青汁」というパッケージだった。
「青汁とサプリメント多いな…」
ちゃんと食べてるの?
大丈夫?病気してない?
もう、若くないんだから、きちんと体にいいもの食べないと。
そんな声が聞こえてきそうなラインナップだ。
ガサガサと中を漁ると、古い携帯電話と学生時代のアルバムが出てきた。
今では信じられないほど小さな液晶に、携帯の裏には友達と取ったプリクラが貼られている。
「うわっ、懐かしな。えっ、これどこにあったんだよ」
丁寧に充電器まで入っているので、早速充電するとピッーと懐かしい電子音がする。
「おお、昔の連絡先やメールとか残ってんじゃん」
カチカチとアドレス帳を開いていく。
『早坂』
ただ、番号だけが登録されたその文字に、高校生の頃の記憶が一気に蘇る。
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