Calling―20年前の君と繋がる―

おみや

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 あの日から、携帯と写真が手放せなくなった。




 早坂はあの日来なかった。




 はずなのに。





 
 どうして、写真に写っているんだ?
 本当は来ていた?




 いや、そんなはずない。



 
 現像された写真を渡された時に、いないって分かっていて写真の中に早坂を何度も探したんだ。




 来るって言ってたのに。
「なんで来なかったの?」なんて責めてしまいそうで。
 ますます、早坂に声をかける事が出来なかった。




 
 携帯の発信を押しても、ツーッという電子音が鳴るだけだった。






 そうだよ。
 夢だったんだ。





「夢だったけど。悪くない夢だったな…」





 携帯の電源を落とそうとしたその時、早坂の表示と軽快な着信音が鳴る。







 なんだこれ…。夢の続きか?





「あ、もしもし、早坂です」

「…ああ」

「あの、ごめんなさい。いま電話大丈夫ですか?」

「ああ…、大丈夫」

「本当はもっと早めにお礼を言うべきだったんだけど、遅くなってごめんなさい」

「お礼?」

「こないだの。クラス会の場所を教えてくれてありがとう」

「いや、別に…」

「一度電話したんだけど、圏外だったから。このまま帰ろうかと思ったんだけど、最後に一度だけ電話してみようって思って。そうしたら、森口くんが出てくれたから…。あの、本当にありがとう。こんな事急に言われても迷惑だって思うんだけど、誘ってもらえて本当に嬉しかったの」

「あのさ!」

「えっ?何?」

「早坂さん、いまいくつ?」

「えっ?年の事?まだ、誕生日来てないから17だけど…」




 電話の早坂さんは、嘘をついている様子はなく、急な質問に戸惑っているようだった。




「あの、どうしたの?森口くん。あの、泣いてるの?」

「いや、ごめん。ちょっと、目にゴミが入っただなんだ」

「えっ、大丈夫?」

「うん。大丈夫。あのさ、良かったらまた電話してくれないかな?相談でもいいし、愚痴でもいいし」

「えっ?いいの?あの、でも、迷惑じゃない?」

「迷惑じゃないよ。ずっと早坂さんと話してみたいって思ってたんだ」

「えー。私と!?あ、その。お世辞でも嬉しいです」

「お世辞でも社交辞令でもないよ。あのさ、こっちから連絡出来なさそうなんだ。だから、早坂さんから連絡が欲しいんだけど大丈夫?」

「それはもちろん。大丈夫です」



 
 独身男の悲しい妄想なのかもしれない。



 好きだった子からの電話が嬉しすぎて。



 夢でも、こんな夢なら見続けるのも悪くない。





 日曜日の五時から六時まで電話をする事を約束した俺たちはいつまでも話が尽きる事はなかった。




 早坂は実はかなりの人見知りで、クラスメイトと中々打ち解ける事が出来ない事が悩みだったらしい。
 クラスメイトの情報を流すと、「明日話しかけてみる」と電話で意気込んでいた。




 いつも本を読んでいたのは、特に本が好きという訳ではなく誰も話す相手がいないので「本、読んでますよ~。一人でも大丈夫ですよ」アピールだったらしい。




 周りと打ち解けるなら逆効果になると教えたら、びっくりしていた。




「早坂は天然だな」

「あら、失礼ね。そんな事ないよ。これでも勉強は頑張ってるんだから」

「それだって、一人でする事ないから勉強してたってオチだろ?」

「うぐっ。痛い所をつきますね」

「こんなに楽しいなら。もっと早く話しておけばよかった」

「そうですね。もうすぐ卒業ですものね…」



 20年前にとっくに卒業したよ。とは言えない。



「あのさ、早坂は進路ってもう決まってるの?」

「進路…ですか?」

「そう。…たとえば、20年後どこに居るかとか」

「20年後って。先の事過ぎて想像も出来ないですよ。20年。20年かぁ。38歳ですよね。普通におばちゃんですね。結婚して、子供とかいてもおかしくない年齢ではありますよね」

「結婚…そうだよな」

「森口くんはプロのミュージシャンですかね」

「そんなに現実は甘くないよ」

「1年の頃に文化祭で演奏したの見ました。すっごい素敵でしたよ。絶対、私には出来ないし。本当に格好良かったです!」

「見てたんだ」

「見てましたよ。すっごい盛り上がってて、他にも演奏した人たち居たけど、森口くんのバンドが一番目立ってました!」





 譜面を前にがむしゃらに練習して、オリジナル曲を書いているつもりなのに、どこか耳にした事のあるメロディーで何度も譜面を破り捨てた。



 メンバーとの衝突も多くて、うまくいかない事の方が多かった。






 でも…、一番楽しかった。





「あの時の気持ち。どこで無くしちゃったんだろうな…」






「私、ずっと応援してます。だから…」




 鮮明に聞こえていた声は、徐々に遠くに消えていく。




「早坂?」




 携帯がピーッと高音の音を鳴らすと、画面がブラックアウトした。


 古くなっていた携帯の電池は熱で後ろのケースを押し広げるように膨張していた。
 それから、何度充電しても携帯の電源が入る事はなかった。
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