2 / 4
2
しおりを挟む
王子は気まぐれに俺を呼び出す。
そんなワケで俺は今晩も何故か王子に呼び出されて、王子の部屋にきていた。
「お呼びでしょうか、王子」
「ああ、入れ」
俺は王子の部屋に入った。
「あの、王子、御用は?」
「ああ、風呂に入るから背中を流せ」
「は?」
「だから背中を流せ」
「……」
「聞こえなかったのか?」
「セクハラですか?」
王子は俺を睨んだ。
俺は渋々返事をする。
「はい、判りました」
王子の本来の性格は、自分の事は意外と自分でする派で、本来は使用人に着替えを手伝わせたり、風呂で背中を流させたりはしない。
じゃあ何で今俺がそれをやってるかって?
そりゃもちろん王子のイジメの一つに決まってる!
でも俺はこんなセクハラなんかには負けない。
王子の背中位いくらだって流してやる!
そう思って大理石の風呂で王子の背中を流す。
(どうだ、王子め、この俺様の根性には参ったか?)
そう思っていると、裸の王子がサラリと言った。
「前は?」
「え?」
流石に固まった。
「え?」
「だから前も洗えよ」
濡れた髪で艶っぽく王子が言った。前って、前ってあそこ?
俺は動きを止めた。いや、いっそ世界の方が止まってくれと祈りたい。
「この俺様のダイナマイトマグナムを洗えって言ってんだよ」
「えっと……ダイナマイトなんとかって、このごくごく普通サイズのこちらの事でしょうか?」
王子はピクっと引きつった顔をした。
「そうか、そうか、お前はこれを口でご奉仕したいって言うんだな。仕方ないそこまで言うならさせてやろう」
王子は俺の髪を掴んで股間に近づける。
「わー! 言ってないじゃないですか! 一言も!! っていうかやめて下さいよー!!」
泣くように叫ぶと、王子は手を離した。
「ばーか、冗談に決まってんだろ」
俺は出しっぱなしだったシャワーで濡れてしまった顔を拭いながら言う。
「冗談じゃなかったら訴えてますよ!」
王子はカラカラと笑った。
「あはは、本当にお前は面白いな!」
王子は俺へのイヤガラセに成功して、どうやらご機嫌のようだった。
王子様専用召使。
それはどうやら王子のイジメと我侭を一身に受ける、不幸な職業の事なのだとしみじみと理解していた。
そして、俺と王子の攻防はまだまだ続くのだった。
俺は石畳の道をのんびりと歩いていた。
この王国は海に面していて、気候のとてもいい国だ。
町は開放的でのんびりしていて、ちょっと懐かしいような感じがする。
この国は実は俺がいたジパングよりも、とても小さい国だったが、住みやすい良い国だと思う。
歩き続け、人の大勢いる道まで辿りついた。
左右には店が並び、道の方にまでワゴンが飛び出して食べ物を売っている。
そう、ここは町の市場だった。
で、なんでこんな所にいるのかと言えば、もちろん我侭王子の雑用のためだ。
「マンゴーが食べたい」
その王子の一言で買い物にくるハメになったワケだ。
「なんか召使いって言うより、ただのつかいっぱだよなー」
俺は店をいろいろ覗きながら呟いた。
「そういや我侭王子で定着してるけど、彼にはフィなんとかっていう立派な名前があったっけ? まあ、呼ぶ事もないから覚えてなくてもいっか……それにしても……」
野菜や果物が乗ったワゴンを見ながら呟く。
「マンゴーってどんなのだっけ?」
とりあえず俺はそれらしいものを購入して、今来た道を戻っていた。
早く帰らないと、王子にどんなお仕置きをされるかわかったもんじゃない。
え、どんなお仕置きかって?
そりゃもちろんアレだよ。裸にされていろいろ恥ずかしい事をされるんだよ……。
なんて言うのは嘘で、まあ、恥ずかしいのは確かだけど、毎回王子の趣向を凝らしたお仕置きが待っているんだよ。
こないだなんか九九を暗誦させられた。
え、なんで困るんだって? だってちょっと忘れてたりしない?
それにその前は歌を歌わされた。
ごめん、俺、音痴だからさ、他の使用人からクレームが来たよ。
その前はルミナさんのスカートをめくってこいって言われた。
それは流石に勘弁して下さいってお願いしたんだけど、王子は許してくれなくて、俺はすれ違い様にスカートを捲り、その裾を王子の手に握らせた。
王子とルミナさんは見詰め合って黙り込んでいたっけ……。
まあ、すぐに王子にすっごく怒られたけど、なんていうか俺も王子にやられっぱなしってワケではないんだよ。
そんなこんなを思い出しながら歩いていると、ふいに肩をたたかれた。
(誰だろう?)
そう思いながら振り向くと、そこには見た事がある人がいた。
「えっと……」
俺がなんて言っていいか悩んでると、その人物が微笑んだ。
「君はフィの使用人の確かノア君だよね?」
「あ、はい、貴方は王子の友達の方ですね?」
「うん。覚えててくれたんだね」
彼はニッコリと笑った。
彼は先日俺が小さくしたケーキを「気品があるね」などと言っていた人物だ。
王子と同じ金髪だが、こっちの彼の方が髪の色が白っぽい。
しかもうちの王子よりも上品で、よっぽど王子っぽい。
「今日はどうしたの? あ、買い物?」
「あ、はい」
「重そうだね、持ってあげるよ」
「え?」
驚いていると、彼は俺の手からマンゴーの入った袋を奪い取った。
「あ、いいですよ、王子のお友達に持たせたりしたら王子に怒られてしまいます」
けれど彼は微笑んで荷物を返してくれない。
「いいよ、いいよ。それに僕の名前はスピラって言うんだ」
「スピラ様?」
「様か……うん……なかなかクるね……」
(何がくるんだろう? よくわかんないな……)
そう思いながらスピラを見つめた。
(一応名前呼ぶ時は様つけるけど、心の中では呼び捨てだ)
俺は王宮の近くまで彼と話をしながら戻ってきた。
緑に囲まれた道を歩きながらスピラが言う。
「君ってジパングからきたんだってね」
「よく知ってますね」
「ああ、フィがよく君の事を話してくれるからね」
「王子がですか?」
驚いた。
あの王子が俺の話をしてるなんて。
でもきっと王子は俺の失敗を話しているに違いない。
(こないだ壷割ったしな。あ、王子のシーツもベッドメイキングの時に裂いたっけ……)
「今度さ、うちに遊びにこない?」
「え?」
一瞬言われた言葉が判らなかった。
立ち止まってスピラを見つめる。
彼はやさしげな笑顔で言う。
「次の休みはいつ? フィには僕が話しておくよ」
「で、でも……」
知らない人の家にいきなり行く事に抵抗を覚えて、なんとか断れないかと思った。
するとスピラがやさしげに微笑んでみせる。
「うちの屋敷は王宮から近いよ。歩いてもこれる位。それにそうだね、フィも誘って遊ぼうか? ゲームは何がいい? 近くの森で鷹狩りもできるし、使用人を使っての人間チェスもできるよ」
(鷹狩りって何!? 人間チェスって!?)
「ご馳走も用意しておくね」
「はい!」
俺はご馳走に釣られていた……。
屋敷に戻ると、マンゴーを切って皿に乗せ、王子の待つサンルームに向かった。
部屋の藤椅子で王子は読書をしていた。
まったくこの人は、黙っていれば綺麗で上品なんだけど……。
「ああ、お帰り、ノア。ちゃんとマンゴーは買えたか?」
「はい、お切りして持ってきました」
王子は俺を見もしないで、本に視線を向けたまま言った。
「ああ、そう。今、丁度本がいいところだから、口に入れてくれ」
「……」
仕方ないな。これも仕事だ……。
そう思いながら王子の前に跪き、マンゴーを口に運んだ。
「はい、王子」
俺は王子の口にマンゴーを入れる。
王子は本を見たまま口を動かす。
そして。
ブーーーー!
王子はそれを噴き出した。
「なんじゃ、こりゃーーー!?」
「優作ですか?」
俺のボケを無視して(いや、優作知らないだけか)王子は俺を睨みつける。
「これのどこがマンゴーだ!?」
「ち、違うんですか?」
「これはアボカドだろー!!」
そうか。これはアボカドなのか……形も似てるし、種もあるし、あってると思ったのに……。
「似てるんで間違えました。すみません」
俺が謝ると、王子は頭を押さえて溜息をついていた。
で、アボカドがどうなったかと言うと……。
王子は今、サンルームのテーブルでアボカドを食べている。
しかも飲み物はいつもの紅茶でだ。
「俺の部屋にあった醤油とわさびが役にたってよかったです」
「そうだな……このワサビーなんていうのは、初めて食べたが、なかなかいけるな……」
王子はフォークでアボカドを刺し、醤油につけて食べている。
最初は捨てるって言うかと思った。
けど俺が下げようとしたら「食べる」と言ってくれた。
「せっかくお前が買いに行ってくれたしな……」
そう言う王子に、俺はちょっと暖かい気持ちになった。
「ノアも食べるか?」
「え?」
意外な言葉に戸惑っていると、王子がフォークを俺の方に翳した。
「ほら、食べてみろよ」
「あ、はい」
なんだかドキドキしていた。
戸惑いながら顔を近づけ、王子の手からアボカドを食べた。
「!」
「なんだよ、美味くないのか?」
「ちが、わさびが!!」
王子の紅茶のカップを勝手にとって口に入れる。
「って、あっつーーー」
俺は紅茶を噴き出していた。しかも王子の顔に。
「熱いのは俺の方だ!! てか、お前この場でよくこのロマンチックな雰囲気をブチ壊せるな!?」
またも大騒ぎになっていた。
俺は自室で今日の事を思い返していた。
王子の友人のスピラ。
マンゴーじゃなくてアボカド。
そしてやけにやさしい王子。
王子って意外といい人?
俺はアボカドを食べる王子を思い出した。
そして俺のかけた紅茶を、引きつった顔で拭う王子の顔を。
「王子であるこの俺に、口に含んだ紅茶をふきかけるなんて、お前じゃなかったら死刑にしてやるトコだよ」
「え、それって俺が特別って意味ですか? もしかして俺、特別待遇なんでしょうか?」
「ばーか、お前は不幸体質の不器用なトラブルメーカーだからだよ。これ位で死刑にするとお前は何度死んでも足りないからな」
やさしくない王子の言葉。
でも、それを思い出すと暖かい気持ちになるのは何でだろう?
自室のベッドの枕に顔を押し付けて目を閉じる。
なんだか王子の顔ばかりが浮んで困った。
そんなワケで俺は今晩も何故か王子に呼び出されて、王子の部屋にきていた。
「お呼びでしょうか、王子」
「ああ、入れ」
俺は王子の部屋に入った。
「あの、王子、御用は?」
「ああ、風呂に入るから背中を流せ」
「は?」
「だから背中を流せ」
「……」
「聞こえなかったのか?」
「セクハラですか?」
王子は俺を睨んだ。
俺は渋々返事をする。
「はい、判りました」
王子の本来の性格は、自分の事は意外と自分でする派で、本来は使用人に着替えを手伝わせたり、風呂で背中を流させたりはしない。
じゃあ何で今俺がそれをやってるかって?
そりゃもちろん王子のイジメの一つに決まってる!
でも俺はこんなセクハラなんかには負けない。
王子の背中位いくらだって流してやる!
そう思って大理石の風呂で王子の背中を流す。
(どうだ、王子め、この俺様の根性には参ったか?)
そう思っていると、裸の王子がサラリと言った。
「前は?」
「え?」
流石に固まった。
「え?」
「だから前も洗えよ」
濡れた髪で艶っぽく王子が言った。前って、前ってあそこ?
俺は動きを止めた。いや、いっそ世界の方が止まってくれと祈りたい。
「この俺様のダイナマイトマグナムを洗えって言ってんだよ」
「えっと……ダイナマイトなんとかって、このごくごく普通サイズのこちらの事でしょうか?」
王子はピクっと引きつった顔をした。
「そうか、そうか、お前はこれを口でご奉仕したいって言うんだな。仕方ないそこまで言うならさせてやろう」
王子は俺の髪を掴んで股間に近づける。
「わー! 言ってないじゃないですか! 一言も!! っていうかやめて下さいよー!!」
泣くように叫ぶと、王子は手を離した。
「ばーか、冗談に決まってんだろ」
俺は出しっぱなしだったシャワーで濡れてしまった顔を拭いながら言う。
「冗談じゃなかったら訴えてますよ!」
王子はカラカラと笑った。
「あはは、本当にお前は面白いな!」
王子は俺へのイヤガラセに成功して、どうやらご機嫌のようだった。
王子様専用召使。
それはどうやら王子のイジメと我侭を一身に受ける、不幸な職業の事なのだとしみじみと理解していた。
そして、俺と王子の攻防はまだまだ続くのだった。
俺は石畳の道をのんびりと歩いていた。
この王国は海に面していて、気候のとてもいい国だ。
町は開放的でのんびりしていて、ちょっと懐かしいような感じがする。
この国は実は俺がいたジパングよりも、とても小さい国だったが、住みやすい良い国だと思う。
歩き続け、人の大勢いる道まで辿りついた。
左右には店が並び、道の方にまでワゴンが飛び出して食べ物を売っている。
そう、ここは町の市場だった。
で、なんでこんな所にいるのかと言えば、もちろん我侭王子の雑用のためだ。
「マンゴーが食べたい」
その王子の一言で買い物にくるハメになったワケだ。
「なんか召使いって言うより、ただのつかいっぱだよなー」
俺は店をいろいろ覗きながら呟いた。
「そういや我侭王子で定着してるけど、彼にはフィなんとかっていう立派な名前があったっけ? まあ、呼ぶ事もないから覚えてなくてもいっか……それにしても……」
野菜や果物が乗ったワゴンを見ながら呟く。
「マンゴーってどんなのだっけ?」
とりあえず俺はそれらしいものを購入して、今来た道を戻っていた。
早く帰らないと、王子にどんなお仕置きをされるかわかったもんじゃない。
え、どんなお仕置きかって?
そりゃもちろんアレだよ。裸にされていろいろ恥ずかしい事をされるんだよ……。
なんて言うのは嘘で、まあ、恥ずかしいのは確かだけど、毎回王子の趣向を凝らしたお仕置きが待っているんだよ。
こないだなんか九九を暗誦させられた。
え、なんで困るんだって? だってちょっと忘れてたりしない?
それにその前は歌を歌わされた。
ごめん、俺、音痴だからさ、他の使用人からクレームが来たよ。
その前はルミナさんのスカートをめくってこいって言われた。
それは流石に勘弁して下さいってお願いしたんだけど、王子は許してくれなくて、俺はすれ違い様にスカートを捲り、その裾を王子の手に握らせた。
王子とルミナさんは見詰め合って黙り込んでいたっけ……。
まあ、すぐに王子にすっごく怒られたけど、なんていうか俺も王子にやられっぱなしってワケではないんだよ。
そんなこんなを思い出しながら歩いていると、ふいに肩をたたかれた。
(誰だろう?)
そう思いながら振り向くと、そこには見た事がある人がいた。
「えっと……」
俺がなんて言っていいか悩んでると、その人物が微笑んだ。
「君はフィの使用人の確かノア君だよね?」
「あ、はい、貴方は王子の友達の方ですね?」
「うん。覚えててくれたんだね」
彼はニッコリと笑った。
彼は先日俺が小さくしたケーキを「気品があるね」などと言っていた人物だ。
王子と同じ金髪だが、こっちの彼の方が髪の色が白っぽい。
しかもうちの王子よりも上品で、よっぽど王子っぽい。
「今日はどうしたの? あ、買い物?」
「あ、はい」
「重そうだね、持ってあげるよ」
「え?」
驚いていると、彼は俺の手からマンゴーの入った袋を奪い取った。
「あ、いいですよ、王子のお友達に持たせたりしたら王子に怒られてしまいます」
けれど彼は微笑んで荷物を返してくれない。
「いいよ、いいよ。それに僕の名前はスピラって言うんだ」
「スピラ様?」
「様か……うん……なかなかクるね……」
(何がくるんだろう? よくわかんないな……)
そう思いながらスピラを見つめた。
(一応名前呼ぶ時は様つけるけど、心の中では呼び捨てだ)
俺は王宮の近くまで彼と話をしながら戻ってきた。
緑に囲まれた道を歩きながらスピラが言う。
「君ってジパングからきたんだってね」
「よく知ってますね」
「ああ、フィがよく君の事を話してくれるからね」
「王子がですか?」
驚いた。
あの王子が俺の話をしてるなんて。
でもきっと王子は俺の失敗を話しているに違いない。
(こないだ壷割ったしな。あ、王子のシーツもベッドメイキングの時に裂いたっけ……)
「今度さ、うちに遊びにこない?」
「え?」
一瞬言われた言葉が判らなかった。
立ち止まってスピラを見つめる。
彼はやさしげな笑顔で言う。
「次の休みはいつ? フィには僕が話しておくよ」
「で、でも……」
知らない人の家にいきなり行く事に抵抗を覚えて、なんとか断れないかと思った。
するとスピラがやさしげに微笑んでみせる。
「うちの屋敷は王宮から近いよ。歩いてもこれる位。それにそうだね、フィも誘って遊ぼうか? ゲームは何がいい? 近くの森で鷹狩りもできるし、使用人を使っての人間チェスもできるよ」
(鷹狩りって何!? 人間チェスって!?)
「ご馳走も用意しておくね」
「はい!」
俺はご馳走に釣られていた……。
屋敷に戻ると、マンゴーを切って皿に乗せ、王子の待つサンルームに向かった。
部屋の藤椅子で王子は読書をしていた。
まったくこの人は、黙っていれば綺麗で上品なんだけど……。
「ああ、お帰り、ノア。ちゃんとマンゴーは買えたか?」
「はい、お切りして持ってきました」
王子は俺を見もしないで、本に視線を向けたまま言った。
「ああ、そう。今、丁度本がいいところだから、口に入れてくれ」
「……」
仕方ないな。これも仕事だ……。
そう思いながら王子の前に跪き、マンゴーを口に運んだ。
「はい、王子」
俺は王子の口にマンゴーを入れる。
王子は本を見たまま口を動かす。
そして。
ブーーーー!
王子はそれを噴き出した。
「なんじゃ、こりゃーーー!?」
「優作ですか?」
俺のボケを無視して(いや、優作知らないだけか)王子は俺を睨みつける。
「これのどこがマンゴーだ!?」
「ち、違うんですか?」
「これはアボカドだろー!!」
そうか。これはアボカドなのか……形も似てるし、種もあるし、あってると思ったのに……。
「似てるんで間違えました。すみません」
俺が謝ると、王子は頭を押さえて溜息をついていた。
で、アボカドがどうなったかと言うと……。
王子は今、サンルームのテーブルでアボカドを食べている。
しかも飲み物はいつもの紅茶でだ。
「俺の部屋にあった醤油とわさびが役にたってよかったです」
「そうだな……このワサビーなんていうのは、初めて食べたが、なかなかいけるな……」
王子はフォークでアボカドを刺し、醤油につけて食べている。
最初は捨てるって言うかと思った。
けど俺が下げようとしたら「食べる」と言ってくれた。
「せっかくお前が買いに行ってくれたしな……」
そう言う王子に、俺はちょっと暖かい気持ちになった。
「ノアも食べるか?」
「え?」
意外な言葉に戸惑っていると、王子がフォークを俺の方に翳した。
「ほら、食べてみろよ」
「あ、はい」
なんだかドキドキしていた。
戸惑いながら顔を近づけ、王子の手からアボカドを食べた。
「!」
「なんだよ、美味くないのか?」
「ちが、わさびが!!」
王子の紅茶のカップを勝手にとって口に入れる。
「って、あっつーーー」
俺は紅茶を噴き出していた。しかも王子の顔に。
「熱いのは俺の方だ!! てか、お前この場でよくこのロマンチックな雰囲気をブチ壊せるな!?」
またも大騒ぎになっていた。
俺は自室で今日の事を思い返していた。
王子の友人のスピラ。
マンゴーじゃなくてアボカド。
そしてやけにやさしい王子。
王子って意外といい人?
俺はアボカドを食べる王子を思い出した。
そして俺のかけた紅茶を、引きつった顔で拭う王子の顔を。
「王子であるこの俺に、口に含んだ紅茶をふきかけるなんて、お前じゃなかったら死刑にしてやるトコだよ」
「え、それって俺が特別って意味ですか? もしかして俺、特別待遇なんでしょうか?」
「ばーか、お前は不幸体質の不器用なトラブルメーカーだからだよ。これ位で死刑にするとお前は何度死んでも足りないからな」
やさしくない王子の言葉。
でも、それを思い出すと暖かい気持ちになるのは何でだろう?
自室のベッドの枕に顔を押し付けて目を閉じる。
なんだか王子の顔ばかりが浮んで困った。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる