王子様専用

りよ

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王子は気まぐれに俺を呼び出す。
そんなワケで俺は今晩も何故か王子に呼び出されて、王子の部屋にきていた。

「お呼びでしょうか、王子」
「ああ、入れ」
俺は王子の部屋に入った。

「あの、王子、御用は?」
「ああ、風呂に入るから背中を流せ」
「は?」
「だから背中を流せ」
「……」
「聞こえなかったのか?」
「セクハラですか?」
王子は俺を睨んだ。
俺は渋々返事をする。
「はい、判りました」

王子の本来の性格は、自分の事は意外と自分でする派で、本来は使用人に着替えを手伝わせたり、風呂で背中を流させたりはしない。
じゃあ何で今俺がそれをやってるかって?
そりゃもちろん王子のイジメの一つに決まってる!

でも俺はこんなセクハラなんかには負けない。
王子の背中位いくらだって流してやる!
そう思って大理石の風呂で王子の背中を流す。
(どうだ、王子め、この俺様の根性には参ったか?)
そう思っていると、裸の王子がサラリと言った。

「前は?」
「え?」
流石に固まった。

「え?」
「だから前も洗えよ」
濡れた髪で艶っぽく王子が言った。前って、前ってあそこ?
俺は動きを止めた。いや、いっそ世界の方が止まってくれと祈りたい。

「この俺様のダイナマイトマグナムを洗えって言ってんだよ」
「えっと……ダイナマイトなんとかって、このごくごく普通サイズのこちらの事でしょうか?」
王子はピクっと引きつった顔をした。
「そうか、そうか、お前はこれを口でご奉仕したいって言うんだな。仕方ないそこまで言うならさせてやろう」
王子は俺の髪を掴んで股間に近づける。
「わー! 言ってないじゃないですか! 一言も!! っていうかやめて下さいよー!!」
泣くように叫ぶと、王子は手を離した。

「ばーか、冗談に決まってんだろ」
俺は出しっぱなしだったシャワーで濡れてしまった顔を拭いながら言う。
「冗談じゃなかったら訴えてますよ!」
王子はカラカラと笑った。

「あはは、本当にお前は面白いな!」
王子は俺へのイヤガラセに成功して、どうやらご機嫌のようだった。








王子様専用召使。
それはどうやら王子のイジメと我侭を一身に受ける、不幸な職業の事なのだとしみじみと理解していた。

そして、俺と王子の攻防はまだまだ続くのだった。




俺は石畳の道をのんびりと歩いていた。

この王国は海に面していて、気候のとてもいい国だ。
町は開放的でのんびりしていて、ちょっと懐かしいような感じがする。
この国は実は俺がいたジパングよりも、とても小さい国だったが、住みやすい良い国だと思う。


歩き続け、人の大勢いる道まで辿りついた。
左右には店が並び、道の方にまでワゴンが飛び出して食べ物を売っている。
そう、ここは町の市場だった。
で、なんでこんな所にいるのかと言えば、もちろん我侭王子の雑用のためだ。
「マンゴーが食べたい」
その王子の一言で買い物にくるハメになったワケだ。

「なんか召使いって言うより、ただのつかいっぱだよなー」
俺は店をいろいろ覗きながら呟いた。
「そういや我侭王子で定着してるけど、彼にはフィなんとかっていう立派な名前があったっけ? まあ、呼ぶ事もないから覚えてなくてもいっか……それにしても……」
野菜や果物が乗ったワゴンを見ながら呟く。
「マンゴーってどんなのだっけ?」



とりあえず俺はそれらしいものを購入して、今来た道を戻っていた。
早く帰らないと、王子にどんなお仕置きをされるかわかったもんじゃない。
え、どんなお仕置きかって?
そりゃもちろんアレだよ。裸にされていろいろ恥ずかしい事をされるんだよ……。
なんて言うのは嘘で、まあ、恥ずかしいのは確かだけど、毎回王子の趣向を凝らしたお仕置きが待っているんだよ。

こないだなんか九九を暗誦させられた。
え、なんで困るんだって? だってちょっと忘れてたりしない?
それにその前は歌を歌わされた。
ごめん、俺、音痴だからさ、他の使用人からクレームが来たよ。
その前はルミナさんのスカートをめくってこいって言われた。
それは流石に勘弁して下さいってお願いしたんだけど、王子は許してくれなくて、俺はすれ違い様にスカートを捲り、その裾を王子の手に握らせた。
王子とルミナさんは見詰め合って黙り込んでいたっけ……。
まあ、すぐに王子にすっごく怒られたけど、なんていうか俺も王子にやられっぱなしってワケではないんだよ。


そんなこんなを思い出しながら歩いていると、ふいに肩をたたかれた。
(誰だろう?)
そう思いながら振り向くと、そこには見た事がある人がいた。
「えっと……」
俺がなんて言っていいか悩んでると、その人物が微笑んだ。

「君はフィの使用人の確かノア君だよね?」
「あ、はい、貴方は王子の友達の方ですね?」
「うん。覚えててくれたんだね」

彼はニッコリと笑った。
彼は先日俺が小さくしたケーキを「気品があるね」などと言っていた人物だ。
王子と同じ金髪だが、こっちの彼の方が髪の色が白っぽい。
しかもうちの王子よりも上品で、よっぽど王子っぽい。

「今日はどうしたの? あ、買い物?」
「あ、はい」
「重そうだね、持ってあげるよ」
「え?」
驚いていると、彼は俺の手からマンゴーの入った袋を奪い取った。

「あ、いいですよ、王子のお友達に持たせたりしたら王子に怒られてしまいます」
けれど彼は微笑んで荷物を返してくれない。

「いいよ、いいよ。それに僕の名前はスピラって言うんだ」
「スピラ様?」
「様か……うん……なかなかクるね……」

(何がくるんだろう? よくわかんないな……)
そう思いながらスピラを見つめた。
(一応名前呼ぶ時は様つけるけど、心の中では呼び捨てだ)





俺は王宮の近くまで彼と話をしながら戻ってきた。
緑に囲まれた道を歩きながらスピラが言う。

「君ってジパングからきたんだってね」
「よく知ってますね」
「ああ、フィがよく君の事を話してくれるからね」
「王子がですか?」
驚いた。
あの王子が俺の話をしてるなんて。
でもきっと王子は俺の失敗を話しているに違いない。
(こないだ壷割ったしな。あ、王子のシーツもベッドメイキングの時に裂いたっけ……)

「今度さ、うちに遊びにこない?」
「え?」

一瞬言われた言葉が判らなかった。
立ち止まってスピラを見つめる。
彼はやさしげな笑顔で言う。

「次の休みはいつ? フィには僕が話しておくよ」
「で、でも……」
知らない人の家にいきなり行く事に抵抗を覚えて、なんとか断れないかと思った。
するとスピラがやさしげに微笑んでみせる。

「うちの屋敷は王宮から近いよ。歩いてもこれる位。それにそうだね、フィも誘って遊ぼうか? ゲームは何がいい? 近くの森で鷹狩りもできるし、使用人を使っての人間チェスもできるよ」
(鷹狩りって何!? 人間チェスって!?)
「ご馳走も用意しておくね」
「はい!」
俺はご馳走に釣られていた……。




屋敷に戻ると、マンゴーを切って皿に乗せ、王子の待つサンルームに向かった。
部屋の藤椅子で王子は読書をしていた。
まったくこの人は、黙っていれば綺麗で上品なんだけど……。

「ああ、お帰り、ノア。ちゃんとマンゴーは買えたか?」
「はい、お切りして持ってきました」
王子は俺を見もしないで、本に視線を向けたまま言った。
「ああ、そう。今、丁度本がいいところだから、口に入れてくれ」
「……」
仕方ないな。これも仕事だ……。
そう思いながら王子の前に跪き、マンゴーを口に運んだ。
「はい、王子」
俺は王子の口にマンゴーを入れる。
王子は本を見たまま口を動かす。
そして。
ブーーーー!

王子はそれを噴き出した。
「なんじゃ、こりゃーーー!?」
「優作ですか?」
俺のボケを無視して(いや、優作知らないだけか)王子は俺を睨みつける。

「これのどこがマンゴーだ!?」
「ち、違うんですか?」
「これはアボカドだろー!!」
そうか。これはアボカドなのか……形も似てるし、種もあるし、あってると思ったのに……。

「似てるんで間違えました。すみません」
俺が謝ると、王子は頭を押さえて溜息をついていた。


で、アボカドがどうなったかと言うと……。

王子は今、サンルームのテーブルでアボカドを食べている。
しかも飲み物はいつもの紅茶でだ。

「俺の部屋にあった醤油とわさびが役にたってよかったです」
「そうだな……このワサビーなんていうのは、初めて食べたが、なかなかいけるな……」
王子はフォークでアボカドを刺し、醤油につけて食べている。
最初は捨てるって言うかと思った。
けど俺が下げようとしたら「食べる」と言ってくれた。

「せっかくお前が買いに行ってくれたしな……」

そう言う王子に、俺はちょっと暖かい気持ちになった。

「ノアも食べるか?」
「え?」
意外な言葉に戸惑っていると、王子がフォークを俺の方に翳した。
「ほら、食べてみろよ」
「あ、はい」
なんだかドキドキしていた。
戸惑いながら顔を近づけ、王子の手からアボカドを食べた。
「!」
「なんだよ、美味くないのか?」
「ちが、わさびが!!」
王子の紅茶のカップを勝手にとって口に入れる。
「って、あっつーーー」
俺は紅茶を噴き出していた。しかも王子の顔に。

「熱いのは俺の方だ!! てか、お前この場でよくこのロマンチックな雰囲気をブチ壊せるな!?」
またも大騒ぎになっていた。




俺は自室で今日の事を思い返していた。
王子の友人のスピラ。
マンゴーじゃなくてアボカド。
そしてやけにやさしい王子。
王子って意外といい人?

俺はアボカドを食べる王子を思い出した。
そして俺のかけた紅茶を、引きつった顔で拭う王子の顔を。

「王子であるこの俺に、口に含んだ紅茶をふきかけるなんて、お前じゃなかったら死刑にしてやるトコだよ」
「え、それって俺が特別って意味ですか? もしかして俺、特別待遇なんでしょうか?」
「ばーか、お前は不幸体質の不器用なトラブルメーカーだからだよ。これ位で死刑にするとお前は何度死んでも足りないからな」

やさしくない王子の言葉。
でも、それを思い出すと暖かい気持ちになるのは何でだろう?
自室のベッドの枕に顔を押し付けて目を閉じる。

なんだか王子の顔ばかりが浮んで困った。



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