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第二十五章 終わりの、終わり
05 雷鳴? 骨の髄までを震わせる、低い音が響いている。
しおりを挟む雷鳴?
骨の髄までを震わせる、低い音が響いている。
アサキから発せられている。
崩れ、溶けて、肉体をほとんど失いつつも、反比例的に膨れ上がる魔力や思念怨念が、激しく衝突しては弾け散っているのだ。
その、アサキの髪の毛を、がしりと掴んで吊るし持っているのは、白銀の魔法使い、リヒト所長の至垂徳柳である。
ずっと掴み持っている、つまり接触している、その影響であろうか。至垂の肉体までが、奇妙な状態になっていた。
見た目が、デジタル画像のブロックノイズのように、五平方センチほどのタイル状になっているのだ。
肉体の変質によるものか。
それとも光の屈折、または精神作用によりそう見えるだけなのか。
奇妙は、周囲にも起きている。
ごおん、ごおん
真っ白な、どろどろと溶け合った濃密なものが、激しく渦巻いているのだ。
この、密閉された空間の中を。
大河の如く、大きく大量に。
土砂崩れの如く、激しく大量に。
ここは、体育館ほどの広大な空間。
窓がなく、飾りがなく、カビ臭い。
地下シェルターの貯水場を想像させる、広大な空間である。
その、端である壁際に、白銀の魔法使い至垂は立っている。もうほとんど首しか残っていないアサキの、赤い髪の毛をむんずと掴み吊るしたまま。
目の前にある広い床の中央には、巨大な五芒星が描かれている。
鮮血にも見える、真っ赤な塗料で。もしかしたら塗料などではなく、本当に血であるのかも知れない。
「あの中心が、『扉』だ」
それは、赤毛の少女へ聞かせようとした言葉であるのか。
自分の決心を、確かめるものであったのか。
巨大な五芒星の、その中央を見ると、さらに小さな五芒星が描かれているのが分かる。
その中央には、さらに小さな五芒星。
何重かになっているその中心からは、真っ白な光が吹き上がっている。十数メートルはあろうかという高い天井へと、突き刺さっている。
まさに光の柱である。
白銀の魔法使い、彼女の発した言葉が本当ならば、こここそが日本の半分を覆う超巨大な五芒星結界の、最々々中心部。「絶対世界」への扉、ということになる。
実際それは事実であった。
ここは東京、平将門の首塚すぐ近くにある、大きな神社の地下深く。組織より「中心」と呼ばれるところであり、この光の柱こそが『扉』なのである。
扉にヴァイスタが触れることで、「新しい世界」が発現し、世界は滅びを向かえるといわれている。
半分は正解だが半分は間違いだ。
滅ぶのは、「流れの導き手」がいないためである。
そうなると世界は乱れ歪み、神たる「理」としては、世界をリセットせざるを得ない。それが、世界が滅びるといわれている理由の、最新学説だ。
だが、超ヴァイスタが扉に触れたのならば、話が違う。後に続くヴァイスタの導き手となって、正しき場所へとエネルギーを運べるようになる。本来の「新しい世界」、つまりは「絶対世界」へと行くことが出来るのだ。
真実かは否かは定かでないが。学説ではあるが、まだ誰も試した者はおらず、当然、目撃した者もいないのだから。
だが、至垂は、それを真実であるとして準備を進めてきた。
真実であるとして行動した、その結果がこの光景である。
怒涛の、真っ白な流れ。
真実の世界へと繋がろうとしている、液状化したヴァイスタによる濁流。
魔道器魔法使いという造られた生物が、成り上がってリヒトを牛耳り、さらには神の世界へ行こうとしている。至垂が知らずほくそ笑んでしまうのも、当然というものではあろう。
どろどろと粘度のある真っ白な液体が、怒涛の勢いでこの広大な空間の内周をぐるぐる回っている。
地を揺らし、低い唸りを上げ、大河の如く、竜が如く。
ヴァイスタが潰れ溶け合って、存在の有り様を変えたものである。ザーヴェラーの一種、ともいえようか。
濁流が作る輪が、急速に狭くなってきていた。
つまりは、ヴァイスタが触れれば世界が滅ぶという『扉』に、ヴァイスタが迫ってきていた。
ある程度まで輪が狭まったところで、ぐるぐる同じ軌道を回り続けているのは、最後の結界を破ることが出来ずにいるのか。
それとも、躊躇しているのか。
それとも、時を待っているのか。
白銀の魔法使い至垂の、身体の崩れがより酷くなっていた。
本当にそう変化しているのか、見る者の視覚に訴えているだけなのか分からないが、まるでブロックノイズだらけのデジタル映像といった見た目の、その乱れがより酷くなっていた。
至垂と知っていなければ、至垂と気付かないのではないか、というほどに。
怨霊と化しつつあるアサキの首を掴んで持っている、つまり直に触れているためである。魔力磁場の影響に、空間がズレて視認情報に影響を与えているのである。
無数のタイルがズレにズレて、といった見た目の至垂は、その乱れたデジタル画像然の右腕を持ち上げると、ぱちんと指を鳴らした。
光だ。
周囲全方、横に縦に、次々と、数センチ四方の光が浮き上がった。
空間投影された、モニター画面である。
サイズは大小様々、五百枚以上はあるだろう。
特に大きな数枚は、定点カメラによる映像だ。
先ほどまで彼女たちのいた、リヒト支部。
さらには、大阪本部の中や、玄関前の映像。
仙台、大阪、佐渡ヶ島、青ヶ島、各地区に配置された五芒星結界が存在している、霊舎や、建物エントランス。
モニターの中の映像もここと同様に、地面や床がぐらぐらと激しく揺れている。
カメラは、結界の守護に仕えている魔法使いたちが、異変に狼狽えている姿を捉えている。
スーツや白衣姿の男女が、情けなく逃げ惑っている姿を捉えている。
さらには、無数の真っ白な巨人がひしめき合う姿を捉えている。
……これは、どうしたことであろうか。
映像の中の真っ白な巨人、ヴァイスタが一体、また一体と、崩れていく。
身体が砂と化して、空気に溶けて、消えていく。
これは、どうしたことだろうか。
遠い地での映像のはずなのに、モニターの中でヴァイスタが消滅するたび、この地、白銀の魔法使い至垂が踏みしめている足元が、どうん、どうん、激しく震える。
都度、ここ中央結界に秘める闇が深まっていく。よりどろどろ濃密になっていく。
これが数枚の、定点カメラらしき映像である。
対して、五百枚のほとんどを占めている小さなモニター映像は、視点がばたばた目まぐるしく動いていることや、位置の低さからして、リストフォンのカメラであろう。
「死ぬな! ぜ、絶対に助けはくるから!」
「うああああああ!」
「む、無理、キリがない……ああああ、ミヤちゃん後ろおお!」
「ちが、て、手だけじゃない! え、わ、わたしも……え、ええっ!」
「どこからヴァイスタが、こんな……」
若い女子の声ということや、話す内容からしても、明らかであろう。
つまりは、魔法使いの着けているリストフォンが映している映像であるということだ。
左手首からの視点であるため分かりにくいが、大多数の映像は武器を持ち戦っているものである。
仲間たちと一緒に、白い巨人、ヴァイスタと。
映像の主からも、周囲にいる仲間たちからも、酷く慌てている様子、混乱している様子が見て取れる。
あまりにも突然、ヴァイスタが出現したのだろう。
または、あまりにも大量のヴァイスタが出現したのだろう。
その両方であるかも知れないが、映像からはそこまで分からない。
慌てている中でのさらに左手首視点なので分かりにくいが、彼女たちも至垂と同様に、奇妙な見た目になっていた。身体全体がブロックノイズ、乱れたデジタル画像みたいな。
いや、ノイズならばマシな方で、中には、両断された胴体が斜めにずるり大きくズレている、としか見えない者までいる。
彼女たちの、自らの身体を見る蒼白な顔からして、このモニター映像の乱れというわけではないだろう。
かつて経験したことのない、ただ事ではない事態に、恐れを抱き困惑しながらも、ヴァイスタの群れと戦っている魔法使いたち。
ズレる身体、崩れる身体、という違和感や恐怖感に、まともに戦えるはずもなく。次々、ヴァイスタの餌食になっていく。
通常、ヴァイスタ戦で犠牲者が出ることなど、ほとんどないといわれている。稀に出る犠牲者の大半は、ザーヴェラーによるものだといわれている。
だというのに、モニター映像の中で、一人、また一人、魔法使いが死んでいく。
ぐるり周囲の五百以上もあるモニター映像を見ながら、至垂の顔は実に満足げであった。
どるっ、
どむっ、
モニターの中で、ヴァイスタが消滅する都度、
魔法使いが狂気に侵されるほど、
殺害される、その都度、
どるっ、
どくん、
闇が、膨らむ。
空間内圧が高まり、爆発しそうなほどに、膨らむ。
絶望により、闇が。
溶けたヴァイスタや、死地に陥りつつある魔法使いたちの恐怖。そうした黒いエネルギーが、この中央結界と連動して、なだれ込んできているのだ。
また、モニター映像の一つが、悲劇を映し出す。
薄桃色の魔道着の魔法使いが、狂い、笑いながら、ヴァイスタへと変じていくところを。
周囲の者が次々と食われ殺された絶望に、耐え切れずに。
その悲劇の映像は、それを見ている仲間のカメラ映像のようだ。
そうして新たに誕生した、『魔法使いの成れの果て』。
闇が濃いほどに全身ぬるぬる真っ白なそれは、不意に映像の主へと飛び掛かった。
悲鳴が上がる。
映像の半分が隠れてしまう。
押し倒されたのか、映像の残る半分がガタガタ激しく揺れる。
そして、動かなくなった。
青い空が映ったかと思うと、またすうっと暗くなる。
生まれたばかりであろうヴァイスタが、多い被さっていた。
そして、真っ白な、のっぺらぼうの顔を、ゆっくり落としていった。
再び、映像が震え始める。
くちゅり、がつり、という音を、マイクが拾っている。
映像だけでは、明後日の方向を映すだけで、なにが起きているのかまでは分からない。
だが、なにが起きているかなど映し出すまでもなく分かること。ヴァイスタが、獲物の腹を食い破り、内臓を食っているのである。このカメラ映像の、リストフォンの持ち主を、食っているのである。
不意に、顔が映った。
息継ぎ、か分からないが、頭を持ち上げたヴァイスタの、血にまみれたのっぺらぼうの顔が。
と、真っ白な顔の真ん中から、ずぶりとなにかが突き出した。
槍の、穂先であった。
仲間であろうか。
オレンジの魔道着を着た魔法使いが、泣きながら、槍でヴァイスタの後頭部を突き刺し、貫いたのだ。
ガタガタ震えながらも、オレンジの魔法使いが、昇天魔法を唱える。
だが、呪文が間違っているのか魔力が足りていないのか、ヴァイスタに昇天の兆しはまったく見られなかった。
慌て唱え直すが、状況は変わらない。
昇天させない限りヴァイスタは滅びない。やがて復活してしまう。
せめてその復活を阻止しよう遅らせようということか、オレンジ色の魔法使いは、再びヴァイスタへと槍を突き刺した。何度も、何度も、胴体を、身体を。何度も、何度も、突く、穂先で薙ぐ、切り付ける。
ぶちゅり、ぶちゅり、白いゼリー状の物体が弾け飛ぶ。
必死に槍を振るう、オレンジ色の魔法使い。
やがて、恐怖に耐え切れなくなったか仲間の死の悲しみが限界を超えたか発狂、腹を抱えて笑い始めた。
オレンジ色の魔道着が、びりり内側からはち切れて、布地すべてが地に落ちた。
あらたなヴァイスタが、誕生していた。
この映像に限らない。
どれも、狂っていた。どれも、狂気に満ちた、映像であった。
そんな五百ほどもある映像を見ながら、白銀の魔法使い至垂徳柳は、にやり唇を釣り上げる。
「データからの推測通りだな。地方配属者ほど、基本的に魔力は弱いからな。この魔力磁場変動に、抵抗力がないんだ」
顎に指を当てて、楽しそうに画面を見ているが、やがてまた、小さく口を開く。
「でもまだ、きっかけが呼び起こす通常のヴァイスタ化に過ぎない。磁場変動で、率が変わっただけ。……つまりは、まだまだこれからということか。さあ、見逃すな。令堂くんの絶望が、どんどん加速して、どんどん伝播していくぞ」
「絶 望も、なに、も、さっき、から……」
アサキの声である。
ほとんど生首に近い無残な姿で、至垂に髪の毛を掴まれ吊るされている、アサキの声である。
至垂はあえて無視か、乾いた顔を嫌らしく歪めて、
「しかし、令堂くんの念がこれほど強大とはねえ。まだ『扉』が開くどころか、触れてすらいないのに、救い求めてうごめく闇の魂たちが、きみの魂の絶ぼ……」
「絶望はしないといった!」
ごう、と風が起きた。
血まみれの、ぐしゃぐしゃに潰れた顔で、アサキが睨み怒鳴ったのである。
「してるからこうなってんでしょおーーお!」
ははあっ、と笑いながら至垂はアサキの生首を振り回した。
髪の毛を掴んだまま、ぶうんと遠心力。反対の手に握られている剣先へと、アサキの頭部、顔面を、振り下ろした。
がぢゅっ
鼻の軟骨が砕ける音。
アサキの顔の真ん中に、剣の切っ先が突き刺さっていた。
だが、ただそれだけのこと。アサキのドス黒い眼光に、いささかの変化もなかった。
顔の真ん中に剣が深く突き立っているというのに、痛みなどまるで感じていないのか、感じてそれすら負の念を生む原料なのか、アサキは一つしかない目で至垂を睨み続けている。
望む反応のないことに至垂は、ふんと鼻を鳴らした。
アサキの顔を押さえてぐちゅり剣を引き抜くと、その生首を今度は高く放り投げた。落ちてくるところを狙いすまして、剣を振り上げながら斜めにぶったぎった。
爆音と、ばじり電気の弾ける音が混じり、アサキの頭部が爆ぜ、破裂、爆発し、飛び散っていた。
赤毛の少女の頭が半分、消えてなくなっていた。額から頭頂にかけての、左側が完全に吹き飛んでいた。
なんという、不思議で、気味の悪い光景であろうか。
アサキの身体は溶けてほとんどなく、生首といって過言でない。
剣を深く突き刺された鼻っ柱は、じくじくとした、真っ赤な空洞が見えている。
さらにはいま頭を半分吹き飛ばされて、頭蓋骨の中には飛ばされず残った脳味噌がぐちゃり潰れている。
そんな状態であるというのに、
そんな状態の、形相の、怨念に満ちた顔が、空中に浮かんでおり、赤い前髪の隙間から、リヒト所長を睨み続けているのだから。
片方はとうに潰されており、残っている片目で。
これほどに、不思議で、気味の悪い光景があるだろうか。
だが白銀の魔法使いに、驚く様子はまるでなく、
「首だけになっても、頭が半分なくても、生きている。それは霊的存在になりかけている、つまりヴァイスタ化が始まっているということに他がならない。……だが、まだ人の身のうちに、ここまで肉体を失えば、キマイラとはいえ普通は生きていられない。……なのに、きみは生きている」
ふふ、と笑うのみであった。
至垂は、手を伸ばす。
空中に浮かんでいる赤毛の少女の生首へと。
掴もうとするが、映像であるかのように、するり抜けてしまう。
霊的存在、という自分の言葉を立証したのである。
「インアインアンデウエルト」
呪文を唱えながら、再び手を伸ばす。
今度は、掴めた。
頭の半分、そこに生えている赤い頭髪を、しっかりと。
触るな。
言語思念を発し、もがき、逃れようとするアサキであるが、至垂は笑みを浮かべたまま。
「さあ、そろそろ頃合いか」
前へと、歩き出す。
物理的、霊的、双方から赤毛の少女をしっかり手に掴んだまま。
何重にも描かれた五芒星の、中心へと。中心にある光の柱、つまりは『扉』へと。
離、せ。
発せられる、赤毛の少女の強烈な思念。
口を開かないのは、もう開けないからだ。
顔面の中心を、肉の厚い洋剣で深く刺し貫かれているため、鼻どころか口もぐちゃぐちゃ。大きく穿たれた奥にぐずぐずと赤黒い中身が覗いているという状態で、物理的に動かしようがないのである。
離せ……
赤毛の少女、アサキの言語思念。
至垂の耳に、入ってはいるのだろう。
だが無視して、いや、おそらくは聞こえていてむしろ心地よさげに、一歩、一歩、ゆっくり、進んでいく。
結界の、中心へと。
『扉』へと。
離せ……
「断る」
なお歩き続ける至垂であるが、次の瞬間、指がもげて飛び散っていた。
ぼっ、
という爆音と共に、アサキの髪の毛を掴んでいる至垂の指が爆発し、すべてちぎれ、くるくる回り飛んで、空中へと散らばり、落ちた。
それは、アサキの魔法によるものであったか。
単純な、恨みの念力であったのか。
いずれにせよ、己の指を飛ばされても至垂はまるで動じなかった。
予期、覚悟していたのか、お得意のなんにも気にせずその時任せか、指で掴めないなのならば、と腕を伸ばしてアサキの頭部を小脇に抱え込んだ。
部屋の内周をうねうね動いていた、潰れ溶けたヴァイスタ集合体、その川の流れであるが、至垂が中心へと近付くに連れて輪が狭まっていた。質量保存の法則を考えると、狭まった分がどこへ消えたのかは謎であるが、霊的存在だからというしかないのだろう。
離せといっている!
言語思念の叫び声。
再び、爆発が起きた。
至垂の、アサキの頭部を抱えている腕が吹き飛んだ。
小脇に抱えていたため、脇腹も魔道着ごと深く大きくえぐれて、骨や内臓が見えていた。
だが至垂の顔は、痛みに僅かしかめることすらもなく、吹き飛ばされたその瞬間には既にもう片方の腕を伸ばしていた。
先ほどアサキに指を食いちぎられた方の手であり掴めないため、また小脇に抱え込む。
残るその腕も爆発して、ちぎれ飛んだ瞬間、至垂は頭でぐいと押した。
失った両腕の代わりに、自分の額を当てて。
頭部だけという状態になった赤毛の少女を、押し込んだ。
結界の、最中央へと。床から天井を突き刺している、真っ白な光の柱へと。
触れた。
その、瞬間であった。
白い光の柱が、音もなくすうっと太く広がり始めたのは。
広がり、砕き、吹き飛ばしている壮絶にも見える光景というのに、それはいっそおだやかで、ほろほろと溶けるかのように音もなく、光の柱が、広がっていく。
そこに見えるは空……
いや、空であり、空でなかった。
空ではあるが、空ではなかった。
広がる光が、異空と現界との境界を、ほろほろと魚の身をほぐすかのように、音もなく破壊していく。
現界と異空とが、溶け混ざっていく。
次元の、対流。
ヴァイスタ集合体である真っ白な大河が渦を巻いて、ぐるぐると、うねうねと、すべてを飲み込むべく、内へ、外へ、上へ、下へ、広がり、広がる。満ちる。満ちていく。
至垂の周囲になお浮かんでいる、大小数百枚のモニター映像。
その中では、魔法使いたちが発狂し、
叫び、
呪い、
膝を着き、
頭を抱え、
身体がぼやけて、
崩れて、
顔が消えていく。
白く、ぬるぬるとした物へと、変わっていく。
そういう結末の魔法使いだけを映しているのか。
それとも、存在するすべての魔法使いが現在そうであるのか。
映像の中の魔法使いたちは、次々とヴァイスタへと存在を変えていく。
至垂、
両腕のない、脇腹をごそりえぐられた、至垂徳柳は、叫ぶ。
うねる、満ちる、周囲の大河と、そしてその映像を見ながら、確信持った表情で叫ぶ。
「繋がった!」
と。
「見るがいい! 畏怖するしかない小人は、自己存在自体に絶望し、もうヴァイスタになる以外の道はない。人であるが故の本能、反射であり、抗うことは不可。不可!」
ふざけ、るな……
こんなこと、をして、なにに、なる。
アサキの、憤り。
言語思念。
至垂への個人的な恨みに凝り固まっているとはいえ、このような凄惨な光景を見せられて、黙っていることが出来なかったのだろう。
その憤りの念は、微塵も届いていないようであるが。
「もう、止まらない。係数も導き出された最適解に固定された。女だけではない。男ども、動物、微生物、魔力のほとんどない生き物すらも、いや、無機物すらもヴァイスタになる。救済を求めて。そして! それらがたどり着くべき世界への、流れを作り、導くのは、令堂くん、きみだ!」
天を突き刺す真っ白な光に、包まれながら。
低く唸るうねり流れる、真っ白な流れに囲まれながら。
両腕を切り落とされて脇腹もえぐれて、血がじくりじくり流れているというのに、痛みに顔を歪めるどころかむしろ恍惚然と饒舌に叫び続けていた。
現界と異空の溶け合う、空を見上げながら。
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