転生勇者観察日記~不器用最強勇者を飼うことになりました~

常に眠い猫

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第1章「最強勇者観察日記1冊目」

観察日記3「それはきっと見間違いのはずで」

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 今日はとても天気がいい。
 それはもう、とても寒い季節なのに、縁側に座っているだけで眠くなってしまうほど。

 というわけでして。

 今私は縁側でのんびりとお茶を飲んでいる。
「はぁ。たまにはこういうのもいいわねぇ」
 お茶の名産地からお取り寄せた高級風緑茶をすすりながら羊羹をつまんで、クルミは言う。
「そうだな。こうして暖かい空の下、お茶を嗜むのも悪くはない」

 ズズッ、、、。

 そして当然のように、お茶と洋菓子を挟んだ反対側には、洒落たセーターにジーパンで正座をするアカメの姿があった。
「、、、ねぇ、アカメさんや」
「何だ?クルミ」
 この、のんびりとした雰囲気だからなのか、いつもより返事がまったりしている。
 いつもはハキハキと話すアカメが、今この時はどこか気の抜けた声を出している。
 そのことに違和感を覚えながら、お茶を脇に置いてクルミは首をかしげた。
「いつからそこにいたんです?」
「ぬ?つい今し方来たばかりだが、それがどうかしたか?」
「え、いや。物音ひとつなかったから、少しだけびっくりした」
「そうか。驚かせてすまなかったな」
「別にいいんだけどさ。いつもならこの時間は何か物音がするから」
 そう言ってクルミはぼんやりと空を見上げ、ここ数日のことを思い返した。

 ここ数日の間。
 朝、クルミが起きると家の中のどこかで何かが壊れる音がしていた。
 それは扉だったり、壁だったり、お皿だったり、床だったり。
 壊れるたびに度肝を抜かれて、最初こそ声を荒げて怒っていたクルミだが。回数を重ねるごとに力を失い、今ではあきらめの方が先に立って何も言えなくなるという、そんな虚しい現状が成り立っていた。

 アカメを拾ってからそれなりにはたったが、家の中で物が壊れない日がまずない。
 それに今はお昼前。
 そこまでで未だに音がないのはとんでもなく意外なことだった。
 そんなクルミの考えがアカメにはわかったのか、空を見上げるその横顔を見ていた彼は、少し気まずそうに視線を外し、同じく空を仰ぎみる。
「いや、その。本当に色々と済まないと思っている。力の加減というものは全力でしているのだが、それでもどうも」
 本当に申し訳なさそうにそう言い、どこか悔しそうに目を細めながら空を見ているアカメ。
 クルミはそれをちらりと横目で見て、再び空に目を戻した。
「そう言えばさ。アカメに色々聞きたいこととかあるのよ」
「聞きたいこと、、、なんだ」
「そうねぇ。色々壊してくれちゃってるから、私の質問にはできるだけ全部答えてもらうわよ?」
「、、、わかった」
 ほんの少しの間の後、アカメははっきりと答える。
「うん。そうねぇ、まずは」
 クルミはそう言って思考を巡らせる。聞きたいことは色々とある。前に聞いたことだけでは足りない部分が本当に色々。
 前回は単なる身元確認のためにと思ってした質問だけど、あの時の答えといい、名乗り方といい、そしてこのなんでも壊す筋力といい。あまりにもおかしなことがありすぎる。
 どこか頭の中で納得している部分があるのも、クルミの悩みのひとつでもあった。

 そしてここに、お互いが互いの顔を見ず、のんびりとした問答が始まった。

「まずは、そう。あなたはカルクと呼んで欲しいと言ったのに、私は適当な名前つけて読んでしまっていることについては、どう思ってるの?」

「名か。私としては、別にいいと思っている。友人の中には私をルイと呼ぶ者もいるからな。故に気にしてはいない。好きに呼んでくれ」

「そう。それならいいか。じゃぁ次。あなたは一体何者なの?」

「私はとある世界で勇者をやっていた。正確には勇者という称号と力を受け継いできた家系の、正式な『勇者』の後継者であり、世界唯一の力を持った人間であり、史上最悪と謳われた魔王をこの手で打ち果たした、最初で最後の勇者」

 つらつらとアカメの口から出てきた身の上話に、

「す、すごいわね。なんか色々と。魔王を倒したとか、、、勇者とか」

 クルミはつい苦笑気味にそう言ってアカメを見た。
 そんな彼女の言葉に、アカメはしかし俯く。

「たが、正直なところ、魔王を本当にうち果たせたのか、私にはわからないのだ」

「え?どうして?」

「クルミと話していて、この世界は私の知る世界とは違う世界なのだとわかった。しかし、なぜ私はここにいるのか、わからないのだ」

 アカメは空から目を離し、うつむき気味に続ける。

「これは多分だが、魔王を討ち果たしたその瞬間に次元性の移動魔法をかけられたのだろうと予想できる。だがその魔法を行うには、人間一人分の犠牲はつきものなのだ。一人分の命の力がなければ、次元を歪めることは到底できない、禁忌の巨大魔法。それが次元移動魔法」

 アカメは目を細め、少し眉間にしわを寄せながら、口調を早めにそう話す。
 クルミは、その切羽詰まったような様子を黙って見ているこもしかできない。
 声をかけようにも、アカメが話している内容の反分も理解していないのだから、話せるはずもなく。
 戸惑いがちなクルミを置いて、アカメは続けた。

「そんな魔法を使えたのは、あの状況であいつだけ。意識が途切れる刹那に感じた、命の日が消える気配は二つだった。一つはあいつでもう一つは私かと思っていたが、私は今ここに生きている。ということは別の命が消えたことを意味指す。あの状況で命の灯火が消える気配を読み間違えたのなら、私と同じ方法であいつはどこかで生きているかもしれない。なんらかの方法であの世界に戻らないとも限らない。私はすぐにでもあの世界に、、、っ! 」

 そこまで吐き出して、アカメはハッと我に帰って顔を上げた。
 そしてクルミの驚いたような、惚けたような顔を見て再び押し黙る。
「す、すまない。取り乱してしまった」
「え、あ、いや、私は大丈夫だよ」
 クルミがそう言ったのを最後に、その場に沈黙が流れる。
 ただあるのは時々吹く風の冷たさと、目になぜか焼きついた、アカメの、苦しそうな、悲しそうな、そんな表情だった。
 二人はしばし押し黙り、二つの風がのんびり二人の間を通り過ぎた頃、色々考えを巡らせていたクルミはポツリとつぶやいた。

「アカメは、みんなのことが心配なんだね」

「あぁ。皆と約束をしたのだ。それを、果たさなければならない」

「そう。それは早く帰らなきゃね。、、、ねぇ、アカメは、自分が生きた世界が好きなの?」

「、、、好きかどうかと聞かれても、私には応えることはできないが、、、。そうだな。とてもかけがえかのないものなのだと、この世界で少し過ごして、そう思うくらいには、好きなのではないだろうか」

「そう、、、」

 冬の日差しが頬を、膝を、体を温める。
 しかし、こんな陽気な空であっても。

「それは、とても良いことね」

 二人の心を温めることは叶わなかった。








続く。
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