どうも異世界で超能力者になりました

AYAMI

文字の大きさ
23 / 28
番外編シリーズ

番外編 セレスティン=ジルバーナ「6」

しおりを挟む
場面は私が二つ名を貰ったところまで遡る。

「それにしても本当に立派になったもんだねぇ。とても12歳とは思えないよ…。所でお前さんこれからどうする?街に帰るのかい?」

「いえ、ソウルマザー。二つ名を頂いたとはいえまだ私は半人前です。もう暫く、魔法を磨くためにこちらにいさせて頂きたいと思っています。よろしいでしょうか?」

「あぁ、勿論。と言っても、セレスティン。お前さんのことだ。恐らくすぐに一人前になれるだろうがね。」

<英雄の右手>は笑いながら言う。

正直、私は故郷が恋しくなっていた。私がここに来てから手紙で向こうとやり取りをしているのだが、大分向こうも落ち着いたようで戻ってきても大騒ぎになることはないだろうと知らされていた。

それならば今すぐにでも戻りたいが、そういう訳にも行かない。二つ名を貰った今の状況で戻ったら大騒ぎになることはほぼ間違いない。

だからまだ故郷に帰ることはできないのだ。


「さて、セレスティン。ところでお前さんに渡したいものがある。着いてきておくれ。」

「はい、ソウルマザー。」

かなり堅苦しいように見える会話だがそんなことはない。

実際に会話している姿を見たらわかってもらえるだろうが、私と<英雄の右手>は孫とお婆さんのやり取りのように見えるくらい穏やかな表情で話している。

「これをお前さんに。」

<英雄の右手>に連れていかれたのは教会だった。そして<英雄の右手>は私に杖を差し出す。

「これは…なんですか?」

「こいつぁ「法王の杖」と言ってねぇ、使いこなすのがかなり難しい代物だよ。けれどセレスティン。お前さんになら使いこなせるはずさね。」

だが、使いこなせる以前の所で私は驚く。
「法王の杖!?それは…ソウルマザーの…!」

そう、<英雄の右手>が使用していた武器。それが「法王の杖」

「あぁ、確かにはあたしの元相棒、今のあたしゃあ見ての通り老いぼれでねぇ、相棒を満足に扱えんのさ。だからより真価を発揮させることのできるお前さんにあたしの相棒を任せるのさ。」

そう言って、いつものように笑う<英雄の右手>。しかし声は真剣味を帯びている。

「もうあの時の大戦を生き抜いたのも、生きてるのはあたしと<鬼神>くらいだ。ーー<鬼神>の方は年齢なんて関係ないだろうがーーこれからは若い者の時代だ。だから、頼むよセレスティン。老いぼれからの頼みだ。」 

私は震えそうになる声を押さえて、答える。

「はい、ディア・ソウルマザー(親愛なる魂の母)。確かに承りました」


それからさらに半年。1年という異例すぎる短い期間で修行を終えた私は、故郷へ帰ることにしたのだった。

<英雄の右手>は明るい表情で、しかしどことなく寂しげに

「そうかい。またこの老いぼれに会いに来ておくれよ。セレスティン=ジルバーナ。貴女に加護があらんことを」

そう言って見送ってくれた。

「はい、勿論です。ディアソウルマザー。貴女も加護があらんことを。」

 ~~~~~~~~

故郷の近くまでは馬車を使うことにした。馬車で故郷に行くとまた大騒ぎになってしまいそうなので、隣街からは徒歩で向かう算段である。

「この場所…!懐かしいなぁ。」

私は故郷近くある草原まで来ていた。この場所でルビンお姉ちゃんから魔法の基礎を学んだのだ。

思わず、草むらの中に寝そべる。とても心地がいい……。

「……ぁぁあああ!!!」

その声にうとうとしかけていた私の意識は一瞬で切り替わる。

今のは明らかに人の声だ。誰かがモンスターに襲われたのか?

「何はともあれ、行ってみるしかない…声は、、あっちからね。」

私は急いで音の発生源へ向かう。人命がかかっているかも知れないのだ。

「ん!…あれ……は…?」

そこにいたのは一匹のスライム。そして何やら見慣れない武器を持った一人の男。

私は気づかれないように気配を殺す魔法を使う。

「だぁありゃああああぁッッッッ!!」

男は声を上げながらスライムを切りつける。その速さは尋常ではない。魔法で視力を補助しなければ見えないくらいだ。

恐らくあの速さは身体能力を強化したルビンお姉ちゃんを凌駕している。

男は「剣のような武器」を鞘にしまう。呼吸は多少乱れているが明らかに常人ができるレベルではない。

「何者なの?あのおとーー!?」

私は驚愕の事実を目の当たりにする。

男が鞘に刀身をしまう瞬間、あの色覚えがあった。

「マナダスト鉱石を材料に使っている…!?」

そう、魔法を一切拒絶すると言われるマナダスト鉱石。だが魔法を拒絶するその性質は自身にも言えることなのだ。

武器に使うなど自殺行為に等しいと言っても過言ではない。

案の定、スライムはあれだけの攻撃を受けたのに再生を始める。

この辺りのスライムは強力すぎる物理耐性を持っているのだ。魔法耐性は皆無だが。

しかし、男はまた切りつける。

斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生……

同じようなことを何度も繰り返す。

流石に体力的に厳しいのだろうか。息もさらに荒くなってくる。

だが、男はーー笑っていた。苦しそうにしていながらも笑っていたのだ。

「まさか…物理攻撃だけで倒そうというの?」

それは不可能に近い。案の定、途中で諦めたのか、何か不満そうな表情で呟き、荷物をまとめるとどこかへ行ってしまっていた。

男が居なくなった頃、私は魔法を解く。

「はぁ…なんでずっと見てたんだろ…私…。」

私は何故かあの男から目を離すことができなくなっていた。

「まぁ、いいわ…。すっかり遅くなっちゃった、早く帰らないと。」

こうして、私は故郷までの道を急ぐのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき
ファンタジー
【読んでいただいて♡いただいて、ありがとうございます。王城編準備中のため、12月12日からしばらく更新お休みします。考えてた構成が「やっぱなんか違う」ってなり、慌てております…汗】 「こんな転生先だなんて聞いてないっ!」六年間付き合った彼氏に婚約を解消され、傷心のまま交通事故で亡くなった保育士・サチ。異世界転生するにあたり創造神に「能力はチートで、広い家で優しい旦那様と子だくさんの家庭を築きたい」とリクエストする。「任せといて!」と言われたから安心して異世界で目を覚ましたものの、そこはド田舎の山小屋。周囲は過疎高齢化していて結婚適齢期の男性なんていもしないし、チートな魔法も使えそうにない。創造神を恨みつつマニュアル通り街に出ると、そこで「魔力持ち」として忌み嫌われる子どもたちとの出会いが。「子どもには安心して楽しく過ごせる場所が必要」が信条のサチは、彼らを小屋に連れ帰ることを決め、異世界で保育士兼りんご農家生活を始める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...