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番外編シリーズ
番外編 セレスティン=ジルバーナ「6」
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場面は私が二つ名を貰ったところまで遡る。
「それにしても本当に立派になったもんだねぇ。とても12歳とは思えないよ…。所でお前さんこれからどうする?街に帰るのかい?」
「いえ、ソウルマザー。二つ名を頂いたとはいえまだ私は半人前です。もう暫く、魔法を磨くためにこちらにいさせて頂きたいと思っています。よろしいでしょうか?」
「あぁ、勿論。と言っても、セレスティン。お前さんのことだ。恐らくすぐに一人前になれるだろうがね。」
<英雄の右手>は笑いながら言う。
正直、私は故郷が恋しくなっていた。私がここに来てから手紙で向こうとやり取りをしているのだが、大分向こうも落ち着いたようで戻ってきても大騒ぎになることはないだろうと知らされていた。
それならば今すぐにでも戻りたいが、そういう訳にも行かない。二つ名を貰った今の状況で戻ったら大騒ぎになることはほぼ間違いない。
だからまだ故郷に帰ることはできないのだ。
「さて、セレスティン。ところでお前さんに渡したいものがある。着いてきておくれ。」
「はい、ソウルマザー。」
かなり堅苦しいように見える会話だがそんなことはない。
実際に会話している姿を見たらわかってもらえるだろうが、私と<英雄の右手>は孫とお婆さんのやり取りのように見えるくらい穏やかな表情で話している。
「これをお前さんに。」
<英雄の右手>に連れていかれたのは教会だった。そして<英雄の右手>は私に杖を差し出す。
「これは…なんですか?」
「こいつぁ「法王の杖」と言ってねぇ、使いこなすのがかなり難しい代物だよ。けれどセレスティン。お前さんになら使いこなせるはずさね。」
だが、使いこなせる以前の所で私は驚く。
「法王の杖!?それは…ソウルマザーの…!」
そう、<英雄の右手>が使用していた武器。それが「法王の杖」
「あぁ、確かにはあたしの元相棒、今のあたしゃあ見ての通り老いぼれでねぇ、相棒を満足に扱えんのさ。だからより真価を発揮させることのできるお前さんにあたしの相棒を任せるのさ。」
そう言って、いつものように笑う<英雄の右手>。しかし声は真剣味を帯びている。
「もうあの時の大戦を生き抜いたのも、生きてるのはあたしと<鬼神>くらいだ。ーー<鬼神>の方は年齢なんて関係ないだろうがーーこれからは若い者の時代だ。だから、頼むよセレスティン。老いぼれからの頼みだ。」
私は震えそうになる声を押さえて、答える。
「はい、ディア・ソウルマザー(親愛なる魂の母)。確かに承りました」
それからさらに半年。1年という異例すぎる短い期間で修行を終えた私は、故郷へ帰ることにしたのだった。
<英雄の右手>は明るい表情で、しかしどことなく寂しげに
「そうかい。またこの老いぼれに会いに来ておくれよ。セレスティン=ジルバーナ。貴女に加護があらんことを」
そう言って見送ってくれた。
「はい、勿論です。ディアソウルマザー。貴女も加護があらんことを。」
~~~~~~~~
故郷の近くまでは馬車を使うことにした。馬車で故郷に行くとまた大騒ぎになってしまいそうなので、隣街からは徒歩で向かう算段である。
「この場所…!懐かしいなぁ。」
私は故郷近くある草原まで来ていた。この場所でルビンお姉ちゃんから魔法の基礎を学んだのだ。
思わず、草むらの中に寝そべる。とても心地がいい……。
「……ぁぁあああ!!!」
その声にうとうとしかけていた私の意識は一瞬で切り替わる。
今のは明らかに人の声だ。誰かがモンスターに襲われたのか?
「何はともあれ、行ってみるしかない…声は、、あっちからね。」
私は急いで音の発生源へ向かう。人命がかかっているかも知れないのだ。
「ん!…あれ……は…?」
そこにいたのは一匹のスライム。そして何やら見慣れない武器を持った一人の男。
私は気づかれないように気配を殺す魔法を使う。
「だぁありゃああああぁッッッッ!!」
男は声を上げながらスライムを切りつける。その速さは尋常ではない。魔法で視力を補助しなければ見えないくらいだ。
恐らくあの速さは身体能力を強化したルビンお姉ちゃんを凌駕している。
男は「剣のような武器」を鞘にしまう。呼吸は多少乱れているが明らかに常人ができるレベルではない。
「何者なの?あのおとーー!?」
私は驚愕の事実を目の当たりにする。
男が鞘に刀身をしまう瞬間、あの色覚えがあった。
「マナダスト鉱石を材料に使っている…!?」
そう、魔法を一切拒絶すると言われるマナダスト鉱石。だが魔法を拒絶するその性質は自身にも言えることなのだ。
武器に使うなど自殺行為に等しいと言っても過言ではない。
案の定、スライムはあれだけの攻撃を受けたのに再生を始める。
この辺りのスライムは強力すぎる物理耐性を持っているのだ。魔法耐性は皆無だが。
しかし、男はまた切りつける。
斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生……
同じようなことを何度も繰り返す。
流石に体力的に厳しいのだろうか。息もさらに荒くなってくる。
だが、男はーー笑っていた。苦しそうにしていながらも笑っていたのだ。
「まさか…物理攻撃だけで倒そうというの?」
それは不可能に近い。案の定、途中で諦めたのか、何か不満そうな表情で呟き、荷物をまとめるとどこかへ行ってしまっていた。
男が居なくなった頃、私は魔法を解く。
「はぁ…なんでずっと見てたんだろ…私…。」
私は何故かあの男から目を離すことができなくなっていた。
「まぁ、いいわ…。すっかり遅くなっちゃった、早く帰らないと。」
こうして、私は故郷までの道を急ぐのだった。
「それにしても本当に立派になったもんだねぇ。とても12歳とは思えないよ…。所でお前さんこれからどうする?街に帰るのかい?」
「いえ、ソウルマザー。二つ名を頂いたとはいえまだ私は半人前です。もう暫く、魔法を磨くためにこちらにいさせて頂きたいと思っています。よろしいでしょうか?」
「あぁ、勿論。と言っても、セレスティン。お前さんのことだ。恐らくすぐに一人前になれるだろうがね。」
<英雄の右手>は笑いながら言う。
正直、私は故郷が恋しくなっていた。私がここに来てから手紙で向こうとやり取りをしているのだが、大分向こうも落ち着いたようで戻ってきても大騒ぎになることはないだろうと知らされていた。
それならば今すぐにでも戻りたいが、そういう訳にも行かない。二つ名を貰った今の状況で戻ったら大騒ぎになることはほぼ間違いない。
だからまだ故郷に帰ることはできないのだ。
「さて、セレスティン。ところでお前さんに渡したいものがある。着いてきておくれ。」
「はい、ソウルマザー。」
かなり堅苦しいように見える会話だがそんなことはない。
実際に会話している姿を見たらわかってもらえるだろうが、私と<英雄の右手>は孫とお婆さんのやり取りのように見えるくらい穏やかな表情で話している。
「これをお前さんに。」
<英雄の右手>に連れていかれたのは教会だった。そして<英雄の右手>は私に杖を差し出す。
「これは…なんですか?」
「こいつぁ「法王の杖」と言ってねぇ、使いこなすのがかなり難しい代物だよ。けれどセレスティン。お前さんになら使いこなせるはずさね。」
だが、使いこなせる以前の所で私は驚く。
「法王の杖!?それは…ソウルマザーの…!」
そう、<英雄の右手>が使用していた武器。それが「法王の杖」
「あぁ、確かにはあたしの元相棒、今のあたしゃあ見ての通り老いぼれでねぇ、相棒を満足に扱えんのさ。だからより真価を発揮させることのできるお前さんにあたしの相棒を任せるのさ。」
そう言って、いつものように笑う<英雄の右手>。しかし声は真剣味を帯びている。
「もうあの時の大戦を生き抜いたのも、生きてるのはあたしと<鬼神>くらいだ。ーー<鬼神>の方は年齢なんて関係ないだろうがーーこれからは若い者の時代だ。だから、頼むよセレスティン。老いぼれからの頼みだ。」
私は震えそうになる声を押さえて、答える。
「はい、ディア・ソウルマザー(親愛なる魂の母)。確かに承りました」
それからさらに半年。1年という異例すぎる短い期間で修行を終えた私は、故郷へ帰ることにしたのだった。
<英雄の右手>は明るい表情で、しかしどことなく寂しげに
「そうかい。またこの老いぼれに会いに来ておくれよ。セレスティン=ジルバーナ。貴女に加護があらんことを」
そう言って見送ってくれた。
「はい、勿論です。ディアソウルマザー。貴女も加護があらんことを。」
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故郷の近くまでは馬車を使うことにした。馬車で故郷に行くとまた大騒ぎになってしまいそうなので、隣街からは徒歩で向かう算段である。
「この場所…!懐かしいなぁ。」
私は故郷近くある草原まで来ていた。この場所でルビンお姉ちゃんから魔法の基礎を学んだのだ。
思わず、草むらの中に寝そべる。とても心地がいい……。
「……ぁぁあああ!!!」
その声にうとうとしかけていた私の意識は一瞬で切り替わる。
今のは明らかに人の声だ。誰かがモンスターに襲われたのか?
「何はともあれ、行ってみるしかない…声は、、あっちからね。」
私は急いで音の発生源へ向かう。人命がかかっているかも知れないのだ。
「ん!…あれ……は…?」
そこにいたのは一匹のスライム。そして何やら見慣れない武器を持った一人の男。
私は気づかれないように気配を殺す魔法を使う。
「だぁありゃああああぁッッッッ!!」
男は声を上げながらスライムを切りつける。その速さは尋常ではない。魔法で視力を補助しなければ見えないくらいだ。
恐らくあの速さは身体能力を強化したルビンお姉ちゃんを凌駕している。
男は「剣のような武器」を鞘にしまう。呼吸は多少乱れているが明らかに常人ができるレベルではない。
「何者なの?あのおとーー!?」
私は驚愕の事実を目の当たりにする。
男が鞘に刀身をしまう瞬間、あの色覚えがあった。
「マナダスト鉱石を材料に使っている…!?」
そう、魔法を一切拒絶すると言われるマナダスト鉱石。だが魔法を拒絶するその性質は自身にも言えることなのだ。
武器に使うなど自殺行為に等しいと言っても過言ではない。
案の定、スライムはあれだけの攻撃を受けたのに再生を始める。
この辺りのスライムは強力すぎる物理耐性を持っているのだ。魔法耐性は皆無だが。
しかし、男はまた切りつける。
斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生、斬る、再生……
同じようなことを何度も繰り返す。
流石に体力的に厳しいのだろうか。息もさらに荒くなってくる。
だが、男はーー笑っていた。苦しそうにしていながらも笑っていたのだ。
「まさか…物理攻撃だけで倒そうというの?」
それは不可能に近い。案の定、途中で諦めたのか、何か不満そうな表情で呟き、荷物をまとめるとどこかへ行ってしまっていた。
男が居なくなった頃、私は魔法を解く。
「はぁ…なんでずっと見てたんだろ…私…。」
私は何故かあの男から目を離すことができなくなっていた。
「まぁ、いいわ…。すっかり遅くなっちゃった、早く帰らないと。」
こうして、私は故郷までの道を急ぐのだった。
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