17 / 27
第一章 異世界からきた姫様
第八幕 学校はタレント事務所かよぉ? かわいけりゃいいのかよぉ!!
しおりを挟む急いで、駆け足で校内に駆け込み、廊下の分かれ道まで皆で来たところだった。あいちゃんが急に立ち止まった。
「せんぱい、私は学年が違うので、教室はこっちですので、ここで」
「あ、いや、さっき、手、握ちゃってさ、ゴメン」
唐突なあいちゃんの台詞に、一瞬ドキッとして、ゆーまは顔を赤らめ、ギクシャクする。恥ずかしそうな顔で、いけないと思ったのか、必死に言った。
同様にあいちゃんも、そそくさと照れて躊躇(ためら)いを見せる。
「そんなことないですよ。私が倒れたの、必死に介抱してくれたし、でも、手を心配そうに握ってくれて、嬉しかったですぅ」
一瞬、ドキドキとした沈黙が走り、二人の間に、妙な感覚が浮かんでくる。ゆーまの後方で、ユニが廊下の掲示板に貼られていた、この学校出身のイラストレーターの、ゲーム作品のポスターを、指を咥(くわ)えて、不思議そうに見遣っていた。ラクリが近くにいて、何やら指差し解説していた。ポスターには何年も前に卒業したイラストレーターの名前が書かれていた。どうやら、ゆーまのお母さんの名前のようらしいのだが?
その模様に、ゆーまは全然、気付いてなかった。
「じゃ、また後で。あれ? ユニ達は? さっきまで、一緒にいたのに」
そして、あいちゃんと、ゆーまが手を振って別れた瞬間、ゆーまが教室に入ろうとすると、ふと、ユニはどうしたのかと、気になり、ゆーまは廊下の後方を振り向いた。
しかし、そこにユニたち三人の姿はなかった。一体、どこに行ったのだろうか?
「(あいつら、どこに行ったんだ? 心配だナァ)ま、いっかぁ。時間だ。ギリギリセーフだ」
☆☆ ☆☆
「ふぅ、何とか間に合ったかぁ。ホームルームまで、後三分」
教室に入り、教室の時計を見遣り、ゆーまは席に着いた。不貞腐(ふてくさ)れた顔でバタンと、顔をうつ伏せる。
その時だった。
「ゆーまぁ!」
ユニだ、ユニが手を振りながら、明るく、可愛い声でゆーまのほうに近付いてくる。ゆーまの耳が、一度、聞いたら忘れないユニの声に反応し、ピクリと耳が動く。動くと同時に、うつ伏せていた顔を上げた。眠たそうな顔をしている。
「お、ユニ、どこ行ってたの?」
「ゆーま、ユニもこの学校に一緒に通うね」
ユニが嬉しそうな顔で、ゆーまの両手を握り、ピョンピョン跳ねながら言う。近くに、見知らぬ馴れ馴れしい素振りの子が二人いた。
「って、おい! 入学してネーだろ? 手続きは?」
ゆーまが、両手を握られて恥ずかしいのか、少々顔を赤らめながら、照れくさそうにいう。
「入学しちゃった! じゃーん! これ、生徒手帳だよ」
「えぇぇッ、うそーぉ! ほんとに判子押してるぅ!」
ユニが誰かから、もらった生徒手帳を開いて、ゆーまに見せた。そこには、ユニのカワイイ笑顔満面の写真と、証明の判子があった。唐突の出来事に、信じられないと言った面持ちで、ゆーまは垣間見た。
「水着っていう、ゆーまが好きな格好で、校長先生に話ししたら、可愛いから良いって!」
ユニがエヘッと、微笑しながら能天気な声で言う。
「って、おい、誘惑したのかよぉ! あのエロ校長、ここはタレント事務所かぁ!」
エロ校長の姿が浮かび、ゆーまは、余りの出来具合に、呆れた顔をする。そんな誰でもでいいのかと。更に、憶測が走る。
「で、そこに、一緒に付いて来ている、妙な帽子被った男と、胸元セクシーに開いてレースクイーンみたいな超ミニスカ履いた女の子は、もしかして、ラクリとピット?」
「よく判ったな、婿殿!」
「そうダスよ!」
「って、わかるわぁ、その格好みたら! 服に羽根のマーク入ってるし、魔法タブレットと魔法ペン持ってるし、はぁ……」
ゆーまは溜息をつく。
「もしかして、ラクリとピットも入学したわけ?」
「わしは、ユニ様の世話係じゃ。入学はしてないが、仮入学ということにしてもらったじゃ。一緒にいて当たり前なのじゃ! 学校にいる時は、妖精の格好じゃ拙(まず)いから、人間の格好に変身魔法トランスでなったわけじゃよ!」
「我輩もダス!」
懸念して、ゆーまが問い質(ただ)した時だった。誰かが、割って入った。
「せ、せんぱい、その隣にいる可愛い子はだ、誰ッスか?」
「あぁ、明日希(あすき)かぁ!」
一学年下のクラスのゆーまの後輩の明日希だ。長い前髪に黒髪の、一見、普通の少年だ。手に、デジタルビデオカメラを持っている。
「まぶしいッ☆ 天使ッス♡ くらくらするッス。超かわいいっす♡ 目の前に僕の天使がいるッス♡」
明日希は、手に、持っていたデジタルビデオカメラを、顔がアップで映るくらいユニに近付け、必死に四方八方から、素早いスピードで動き回り、ユニを撮り捲(まく)る。ユニは、不思議そうな顔をし、首を傾げる。近くにいたラクリが、眉毛を吊(つ)り上げていた。
「僕は、派疎見明日希(ぱそみ・あすき)っていうっす。よろしくッス」
鼻息を荒くし、明日希はデジタルビデオカメラを、軽快に動かしながら、甲高い声で言う。
「ユニっていうの。ヨロシクネ」
ユニは、撮られているにも拘(かかわ)らず、全く嫌そうにもしない。普通なら、女の子は嫌がるのだが、許容性が高いのか、魔法の国では、姫様で見られる存在だからなのか、困惑もしなかった。逆に、カメラに笑顔で手を振っている。
「ヨロシクネっすか♡ かわいいっす。ユニさん、こっち向いてぇくださいっす」
益々、明日希が興奮し、荒い鼻息を活発に出し、ビデオを回す。
「明日希、ビデオ、回すな!」
あんまり、明日希のユニを撮る姿に焼き餅を妬(や)いたのか、ゆーまは、苦言を明日希に放つ。ほんとに困った奴だと言った面持ちだ。
「イいっす。イいっす♡超かわいいっす♡」
ユニの笑顔に悩殺されたのか、もう、誰も止められなかった。ゆーまの注意も見ず知らず、更に更にビデオを回し出した。
「チェンジ、むぎゅ♡」
「こらぁ~。ユニ、教室で水着になるナァ~」
なんと、一瞬の間に、ユニが、魔法服で服装をチェンジし、水着姿になっていた。席から立ち上がり、ゆーまは、恥ずかしそうに頓狂(とんきょう)な面持ちで大きな声を上げる。
「えへへ、かわいいでしょ、ゆーまぁ」
ユニは、教室にいたクラスメイトから、視線の的だが、恥ずかしがることもなく、水着姿で大胆且(か)つ、次から次に、セクシーなポーズを取る。
「そりゃ、かわいいけどさ、お願い、しないで。男子生徒の目に毒だから制服にチェンジしてくれ」
顔をちょっと横に向け、ドキドキ顔で、ゆーまは、そそくさという。
教室にいた、男子生徒の目がハートになり、視線を釘付けにしている。男のサガだ。
「姫様、はしたないです」
ラクリが、咳払(せきばら)いをし、ユニの肩をポンと叩く。
「うそだよーん。チェンジ」
ピカァ!
何と、今度は、一瞬のうちに魔法服でゆーまの学校の女子生徒の制服姿にチェンジしていた。
「え、さっき水着だったんじゃ?」
クラスメイトから不思議の声が飛ぶ。また、視線が釘付けだ。可憐(かれん)なポーズをユニは取る。その姿は姫様らしくファッショナブルで、高貴な感じがした。
「どう、ゆーまぁ? ユニの制服姿!」
「かわいいよ、いけてる」
「でしょ。でしょ」
ユニはゆーまの返事にやったと言った面持ちで、嬉しそうな顔をし、その場で無邪気に飛び跳ねた。
「超かわいいっす。ユニさん、こっち向いてぇ~」
明日希が、猛烈夢中だった。誰にも止めようがなかった。
「(あいつ、またビデオ回してる)」
もう、ふぅと溜息を付き、ゆーまは呆れ顔だった。
「先輩、あんな超可愛い子と一体、どういう関係なんですか?」
明日希はゆーまの両肩を手で握り、顔を近付けて、問い質(ただ)した。
「あのなぁ、それがなぁ、複雑でなぁ」
右頬を指で撫(な)でながら、困惑した顔で、ゆーまはいう。喋(しゃべ)りたくない模様だ。
だが、その時だった。口を滑らす奴がいた。
「あたしは、ゆーまの許婚(いいなずけ)だよ」
「い、許婚(いいなずけ)ぇ! うそでしょ~?」
「ほんとだよ。ね、ゆーまぁ♡」
ユニが言う。ゆーまは、言いたくないことを言われ、嘆息気味だ。
「お、おん、まぁな」
ゆーまは仕方なく、溜息を付きながら返事を返した。
「先輩、いつから、女の子に手を出すのが、そんなに早くなったんです」
「て、違うよ。そうじゃなくてさ、あぁ、もう、説明するのがめんどい……」
明日希の問いに、ゆーまは、少し頭をムシャぼる。ユニが、ウフフと言った面持ちで不思議そうに見ている。明朗だ。ゆーまは、腕時計を見遣った。
「おい、もうチャイムが鳴るぞ。明日希、教室に帰らなくていいのか?」
「くそッス。ユニさんとのパラダイスの時間が……。先輩、またっす!」
教室の壁掛け時計を見遣り、明日希は飛び跳ねながら教室を去っていく。
「天使ッス♡」
「あほか(走りながら跳んで言ってる)ふぅ、あいつといると飽きないけど、デジビデ、デジカメ撮り捲(まく)るのは、困ったやつだな」
廊下を嬉しそうにはしゃぎながら、去る明日希を見て、ゆーまは、呆れ声で、ジト目で見遣る。ユニは、教室全体を首を振り見遣っていた。ちょこんと、ゆーまの傍にいた。
暫くそうしているうちに、チャイムが鳴った。生徒が皆、席に着いていく。
☆☆
第九幕につづく。Up予定。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる