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第二十六幕 えぇッ!! 拝むと虜にされるぅッ、しんじらんないぃ~?! 勇者解任してくれぇぇッ!!
しおりを挟むその頃、ゆーまとピットは、本堂の前に偽物の草履とは知らず、拝もうとしていた。
「さてと、ピット、皆の草履、置いて、拝もうぜ」
「わかったダス」
ピットは、明るい声で軽快に言う。ふと、その時、ゆーまの動きが、ピクリと止まった。
「変だな、ユニたち先に行ったのに、ラクリもヴィオラも、リンもいない」
ゆーまが、妙なことに気づく。ピットが、不可解な顔をし、すぐに言い返した。
「みんな、どっかで、休んでるんじゃないダスか?」
「そうだろうな。あいつら、素っ飛んでいったもんな。きっと、待ちくたびれてんだろうぜ」
そういい、持っていた草履をゆーまは、次々と台に置いていく。
「よし、全部、草履、置けた。他にも一杯、置いてあるなー。みんなよっぽど恋愛成就したいんだな」
ゆーまは、手を合わせ、ポンポンと叩こうとする。ピットが、聞きにくいことを言ってきた。
「ムコ殿は、誰が、好きダスか?」
「行き成りどうしたんだよ。誰が、好きとかは特にないよ。だけど気になる子はいるな……」
少しテレた顔で、ゆーまは言う。確かにいつもは、ユニたちがいて、こういう話は出来ないが。
ピットは微笑し、首を傾げた。
「さて、拝むぞ! 手をたたくぞ、ピット!」
「手を叩くダスか?」
ゆーまが、ピットに手を叩くポーズを見せる。釣られて、ピットが、同じポーズをする。
「こっちの国では、手を合わせて、叩くのが普通なんだよ」
「では!」
ピットがそう言って、ゆーまも叩こうとした矢先だった。
「ちょっと、待ったぁー」
「あの声は、リン!」
リンだ、リンが俊足に飛んできた。血相が、変わっている。
「ゆーま、絶対に拝むんじゃないよ!」
「え、何で、これって、リンのもあるだろう?」
「それは、ユニが、魔法で阿蓮姫の草履と擦り替えてんだよ!」
「な、なにぃ? 阿蓮姫だって? んな、馬鹿な。この世にいねーじゃねーかよ」
「それがさ、この世に生きて出てきてるんだよ!」
「ぇえぇッ、うそぉ!」
ゆーまは、唖然となり、口をポカンと開ける。リンが気配を感じたのか、後ろを振り向いた。その時だった。
「おほほほほ、あなたね、私(わたくし)の草履で拝もうとしていたのは」
阿蓮姫だ。後ろから追って、ユニたち全員もやってきた。
「あ、足がない? しかも、浮いてる? だ、誰? この人、ユニ?」
「単刀直入に言うけど、あの伝説の阿蓮姫だよ」
ユニが、そそくさと明るく可愛い声でいう。
「ま、マジかよぉー」
「てへへ、あたしが、魔法で出しちゃったの」
頭の前で合掌し、ユニは、ゴメンと済まなさそうな顔をした。
「でも、やっぱり、きれかったんだな」
「ゆーまぁ、何、言ってるの、もう」
「うそうそ、ジョーダン。ジョーダン」
「むぅ、今の冗談に聞こえない。ユニって人がいるのに」
ユニが、ヤキモチを妬いて不貞腐(ふてくさ)れた顔をする。ゆーまは、ギクリと拙(まず)い顔をしていた。
「おほほ、私の美しさに虜(とりこ)ですのね。初めまして、運命のお相手の阿蓮ですのよ」
「う、運命? 何故?」
パシコン!
「いてぇ、お前、なにすんだ!」
何と、近くにいた、夢吉の扇子の檄(げき)が飛んだ。どつかれて、ゆーまは、頭がすっ飛ぶ。
「オラのご主人様が言っているのに、ヌシは、何故、否定スルのなりか!」
「否定って、だってさ、草履、置いて拝もうとしただけだぞ!」
「ゆーま、拝んだら、その幽霊の魔法に掛るところだったんだよ」
リンが、横槍を入れる。
「おほほ、私(わたくし)は人妻ですが、妖怪ではないですのよ。今は、君主もなく、み・ぼ・う・人♡ よろしく、お・ね・が・い♥」
うっふーんと、幽霊の割には、セクシーポーズをとって、ゆーまを誘惑した。
「ひ、人妻? (お願い♥ って)」
ゆーまは、幽霊にも関わらず、鼻の下を伸ばしていた。当然、ユニとリンは、機嫌が悪かった。
「怪しいものではないですから、心配いりませんことよ」
「足もないし、十分、怪しい……」
ジト目で、ゆーまが捩(もじ)った時だった。突拍子もないことを言ってきた。
「決めましたわ。人妻ですが、主人をなくし、未亡人ですので、ゆーま様が振り向いてくれるまで、一緒に同行させてもらいますわ」
「えぇ、なにそれぇ!」「なんだとぉ~」
機嫌の悪かったリンと、被害者ゆーまが、同時に声音を上げた。驚きの色を隠せない。
「今日から仲間だね、いいよ」
「ユニ、あんた、何、言ってるの。悪くない人としても、恋敵が増えるのよ。しかも霊術を使う奴が」
リンが、啖呵(たんか)を切るように、大きな声で言った。ユニはどうとしたこともなかった。
「いいじゃない、別に。その方が賑(にぎ)やかで楽しいよ。ね、ゆーま」
ユニは、能天気に可愛い笑顔で返した。
「おん、まぁ、んぅ、別にいいよ。家、広いし。ユニや皆がいいなら」
ゆーまが、溜息を一瞬ついたものの、仕方ないと思ったのか、妥協し笑顔で言った。
「で、アエリアみたいな、阿蓮姫の傍にいる、喋(しゃべ)るそのクロネコは、なんて名前なの?」
「オラは、夢吉と申しますなり。それであって、阿蓮姫様の忠実な一の家臣なり」
「家臣? 夢吉か。いい名前だな」
「いやぁ、それほどでもぉ~」
夢吉は褒められてもないのに、照れて、天晴(あっぱれ)のポーズをとる。周りが、にこやかなムードに包まれた。
「(典型的な奴だ……)」
困った顔で、ゆーまは、ジト目で夢吉を見遣った。そして、アエリアの方に視線を送る。
「アエリア、良い友達ができたな」
「失敬な、私は人間だ」
アエリアはプンと、鼻を鳴らし、他所(よそ)を向く。
「もう、このまま、幽霊に持ってかれるのも、やだからね、あたいが草履、全て処分させてもらうよ」
「えぇ、あたしのもですかぁ?」
「あい、悪く思わないでね。今後のためよ。こんなもの使わなくても、フェアに行きましょ!」
そう言い、リンは、魔法剣アウトライザーを構えた。何やら、左手で魔法らしきものを行使している。
次の瞬間!
「魔法剣ファイアバイパー!」
「あぁ!」
「皆の草履が燃えてく!」
一瞬にして、リンの炎の技で草履が燃えて消えた。あいちゃんが残念そうな顔をする。
そして、リンは徐(おもむろ)に口を開いた。
「片付いたね、こうでもしないと、もしも、何か手違いで拝んだ瞬間にゆーまが幽霊の虜(とりこ)にされ
てたわよ」
仕方ないと言った感じだった。その時だった!
☆☆
おはようございます。
しばらく、更新できなくてすみません。
作者の時間の都合です
何回も見てくださっている読者さまには感謝です。
ほんとにありがとうごうざいます。
またおあいしましょう。
0
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