良い武器(斧)を見つけるために仕方なく勇者と魔王討伐に一緒に行ってあげる

ルーナ

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「じゃあ次はストーンスパイク!」

歩みは留めず、まるで世間話をするかのように林道を歩きながら魔法を唱える。相変わらず両手はリュックを支える帯を握っており一般的な魔法使いがみたらびっくりするような状態で唱えている。

魔法を唱えると間を置かずに目の前にやや茶色がかった光の環が見える。すると地面より無数の棘が現れ、リリムの目線先に合った木へ進んでゆく。まるでモグラが地表近くを進み、地表には柔らかい土が盛り上がってゆくようにも見える。実際は棘であり、地表に居ようものなら串刺しであろう。木に刺さると土のふくらみは止まる。

「どう?次はねー」
「ちょっと待った。使った後の魔法って跡が残るもんだよね?」
「そうなんだけど、昔お父さんに怒られちゃって。ほら棘出たまま危ないじゃない?だから魔法が当たった後一般の人ヶ怪我しないようにしろって」
「流石ガルム殿……」

いやいや、流石じゃないだろうとセルフ突っ込みを内心で繰り広げた。魔力によって起こされた事象は世界に干渉し行使することが出来る。攻撃することで相手にダメージを与えられることから魔力が具現化しており、攻撃を終わった後でもその形跡は消す事なんてできない。魔法が行われた痕跡を消すのは二倍の労力が必要になり、魔力もそれなりに必要だ。ぶっちゃげ魔法の扱いが上手でないと出来ない芸当である。

「勇者なんて呼ばれてるけど僕よりも規格外じゃないか」
「これでも小さいころ魔法も沢山練習したんだから」
「今でも小さいけどね」
「ドワーフではこれでも大きい方なのよ」

自称大人のレディであるが、見た目は12歳のヒューマンより歳下に見える。

「つぎは派手なやつ行くわよ」
「まだあるのかい?」
「使える魔法はいっぱいあるわよ。次のはちょっと時間がかかるのよね……」

言うは早くリリム立ち止まり目を閉じ、手の平を空へ向けた。レオンもつられるように立ち止まり、固唾をのんでそ見守った。上級、いや聖級くらいの魔法なのかもしれない。それなりに詠唱も長いし、高度な魔法である。暫く時間がかかるのかなと思っていたが数秒で……。

「えーっと……周囲の敵を倒しなさい。ニードルヘッド!」

手のひらから今までよりも大きな光の環が広がっていった。少し地面が揺れ、あたり一面が剣山のように地面から伸びた土の棘によって木々が穴だらけになっていた。

「これそのまま歩いていたら僕も危なかったんじゃない?」
「大丈夫よ。ちゃんと目で確認してからじゃないと危ないでしょ。唱える前に状況は確認するようにお父さんにきつく言われてきたから大丈夫よ」

ガルム殿は素晴らしい教育をしたもんだとレオンは思った。

リリムが周囲の棘をけした後、何かの声が聞こえてきた。

「魔物か?」
「魔物ね」
「魔力を感知したか、音で気付いたのだろう」
「ここら辺の魔物なら任せなさい。私の動きもしっかり確認したいでしょ?」

それらしいことを言いつつも、ただ体を動かしたかっただけであった。

警戒しているとすぐにガサガサと木々の音が大きくなってきた。リリムは腰のホルダーにかけてあった愛斧を持ち、音のする方へ構えた。飛び出してきたのはワーベア。戦闘力を持たない者だと驚異的な強さである魔物だ。一般の兵士でも数人がかりでないと苦戦してしまうほどである。強く下腿毛皮に覆われ刃が通りにくく、体躯もデカい。三メートルもある強靭な力の肺板一撃は大人一人を簡単に絶命させる程の威力がある。

「ぐおおぉぉぉぉぉおおお!!」
「ワーベアね。確かに危険な相手だけど……敵じゃないわ」

リリムは斧を両手に下段へ構え、リュックを背負っているとは思えないほどの速さでワーベアへ向かう。ワーベアは迎え撃つべく四つ這いより二足位へと立ち上がり威嚇をする。リリムはそのまま懐へ飛び込むと、ワーベアは待っていぞというかのように上段より右腕が振り下ろされてきた。リリムはそれをいとも簡単に斧を左へ切り上げ振り下ろされた腕を切り飛ばした。自分と比べ矮小な存在に腕が切り飛ばされ驚いてしまったワーベアは唸り声をあげながらたたらを踏んだ。その隙をリリムは逃さなかった。剛力を使った脚力でジャンプし一刀のもと首を切断した。

「どうかしら」
「凄いんだけど、むちゃくちゃというか……」

ワーベアの一撃に対抗して切り飛ばすなんてどんだけ怪力なんだとレオンは改めて思った。ワーベアはレオンでも倒せることは倒せるだろうが、まともに打ち合わず、避けながら少しずつダメージを蓄積すると言ったやり方だ。剣は斧ほど丈夫ではない。いくらスキルで強化しても切り飛ばすほどは出来ないだろう。

「ギガントトードなんて魔物はここら変にいなかったから驚いちゃったけど、ここら辺だとこんなもんよ。ワーベアがここら辺の山だと一番強いはずだし。それにしてももったいないわねクマ肉」
「え、食べるの」
「あたりまえじゃない。これも大事な命なんだから。カエルはちょっと無理だけど、クマ肉いは意外とおいしいわよちょっと臭いけど」
「そ、そうなんだ。王都では食べたことないなーって」
「これから旅に出るんだったら食べる機会もあるかしらね」

残念ながらワーベアの死体は放置することになった。

「まだ魔法あるけど見る?」
「いや、やめておこう。音は魔物を引き寄せてしまうし、早く王都へ行きたいからね」
「そう、それなら走るわよ。勇者なんだからそれくらい出来るでしょ?」
「この荷物でっ?分かった。走ろう」
「それでこそ勇者よ。どっちが早く着くか競争ね」

競争するの?そんな早く走る気なのか?レオンは不安に思った。いくら訓練を受けたとはいえ、勇者補正があるとしても山道は不慣れである。

「よーい、どん!」
「うわっ、はやっ」

絶対無理。もう姿が見えなくなってしまった。王都で育ったレオンと、山育ちのリリムではこの時点で差が生じている。

「はぁ、仕方ない。頑張って追いつくか。それにしても案だけ魔法使ったのに疲れすら見せないとかどんな化け物なんだか」

レオンは肩を落としながら、見えるはずもない背中を追った。



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