マサキは魔法使いになる

いちどめし

文字の大きさ
上 下
1 / 21

1-1 魔法使いにならないか?

しおりを挟む
 剣と魔法の世界っていうやつだ。
 昔やったことのある、古いテレビゲームのことである。捨てた覚えはないからおそらく押入れの中にしまってあるのだろうけれど、肝心のゲーム機の方が壊れてしまっため、今では中古で売ることぐらいにしか使えない。
 内容はあまり覚えていないけれど、簡単に言ってしまえば確か、強大な敵を倒すために旅をする、よくあるロールプレイングゲームだったはずだ。
 主人公のマサキは、剣士のくせに回復魔法をよく使っていた気がする。魔法が使えるわけだから当然魔法使いっていうやつがいて、そいつらときたら毒を一瞬にして消し去ったり、死んだ味方を蘇らせたり、剣なんかよりもずっと殺傷能力のありそうな攻撃魔法を平気で使ったりしているのだ。恐ろしいったらない。
 もちろんおれは、そのゲームの内容を非現実的だと言って否定するほど愚かではない。ゲームの中の世界はあくまでも架空の存在、フィクションなのだから、そこに魔法が溢れていようがモンスターがはびこっていようが、現実のおれが問題にする必要なんかはまったくない。
 そう。現実世界に生きるおれが気にする必要もないほど、魔法なんていうものはあり得ないものなのだ。誰かが魔法の存在を肯定するようなことを言えば、おれはその言葉を笑いながら跳ね除けるだろう。
 ところが、実際に魔法を肯定するようなことを言われたおれは、どうもその言葉を跳ね除けられそうにない。
 
「雅樹、おまえは将来、魔法使いにでもなってみないか」
 
 おれ、松尾雅樹は、将来魔法使いになれるのだそうだ。
しおりを挟む

処理中です...