マサキは魔法使いになる

いちどめし

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3-7 辻褄をあわせろ!

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「おかしいなぁ。おじさん、そんなこと言ってなかったのに」
「まあ、伝達ミスってやつだろうな。言い忘れることなんて、誰にだってあるよ」
「だけど連絡をとったのが、ええっとだいたいじゅう……二十時間かな。ああ、十五時間ぐらい前のことなんですよ? ひどいなあ、おじさん。そんなことは何よりも先に教えてくれるべきなのに」
 魔女はとんがり帽子を鷲掴みにして憤慨する。帽子がとれて露わになった頭はやっぱり金髪で、細くてさらさらなのであろうその髪には、恐ろしく魅力的な光沢があるのだった。初夏の日差しが見せる芸術品なのかも知れない。
 おれは今、こんなに素敵な金髪碧眼をだまくらかしているのだ。そんな事実がふっと頭の中に舞い降りたせいで、計り知れない罪悪感と、それ以上の興奮が沸きあがった。自分のことを変態かと疑いたくなるけれど、そこはそれ、なんとかしなければおれの日常が危ないのだから仕様がない。
「十五時間っていうことは、昨日の夜中かぁ」
 グローバルな匂いがする。昨日の何時と言わなかったのは、時差があるからなのだろう。
「それはマツオさん、うかつだったよなぁ」
 自分で言ってみて、やっと気がついた。昨日の夜中、いや今日の未明に連絡を取り合っていたのなら、昨日のうちに引っ越したというおれの嘘には、夜が明けるまでは今日のうちだ、という考えを全面に押し出したとしてもかなりの無理が出てきてしまうではないか。しかも、松尾一家が引っ越した後におれたち松林家が引っ越してきた、ということになっているのだから、これではさすがにつらいものがある。
 松尾一家が昨日の夜中まではこの家にいたのだとして、いつの間に松尾一家と松林家は引越しを済ませたのだろう。まさか、松尾一家がまだ家の中にいるというのに、松林家がどかどかと乗り込んできたわけでもあるまい。いったいどんな引越しをすれば、引越し初日の夕刻、少なくとも昨日の夜までは荷物さえ運び込んでいなかったおれたち松林家がこの場所に落ち着いていられるというのだろう。
 もっと早いうちに引越しを済ませたのだとすると、電話をしたのは既に家を出た後だ。家を出た後に電話をして引越しのことを何一つ話さないというのでは、いくらなんでも現実感がなさ過ぎる。
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