赤信号が変わるまで

いちどめし

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第二話

お話希望⑥

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 お話ししましょう。
 口に出してみて、やっと分かった。
 わたしが最初に言うべき言葉はこれだったんだ、と。
 長い間探し続けていたような気がする言葉は、言葉のキャッチボールが成立した途端に、何のこともなく見つかった。

 わたしが喜びに浸ろうとしていると、

「波長について質問したかったんですが」

 またもや腰砕けの質問。
 それでもわたしの喜びが冷めることはなかった。
 こうして質問をしてくれているということは、お話ししましょう、というわたしの言葉を拒絶しているわけではない、ということになるからだ。

「なんだ、そっちのことでしたか」

 とはいえ、わたしだって波長についてはよく分かっていない。
 今、こうして彼氏さんの目に映っているからには波長が合っているということになるのだろうけれど、それについて説明しろと言われてうまく言葉にできるほど、自分自身のこととはいえわたしは霊体というものについて詳しくなかった。

 そもそも波長という言葉自体が、霊としては先輩である、悪霊少女の受け売りだ。
 わたしが自分の姿を彼氏さんに見えるものとするのにあたって、波長云々をそれほど意識していたわけではないのだ。

「ラジオの電波みたいなものですよ。ダイヤルをひねって、いちばんよく聞こえるところに合わせるじゃないですか」

 よく分かりません、と言うのではわたしが幽霊であるという事実への信憑性が薄れてしまうような気がしたので、身近なものを例に出してお茶を濁すことにする。

 バックミラー越しの物欲しそうな目に応えるべく、続けて電波だの受信機だのという単語をそれらしく並べたててから、
「あ、どうしてわざわざ波長を合わせたんだろう、っていう顔をしてますね」

 少しだけわざとらしく、
「それは、あなたとこうしてお話をするためです」

 話題をもとに戻した。

「どうして」

 期待通りの反応。
 よかった、ちゃんとコミュニケーションがとれている。
 どうして、という質問に対する答えは決まっていた。

「ところで、彼女さんとはうまくいっていますか?」

 遠回しで、そして意地悪な返しではあるけれど、ゴールのはっきりとした問いかけだった。
 待っているのは簡単な詰将棋だ。

「ぜんぜんうまくいっていませんよ。この間、幽霊に遭遇してからというもの、ほとんど口もきいてくれません」

 自嘲気味に苦笑する彼氏さん。
 わたしが恋人のことを知っているということに対して、深く追求するつもりはないらしい。

「ですよね、逃げちゃいましたもんね」

 心の痛むことではあるものの、おおむね予想通りの二人の現状。
 わたしも苦笑というかたちで、如何とも言い難い感情をバックミラーに向ける。

 間接的にではあるけれど向かい合って、この場所で同じ空気を共有しているのだという感覚がわたしの中に不謹慎な喜びを生み出しかけた瞬間、彼氏さんの表情からは戸板返しのように苦笑が消え去った。
 わたしは落とし穴にでもはまってしまったかのような心境で、えっ、と小さく声を漏らした。

「知ってるんですか」

 語調こそ変わらず自嘲気味ではあるものの、真顔から繰り出されるその言葉は攻撃的にすら感じられる。

「はい、あの子から聞きましたし、それに、見たんですよ、あなたがビンタされるところ」

 わたしは彼氏さんの表情の変化などには気がついていないかのごとく平静を装って、苦笑を続ける。
 自分のペースを崩してしまっては、ゴールにたどり着けなくなってしまうのではないかという不安があった。
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