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第二話
お話希望⑦
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「グルだったんですか」
少々早合点の過ぎる問いかけではあったものの、彼氏さんがそう思うのも無理はないだろう。
彼にしてみれば恋路を邪魔した少女も、今、後ろに座っている得体の知れない女も、どちらも同じ場所に巣食う幽霊という点では区別のないものとして捉えられているのに違いないのだから。
それに、彼の言うようにあの夜の出来事に積極的に関わっていたわけではないにしろ、責任の一端か、そのほとんどがわたしにあることは否定のしようがない。
むしろ、わたしがいなければ起こることのなかった出来事であるとさえ言える。
わたしのせいなのだ。
あれから、何度も何度も繰り返してきた思考。
思い返すほどに襲い掛かってきた後悔や虚無感、その重みが、一挙にぶり返す。
グルだったんですか。
想定外の言葉ではなかったし、そう思われているのではないか、という覚悟もあったような気がする。
それでも、こうして目の前で発せられたその言葉はわたしの生易しい想像を遥かに超えて、重い。
わたしのせいなのだ。
虚勢によって形を保っていたわたしの気持ちが、音もたてずに萎んでいく。
わたしのせいなのだ。
だから、こうして彼氏さんの前に姿を現したのではないのか。
後づけにしろそうでないにしろ、それが今のわたしの原動力になっていたはずだ。
今一度バックミラーに目をやると、何かを思いつめたような表情の彼氏さんがそこにいた。
大丈夫、その表情に不信感はない。
きっと、わたしがあの子と協力して二人の仲を引き裂いただなんて、本気でそう思っているわけじゃあないのだ。
障害物に立ち止ってはしまったけれど、ゴールはまだ遠ざかっていない。
わたしのせいなのだ。だからこそ、やることは決まっている。
「あの」
わたしの思いが固まるか固まらないかというタイミングで、彼氏さんは突然こちらを振り向いた。
シートベルトを締めたまま腰をひねって後ろを見る、傍から見ているととても無理のある体勢だった。
「すみません」
それは今夜彼からかけられる最も大きな声。
わざとらしいほどにはっきりと感情の乗ったその一言は、彼が小さく頭を下げたことから謝罪の文句であることが分かる。
突然のことに散漫になってしまった思考をかき集めると、その謝罪が、わたしを疑ってしまったことへの謝罪であるのだという結論に達した。
ほら、やっぱり。
わたしの不安は、ただの杞憂だったんだ。
まったく、今夜はこんなことばかりが続く。
萎んでいた気持ちは、安堵から来る喜びでいっぱいになった。
「失礼ですね。グルだなんて、人聞きの悪いことを言わないでくださいよ」
強気な態度に見えたかも知れない。
それでもこれが、虚勢も弱気も失ったわたしの正直な言葉だった。
少なくとも、わたしはグルじゃない。
はっきりとそう告げたかったのだ。
最初からそうしていれば良いものを、わたしときたらうじうじと思い悩んでしまっていた。
「あ、違うんですか」
あっけなく晴れる疑い。
鏡越しではなく正面から向き合うかたちとなった彼氏さんの顔には、拍子抜けした、と文字で書いてあるかのようだ。
「違いますよ。わたし、あの子のいたずらとは、まったく関係ありません」
ちょっとした、いや、かなり大きな嘘。
せっかく晴れた疑いがぶり返すようなことはしたくなかったのだ。
罪悪感が身を縮める前に「ですが」と語気を強めて間を埋めると、
「幽霊仲間としては、ちょっと責任を感じているんですよ」
自分のペースを乱すことなく、たて続けに言葉を発する。
彼氏さんは無理のある体勢に疲れてきたのか、後ろを振り向いたままの格好でシートベルトをはずし、前席の隙間から身を乗り出してきた。
「だから責任を取らせてもらおうかな、と思っているのですが……」
近づいた彼氏さんの顔に、この夜最高の笑顔を向けて、
「どうでしょう」
首を傾けると、わたしはゴールテープを切った。
わたしのせいで距離の開いてしまった二人の関係を、わたしが修復させてあげたい。
それが、わたしが彼氏さんの前に現れた理由。
後づけであれ何であれ、それはわたしにとってとてもやりがいのある、使命のようなものであることに疑いはなかった。
少々早合点の過ぎる問いかけではあったものの、彼氏さんがそう思うのも無理はないだろう。
彼にしてみれば恋路を邪魔した少女も、今、後ろに座っている得体の知れない女も、どちらも同じ場所に巣食う幽霊という点では区別のないものとして捉えられているのに違いないのだから。
それに、彼の言うようにあの夜の出来事に積極的に関わっていたわけではないにしろ、責任の一端か、そのほとんどがわたしにあることは否定のしようがない。
むしろ、わたしがいなければ起こることのなかった出来事であるとさえ言える。
わたしのせいなのだ。
あれから、何度も何度も繰り返してきた思考。
思い返すほどに襲い掛かってきた後悔や虚無感、その重みが、一挙にぶり返す。
グルだったんですか。
想定外の言葉ではなかったし、そう思われているのではないか、という覚悟もあったような気がする。
それでも、こうして目の前で発せられたその言葉はわたしの生易しい想像を遥かに超えて、重い。
わたしのせいなのだ。
虚勢によって形を保っていたわたしの気持ちが、音もたてずに萎んでいく。
わたしのせいなのだ。
だから、こうして彼氏さんの前に姿を現したのではないのか。
後づけにしろそうでないにしろ、それが今のわたしの原動力になっていたはずだ。
今一度バックミラーに目をやると、何かを思いつめたような表情の彼氏さんがそこにいた。
大丈夫、その表情に不信感はない。
きっと、わたしがあの子と協力して二人の仲を引き裂いただなんて、本気でそう思っているわけじゃあないのだ。
障害物に立ち止ってはしまったけれど、ゴールはまだ遠ざかっていない。
わたしのせいなのだ。だからこそ、やることは決まっている。
「あの」
わたしの思いが固まるか固まらないかというタイミングで、彼氏さんは突然こちらを振り向いた。
シートベルトを締めたまま腰をひねって後ろを見る、傍から見ているととても無理のある体勢だった。
「すみません」
それは今夜彼からかけられる最も大きな声。
わざとらしいほどにはっきりと感情の乗ったその一言は、彼が小さく頭を下げたことから謝罪の文句であることが分かる。
突然のことに散漫になってしまった思考をかき集めると、その謝罪が、わたしを疑ってしまったことへの謝罪であるのだという結論に達した。
ほら、やっぱり。
わたしの不安は、ただの杞憂だったんだ。
まったく、今夜はこんなことばかりが続く。
萎んでいた気持ちは、安堵から来る喜びでいっぱいになった。
「失礼ですね。グルだなんて、人聞きの悪いことを言わないでくださいよ」
強気な態度に見えたかも知れない。
それでもこれが、虚勢も弱気も失ったわたしの正直な言葉だった。
少なくとも、わたしはグルじゃない。
はっきりとそう告げたかったのだ。
最初からそうしていれば良いものを、わたしときたらうじうじと思い悩んでしまっていた。
「あ、違うんですか」
あっけなく晴れる疑い。
鏡越しではなく正面から向き合うかたちとなった彼氏さんの顔には、拍子抜けした、と文字で書いてあるかのようだ。
「違いますよ。わたし、あの子のいたずらとは、まったく関係ありません」
ちょっとした、いや、かなり大きな嘘。
せっかく晴れた疑いがぶり返すようなことはしたくなかったのだ。
罪悪感が身を縮める前に「ですが」と語気を強めて間を埋めると、
「幽霊仲間としては、ちょっと責任を感じているんですよ」
自分のペースを乱すことなく、たて続けに言葉を発する。
彼氏さんは無理のある体勢に疲れてきたのか、後ろを振り向いたままの格好でシートベルトをはずし、前席の隙間から身を乗り出してきた。
「だから責任を取らせてもらおうかな、と思っているのですが……」
近づいた彼氏さんの顔に、この夜最高の笑顔を向けて、
「どうでしょう」
首を傾けると、わたしはゴールテープを切った。
わたしのせいで距離の開いてしまった二人の関係を、わたしが修復させてあげたい。
それが、わたしが彼氏さんの前に現れた理由。
後づけであれ何であれ、それはわたしにとってとてもやりがいのある、使命のようなものであることに疑いはなかった。
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