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第三話
作戦レポート①
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まず、彼氏さんが彼女さんを助手席に乗せてこの通りへやって来る。
これが作戦の大前提であり、決行の合図であり、かつ、唯一わたしの干渉することができない最も不確定な要素だった。
なにしろ、喧嘩別れをして間もない恋人を、その原因となった場所へ連れて行こうというのだ。
彼女さんの度量と彼氏さんの交渉術次第という、これはちょっとした賭けのようなものではあったのだけれど、この点はクリアできた。
夜になってから日付が変わる前には来ますという宣言通り、彼の車は現れた。
おおざっぱな時間指定ではあったものの、正確な時刻を知る術の少ないわたしにとってはきっちり何時何分と決められることの方が荷の重い話であったし、この場所に留まり続けている何年もの期間に比べれば、例えたった一晩を待ちぼうけたとしても、大して長い時間には感じなかったことだろう。
事実として、今から一仕事がんばってやろう、という生前以来の強い思いに駆られていたわたしには、あっという間の待ち時間だった。
次に、わたしが車の後部座席に侵入する。
ここでミスをすると計画が台無しになる、わたしにとっての正念場だ。
横断歩道の前に待機していたわたしは、二人の乗った車の姿を確認するとタイミングを見計らった。
信号で止まってくれれば話は簡単だったのだけれど、あいにくと青信号。
もちろんそんな事態は想定済みで、彼氏さんは計画通り、横断歩道に差しかかったところで車を減速させてくれた。事情を知っているわたしに言わせれば、それはとてもわざとらしい行為ではあったのだけれど、何も知らない彼女さんにとっては気に留めるほどのことではなかったはずだ。
後は、わたしが車体をすり抜けて侵入するだけ。
霊であるわたしにとってはそれほど難しいことでもなく、あっさりと後部座席に腰を下ろすことに成功した。
かくして、準備は整った。
彼氏さんと彼女さんとの関係がもとに戻る、いや、以前よりも強い信頼関係に結ばれるまでには、もはや時間の問題だった。
作戦名は、児童書のタイトルをそのまま引用して『泣いた赤鬼作戦』。
彼女さんの前で悪者、つまり幽霊であるわたしを彼氏さんが退治することによって勇気を示し、汚名を返上するという、とてもシンプルな計画だ。
いかにもうらめしそうにうつむきながら姿を現したわたしは、車内の空気が凍りついたのを感じて作戦の成功を確信した。
ここまでのお膳立てができていて、失敗するわけがなかった。
なにしろ、彼氏さんの一喝でわたしが姿を消せば、それで終わりなのだ。
彼女さんはわたしの思惑通り色を失っている様子だったし、バックミラー越しに一瞬だけ目を合わせた彼氏さんの表情には、作戦決行への意思が見て取れた。
完璧だった。
作戦は成功するはずだった。
何も起こらなければ、作戦は成功するはずだったのだ。
計画の仕上げの段階で、彼氏さんがわたしを追い払おうとした時、悪霊はその目の前に突然姿を現したのだった。
走行中のアクシデントであるにも関わらず、事故が起こらなかったのは不幸中の幸いというものだろう。
だけどわたしたちの立てた作戦は、彼氏さんの悲鳴によって見事に打ち壊されてしまった。
これが作戦の大前提であり、決行の合図であり、かつ、唯一わたしの干渉することができない最も不確定な要素だった。
なにしろ、喧嘩別れをして間もない恋人を、その原因となった場所へ連れて行こうというのだ。
彼女さんの度量と彼氏さんの交渉術次第という、これはちょっとした賭けのようなものではあったのだけれど、この点はクリアできた。
夜になってから日付が変わる前には来ますという宣言通り、彼の車は現れた。
おおざっぱな時間指定ではあったものの、正確な時刻を知る術の少ないわたしにとってはきっちり何時何分と決められることの方が荷の重い話であったし、この場所に留まり続けている何年もの期間に比べれば、例えたった一晩を待ちぼうけたとしても、大して長い時間には感じなかったことだろう。
事実として、今から一仕事がんばってやろう、という生前以来の強い思いに駆られていたわたしには、あっという間の待ち時間だった。
次に、わたしが車の後部座席に侵入する。
ここでミスをすると計画が台無しになる、わたしにとっての正念場だ。
横断歩道の前に待機していたわたしは、二人の乗った車の姿を確認するとタイミングを見計らった。
信号で止まってくれれば話は簡単だったのだけれど、あいにくと青信号。
もちろんそんな事態は想定済みで、彼氏さんは計画通り、横断歩道に差しかかったところで車を減速させてくれた。事情を知っているわたしに言わせれば、それはとてもわざとらしい行為ではあったのだけれど、何も知らない彼女さんにとっては気に留めるほどのことではなかったはずだ。
後は、わたしが車体をすり抜けて侵入するだけ。
霊であるわたしにとってはそれほど難しいことでもなく、あっさりと後部座席に腰を下ろすことに成功した。
かくして、準備は整った。
彼氏さんと彼女さんとの関係がもとに戻る、いや、以前よりも強い信頼関係に結ばれるまでには、もはや時間の問題だった。
作戦名は、児童書のタイトルをそのまま引用して『泣いた赤鬼作戦』。
彼女さんの前で悪者、つまり幽霊であるわたしを彼氏さんが退治することによって勇気を示し、汚名を返上するという、とてもシンプルな計画だ。
いかにもうらめしそうにうつむきながら姿を現したわたしは、車内の空気が凍りついたのを感じて作戦の成功を確信した。
ここまでのお膳立てができていて、失敗するわけがなかった。
なにしろ、彼氏さんの一喝でわたしが姿を消せば、それで終わりなのだ。
彼女さんはわたしの思惑通り色を失っている様子だったし、バックミラー越しに一瞬だけ目を合わせた彼氏さんの表情には、作戦決行への意思が見て取れた。
完璧だった。
作戦は成功するはずだった。
何も起こらなければ、作戦は成功するはずだったのだ。
計画の仕上げの段階で、彼氏さんがわたしを追い払おうとした時、悪霊はその目の前に突然姿を現したのだった。
走行中のアクシデントであるにも関わらず、事故が起こらなかったのは不幸中の幸いというものだろう。
だけどわたしたちの立てた作戦は、彼氏さんの悲鳴によって見事に打ち壊されてしまった。
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