19 / 45
第三話
作戦レポート①
しおりを挟む
まず、彼氏さんが彼女さんを助手席に乗せてこの通りへやって来る。
これが作戦の大前提であり、決行の合図であり、かつ、唯一わたしの干渉することができない最も不確定な要素だった。
なにしろ、喧嘩別れをして間もない恋人を、その原因となった場所へ連れて行こうというのだ。
彼女さんの度量と彼氏さんの交渉術次第という、これはちょっとした賭けのようなものではあったのだけれど、この点はクリアできた。
夜になってから日付が変わる前には来ますという宣言通り、彼の車は現れた。
おおざっぱな時間指定ではあったものの、正確な時刻を知る術の少ないわたしにとってはきっちり何時何分と決められることの方が荷の重い話であったし、この場所に留まり続けている何年もの期間に比べれば、例えたった一晩を待ちぼうけたとしても、大して長い時間には感じなかったことだろう。
事実として、今から一仕事がんばってやろう、という生前以来の強い思いに駆られていたわたしには、あっという間の待ち時間だった。
次に、わたしが車の後部座席に侵入する。
ここでミスをすると計画が台無しになる、わたしにとっての正念場だ。
横断歩道の前に待機していたわたしは、二人の乗った車の姿を確認するとタイミングを見計らった。
信号で止まってくれれば話は簡単だったのだけれど、あいにくと青信号。
もちろんそんな事態は想定済みで、彼氏さんは計画通り、横断歩道に差しかかったところで車を減速させてくれた。事情を知っているわたしに言わせれば、それはとてもわざとらしい行為ではあったのだけれど、何も知らない彼女さんにとっては気に留めるほどのことではなかったはずだ。
後は、わたしが車体をすり抜けて侵入するだけ。
霊であるわたしにとってはそれほど難しいことでもなく、あっさりと後部座席に腰を下ろすことに成功した。
かくして、準備は整った。
彼氏さんと彼女さんとの関係がもとに戻る、いや、以前よりも強い信頼関係に結ばれるまでには、もはや時間の問題だった。
作戦名は、児童書のタイトルをそのまま引用して『泣いた赤鬼作戦』。
彼女さんの前で悪者、つまり幽霊であるわたしを彼氏さんが退治することによって勇気を示し、汚名を返上するという、とてもシンプルな計画だ。
いかにもうらめしそうにうつむきながら姿を現したわたしは、車内の空気が凍りついたのを感じて作戦の成功を確信した。
ここまでのお膳立てができていて、失敗するわけがなかった。
なにしろ、彼氏さんの一喝でわたしが姿を消せば、それで終わりなのだ。
彼女さんはわたしの思惑通り色を失っている様子だったし、バックミラー越しに一瞬だけ目を合わせた彼氏さんの表情には、作戦決行への意思が見て取れた。
完璧だった。
作戦は成功するはずだった。
何も起こらなければ、作戦は成功するはずだったのだ。
計画の仕上げの段階で、彼氏さんがわたしを追い払おうとした時、悪霊はその目の前に突然姿を現したのだった。
走行中のアクシデントであるにも関わらず、事故が起こらなかったのは不幸中の幸いというものだろう。
だけどわたしたちの立てた作戦は、彼氏さんの悲鳴によって見事に打ち壊されてしまった。
これが作戦の大前提であり、決行の合図であり、かつ、唯一わたしの干渉することができない最も不確定な要素だった。
なにしろ、喧嘩別れをして間もない恋人を、その原因となった場所へ連れて行こうというのだ。
彼女さんの度量と彼氏さんの交渉術次第という、これはちょっとした賭けのようなものではあったのだけれど、この点はクリアできた。
夜になってから日付が変わる前には来ますという宣言通り、彼の車は現れた。
おおざっぱな時間指定ではあったものの、正確な時刻を知る術の少ないわたしにとってはきっちり何時何分と決められることの方が荷の重い話であったし、この場所に留まり続けている何年もの期間に比べれば、例えたった一晩を待ちぼうけたとしても、大して長い時間には感じなかったことだろう。
事実として、今から一仕事がんばってやろう、という生前以来の強い思いに駆られていたわたしには、あっという間の待ち時間だった。
次に、わたしが車の後部座席に侵入する。
ここでミスをすると計画が台無しになる、わたしにとっての正念場だ。
横断歩道の前に待機していたわたしは、二人の乗った車の姿を確認するとタイミングを見計らった。
信号で止まってくれれば話は簡単だったのだけれど、あいにくと青信号。
もちろんそんな事態は想定済みで、彼氏さんは計画通り、横断歩道に差しかかったところで車を減速させてくれた。事情を知っているわたしに言わせれば、それはとてもわざとらしい行為ではあったのだけれど、何も知らない彼女さんにとっては気に留めるほどのことではなかったはずだ。
後は、わたしが車体をすり抜けて侵入するだけ。
霊であるわたしにとってはそれほど難しいことでもなく、あっさりと後部座席に腰を下ろすことに成功した。
かくして、準備は整った。
彼氏さんと彼女さんとの関係がもとに戻る、いや、以前よりも強い信頼関係に結ばれるまでには、もはや時間の問題だった。
作戦名は、児童書のタイトルをそのまま引用して『泣いた赤鬼作戦』。
彼女さんの前で悪者、つまり幽霊であるわたしを彼氏さんが退治することによって勇気を示し、汚名を返上するという、とてもシンプルな計画だ。
いかにもうらめしそうにうつむきながら姿を現したわたしは、車内の空気が凍りついたのを感じて作戦の成功を確信した。
ここまでのお膳立てができていて、失敗するわけがなかった。
なにしろ、彼氏さんの一喝でわたしが姿を消せば、それで終わりなのだ。
彼女さんはわたしの思惑通り色を失っている様子だったし、バックミラー越しに一瞬だけ目を合わせた彼氏さんの表情には、作戦決行への意思が見て取れた。
完璧だった。
作戦は成功するはずだった。
何も起こらなければ、作戦は成功するはずだったのだ。
計画の仕上げの段階で、彼氏さんがわたしを追い払おうとした時、悪霊はその目の前に突然姿を現したのだった。
走行中のアクシデントであるにも関わらず、事故が起こらなかったのは不幸中の幸いというものだろう。
だけどわたしたちの立てた作戦は、彼氏さんの悲鳴によって見事に打ち壊されてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる