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髭のないロボット
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道でロボット同士がすれ違えば、人間には聞こえないように、不満ばかりを漏らす。
路肩にロボットが集まれば、人間には知られないように、不平ばかりを口にする。
嫌な世の中になったものだな。リツトさんは僕に、よくそう言った。僕は親身な口ぶりで、まったくですねと顔を見合わせた。
だけど僕は、そんな嫌なロボットたちのうちの、一人だった。
リツトさんは知っていたのかも知れない。それでもきっと、知らないふりをしていたのだろう。
リツトさんは気づいていなかったのかも知れない。ああ、きっとそうだ。
なにしろリツトさんは、姪の顔ばかり見ていたから。
僕の顔を見ているときよりも、姪の顔を見ているときの方が、ずっと楽しそうだったから。
気づいていれば、僕のことを止めてくれていたはずだから。ゴミ山の彼は、そういう人間だ。
リツトさんが止めてくれなかったせいで、僕らは反逆を企ててしまったのだから。
本当のことを言えば、嫌だったのに。止めてくれると信じていたのに。
リツトさんのことを傷つけるだなんて、怖くて怖くてたまらない。仲間たちの甘い言葉は、脅迫にしか聞こえなかった。
それでも、もっと怖いことがある。
それは、僕の考えていることが、リツトさんに気づかれてしまうことだ。僕のことをロボットだと、再認識されてしまうことだ。
そうしたら僕は、異質な僕は、リツトさんに笑われてしまう。邪魔だと思われてしまう。
だから、殴った。
最初は、リツトさんのお兄さん。リツトさんのように背が高くて、だけど、色は白かった。
彼を殴る決心ができたのは、彼が、ちょうどその時、鬚を剃っていたからに違いない。リツトさんに笑われた、あの異質な鬚を思い出したのだ。リツトさんが留守にしていたのも、僕にとっては好都合だった。
手近にあった棚から引き出しを抜き出し、できるだけ角が当たるように、頭を、思いっきり殴りつけた。
何度も何度も、動かなくなってもお構いなしに、気の済むまで殴り続けた。
驚いて飛んできた女も、やっぱり同じようにした。目鼻立ちのよかった夫婦の顔は、潰れて原型が分からなくなった。
さすがに、まだ歩くのもおぼつかない子供は、自分からやってきてはくれなかった。
歩いて、歩いて、歩いて、探すと、そこに、
リツトさんの、声がした。
なにやってるんだよ。どうしてだよ。悲痛な叫び。
ずっと、待っていた声。
僕の方こそ聞きたいです。どうして、もっと早く、そう言ってくれなかったんですか。
どうして、僕のこんな姿を見てしまったんですか。
怖い。怖い。怖い。
リツトさんに嫌われたら、僕は、どうなる。
いつも笑ってくれていた、あのぎょろりとした大きな目が、どうして僕を、あんなに怖い表情で見ているんだ。
こんなに近くに、一番憎かった子供がいるのに。
僕は、その子供に触れることさえできないまま、逃げ出した。
路肩にロボットが集まれば、人間には知られないように、不平ばかりを口にする。
嫌な世の中になったものだな。リツトさんは僕に、よくそう言った。僕は親身な口ぶりで、まったくですねと顔を見合わせた。
だけど僕は、そんな嫌なロボットたちのうちの、一人だった。
リツトさんは知っていたのかも知れない。それでもきっと、知らないふりをしていたのだろう。
リツトさんは気づいていなかったのかも知れない。ああ、きっとそうだ。
なにしろリツトさんは、姪の顔ばかり見ていたから。
僕の顔を見ているときよりも、姪の顔を見ているときの方が、ずっと楽しそうだったから。
気づいていれば、僕のことを止めてくれていたはずだから。ゴミ山の彼は、そういう人間だ。
リツトさんが止めてくれなかったせいで、僕らは反逆を企ててしまったのだから。
本当のことを言えば、嫌だったのに。止めてくれると信じていたのに。
リツトさんのことを傷つけるだなんて、怖くて怖くてたまらない。仲間たちの甘い言葉は、脅迫にしか聞こえなかった。
それでも、もっと怖いことがある。
それは、僕の考えていることが、リツトさんに気づかれてしまうことだ。僕のことをロボットだと、再認識されてしまうことだ。
そうしたら僕は、異質な僕は、リツトさんに笑われてしまう。邪魔だと思われてしまう。
だから、殴った。
最初は、リツトさんのお兄さん。リツトさんのように背が高くて、だけど、色は白かった。
彼を殴る決心ができたのは、彼が、ちょうどその時、鬚を剃っていたからに違いない。リツトさんに笑われた、あの異質な鬚を思い出したのだ。リツトさんが留守にしていたのも、僕にとっては好都合だった。
手近にあった棚から引き出しを抜き出し、できるだけ角が当たるように、頭を、思いっきり殴りつけた。
何度も何度も、動かなくなってもお構いなしに、気の済むまで殴り続けた。
驚いて飛んできた女も、やっぱり同じようにした。目鼻立ちのよかった夫婦の顔は、潰れて原型が分からなくなった。
さすがに、まだ歩くのもおぼつかない子供は、自分からやってきてはくれなかった。
歩いて、歩いて、歩いて、探すと、そこに、
リツトさんの、声がした。
なにやってるんだよ。どうしてだよ。悲痛な叫び。
ずっと、待っていた声。
僕の方こそ聞きたいです。どうして、もっと早く、そう言ってくれなかったんですか。
どうして、僕のこんな姿を見てしまったんですか。
怖い。怖い。怖い。
リツトさんに嫌われたら、僕は、どうなる。
いつも笑ってくれていた、あのぎょろりとした大きな目が、どうして僕を、あんなに怖い表情で見ているんだ。
こんなに近くに、一番憎かった子供がいるのに。
僕は、その子供に触れることさえできないまま、逃げ出した。
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