犬と歩けば!

もり ひろし

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第01章 さとし

07話 おばあちゃんに相談する母さん、さとしに何が?

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 病院からさとしの母さんへ連らくが入った。母さんはびっくりして仕事を早引きした。病室にはヒロちゃんと寺本がいた。母さんはさとしが無事であることを見とどけると、事のけいいをかんごしさんに聞いた。そして、さとしにたずねた。
「どうして海になんかに飛びこんだの!」
「おばあちゃんにもらった大切なコースターを海に落としちゃったんだよ。」
とさとしは言った。しかし、母さんにとってそれは、答えになっていなかった。そのコースターの大切さが母さんには伝わらなかったのだ。さとしは、この失望をどうやって伝えればいいのか、しくしくと泣きだしてしまった。しかし母さんは、なぜ泣くのか、その意味さえさっぱりわからなかった。
「またおばあちゃんに作ってもらいましょっ」
としか母さんには答えられなかった。さとしとコースターの間に何があるのか。さとしとおばあちゃんがすごした一週間の間に何かがあったのだろう。母さんは、すぐにおばあちゃんに聞いてみようと思った。

 母さんは、明くる日は会社を休んで、おばあちゃんの家をたずねた。おばあちゃんは朝の犬の散歩を終えたところだった。母さんはさとしが昨日、海に落ちたコースターを拾おうとしておぼれたことを、おばあちゃんに話した。そしてさとしがおとずれた一週間に何があったのか聞いてみた。
「たしかにさとしと約束したわ。来年の夏には犬を買ってあげると。けれども、それまではコースターのマルを思い出して、自分に本当に犬がかえるか、良く考えてみてと言ったわ。きっとさとしにとってコースターは、今の自分と犬をつなぐただひとつのものだったのかもね。お守りのように大切にしていたから」
とおばあちゃんは答えた。母さんはやっと、おぼろげながら、さとしがとった行動の意味をつかんだ。「わたしが思うよりずっとさとしは犬を求めていたのだ。あの子にはさびしい思いをさせている自覚があった。自分と犬をつなぐただひとつのものだったコースターが海のもくずと化してしまった。さぞかしつらかったであろう」
「それなら、もう一度さとしにコースターを作ってあげて」
と母さんはおばあちゃんにたのんだ。
「さとしがいるというなら作るわ。でも、さとしのあのコースターへの思いが宿る同じものを作ろうとするならむずかしいかもね。さとしにもう一度夏休みにばあちゃんの家をたずねて来るように言ってちょうだい」
とおばあちゃんは言った。

                                   つづく
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